ー第1夜ー
「神隠しだよ!」
一人の少女が胸を高鳴らせ、息遣いを荒くしながら僕に語りかける。
彼女は、望月鈴。親同士の仲がよいせいか、物心がついた時から一緒にいる。いわば幼じみという奴だ。
「ねえ、ちょっと聞いてるの?」
綺麗に整えた長髪を靡かせながら、鈴が少し不満そうな顔をしている。
「ああ、ごめん、なんの話だっけ?」
鈴は不満気な顔を通り越して、呆れの表情を浮かべながら答えた。
「もう! どうせまた下らない考えごとでもしてたんでしょ。そんな風だからクラスのみんなに ”宗一は何を考えているかわからない” って言われるんだよ」
今度は僕が不満気な顔を浮かべたが、話を聞いていなかった罪悪感もあり、感情を心の奥底に押し込めようと奮闘していると、再び、鈴が口を開いた。
「この頃、見晴村で起きている事件、きっと神隠しに違いないわ」
僕は不意をつかれたような口調で言い返した。
「神隠し?」「事件って、連続家出事件のこと?」
数年前から、見晴村では、中学生の少女が連続して家出をする事象が発生している。ある日を界に突如、姿を消し、両親が捜索届けをだすが数日後に必ず、少女直筆の手紙が届く。手紙の内容はなんだったかな。確か「みんなに直接お別れができないのは寂しいけれど、そろそろ行くよ。さようなら」だった気がする。
どうやら、鈴は連続家出事件と神隠しを紐付けて考えているようだ。
鈴はさっきまでの機嫌は嘘のように、軽快な口調で僕に話始める。
「そうよ! だっておかしいじゃない! この小さな村で連続して少女が家出をするだけでも不可解なのに、数年たった今もその1人も見つかっていないのよ、これを神隠しと言わず何というのよ」
鈴がいうことは飛躍しすぎている気がするが、確かにこの事件はおかしい。見晴村は山間部にある、広大な自然に四方囲まれた人口総数100名程度の小さな村だ。家出をするにも、こう小さな村では行く場所もないだろう。山越えをして隣町に向かうとしても、大人の男性でも最低1週間はかかる。小さな子供が動ける範囲は限られており、数日で発見されることは容易に想像がつく。対して今回の少女達は数年たっても誰1人として見つかっていない。それだけでなく、手紙が後日届くことから、郵便屋の履歴台帳に名前や届け日等の記録が残っていると推測できるが、何一つ残っていないというから不思議だ。こう偉そうに語っているが、全て村警察が述べていた内容だ。警察は、郵便屋内部に事件と関連した人物がいると睨んで捜査をしている。
僕が考えごとをしていることに痺れを切らしたのか、鈴があることを提案してきた。
「探してみない?」
僕は再び、不意をつかれたような口調で言い返した。
「ん? 何を?」
鈴は胸を高鳴らせながら勢いよく僕に語りかける。こんな鈴の緩急がついた雰囲気にはいつも圧倒されているが、どこか心地よさを感じる。
「家出した少女達を探してみようよ!」「丁度私も中学生だし、運がよければ、神隠しの正体を掴めるかも」
僕はため息混じりに鈴に答えた。
「どうせ1人じゃ怖いだけだろ」
鈴は、頬を赤らめ恥ずかしそうに俯きながら返事をした。
「えへへ。ばれた?」「でも宗一も気にならない?」
何かあった時どうしようという不安な気持ちを抱きつつも、得体のしれないものへの興味・関心が上回っているのか僕も、後ろめたさを残しつつ同意した。
「僕も少し気になるかも」「放課後から日暮れまでの間、山間部をたんけ、嫌、捜索してみようか」
危うく、山を探検したいという気持ちを言葉にしてしまうとこだった。そんな大したことではないけど、正直な気持ちを話す時はなぜか少しこそばゆい。
こうして、僕、神谷宗一と望月鈴は放課後から日暮れまでの間、神隠しの正体を調査するという名目上の捜索が始まった。




