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生産者の帰還

物語は再び始まる?

家族は最初こそ唖然としていた。

長女の葉月は普通の格好になっていた。実はこの子、少なくとも紫月が死ぬ前までは今どきのギャルみたいな恰好をしていて父といつも喧嘩をしていたのだった。

次男の皐月は来年受験生ということもあり勉強しているのか、メガネをかけていた。

次女の三日月は10歳になっていた。しかしやけに大人びているように見えた。しかしシヅキの顔を見るなり一番最初に大泣きしたのは誰でもなくこの子だった。

そして日月はというと昔は家の手伝いもせずに友達と遊んでばっかりだったのに、なんとしっかり家の手伝いを、それどころか夕飯をたまに作るまでに成長していた。

その後父、茂が仕事から帰ってくると仰天し過ぎてドアの窓を割ってしまった。

と、こうして夜には家族一同が今に集まった。

紫月は異世界での話を多分信じてもらえないだろうと思いながらも話すことにした。

ついでに信憑性を持たせるためにp能力も使って見せた。

「……紫月、お前本当に異世界に転生したのか」

「間違いない。トラックに轢かれて、その後死神に異世界に飛ばされて、で里帰りして来いって今度はこっちに」

父は半信半疑ながらも信じるようだった。

「兄さん、私は兄さんがゾンビになったのかと」

「葉月、それだとこの家がすごく危ない感じになるけど」

「いえ、兄さんゾンビは工作しかしない安全で無害なゾンビです」

「なんかすごい俺っぽいゾンビだな。あ、俺か」

「でもどちらかと言えばゾンビというよりもヴァンパイアですね。それでゾンビの体自作してそう」

「皐月、確かにやりそうではあるが流石に兄ちゃんはそこまでマッドなキチガイではないぞ」

最初は本物か疑っていた葉月や皐月もシヅキとの会話で本物と確信したのか、いつもと変わらない調子で軽口をたたいてくる。

「兄ちゃん。異世界ってどんな人いるの?」

「日月よ。世の中には知らない方がいいくらい変なやつもいるのさ」

「シヅにぃ、異世界で恋人で来た?」

「ハッハッハッ、三日月は随分と残酷なことを聞くようになったんだな。いるわけないだろ?」

「うん、やっぱり本物のシヅにぃだ!」

「おい、なぜその話で俺だと確信した。三日月ちゃんはお尻ぺんぺんかな?」

「いや! 女の子にそんなことしちゃ、め! だからね」

紫月はつい昨日までここにいたかのような気分になっていた。

死んだときは冷静でいられたのに、いざ家族に会ってみるとやっぱりここが自分の居場所だと思う。

このままずっとここにいて、異世界の事を忘れて……。

紫月はそこから考えるのをやめた。

なぜか考えてはいけない気がしたのだ。

その日の晩、家族は居間に布団を敷き詰めてみんなで寝ることにした。

弟妹共は昔のように紫月にくっついて、眠くなるまでおしゃべりをして、小さい子から順々に眠っていく。

そして紫月も眠りについた。

とても暖かく心地のいい布団で。



次の日、父は会社を休んだ。

みんなで遊びに行くことになったのだ。

と言っても昔よりまともになったとはいえ、まだまだ貧乏なうちは近くの運動公園に出向いた。

「父さん有給取っちゃったから存分に遊んでいいぞ!」

「兄ちゃん! キャッチボールしようよ!」

「よし、皆の者かかってこいや!」

紫月がそう言うと一同が一斉にボールを投げつけてくる。

キャッチボールが終わると次は川で水遊びをした。

葉月が思いのほか育っていたのでシヅキは驚いた。

「一年でいい感じに成長するもんだな」

「ちょっと、妹にそんなエッチな視線向けないでくれる?」

「シヅにぃ、私はどう?」

「うん、可愛いぞ三日月!」

「すっごい敗北感!」

三日月は背伸びしている感じが微笑ましかった。

「兄さん、見てください! ザリガニ先輩がいます」

「ああ、って、センパイででかくない?」

「ちなみにあれ、実はただの人形です」

遠目で見ているからわかりにくいが確かに模型だった。

「なんだよ。捕まえて食おうと思ったのに」

「わぁ、お魚センパイいっぱいだよ」

「日月までセンパイって、流行ってるのか?」

弟妹達が水浴びをしている中、父はそれを眺めながら釣りをしていた。

「お父さん、今日の晩飯釣っちゃうぞ~」

「お父さんファイト!」

母の声援を受け、さらにやる気を出す父。

「……だがわきまえていたか父よ。夢とはやがてことごとく、覚めて消えるのが通りだと」

紫月は知っていた。

父は釣りがクソ下手なのだ。


と、そんなこんなで日が昇り、沈んできた。

家族は家に帰り、大切なひと時を過ごしていた。

そして、紫月にもやって来た。


残酷なタイムリミットが。


「……」

ここで黙っていれば、紫月はこの世界に生を受ける。

そうすれば死んだことなどなかったことになって、異世界の事もなかったことになる。

ここで何も、言わなければいい。

……だが、それではだめだ。


だめ、なんだとシヅキは思った。


「みんな」

シヅキは家族に打ち明けた。

死神に言われたことを。

それを聞いたみんなは黙り込んだ。

そして、一番最初に三日月が口を開いた。

「つまり、名前書かなければ、シヅにぃはずっとここにいる。じゃあ書かない」

三日月の言葉に弟妹一同はうなづいた。

シヅキもこうなることは分かっていた。

それでも、言わなければならない。

「……お前たちの気持ちは、嬉しい。俺もこっちで暮らしたい。……でもダメだ。あっちには、あっちにも、俺を待ってる人がいる」

シヅキは声が震えた。

これは最悪の天秤だ。

どっちも等しく大切。しかしどちらか一方しか、選べない。

だが、シヅキはそれでも異世界に戻りたかった。

「こっちにももちろん、お前たちみたいに俺を必要としてくれる奴がいる。でも、あっちもそうなんだ。どうしようもない連中もいるし、変人や危険な怪物もいっぱいいる」

シヅキは一日家族と過ごした。

その一日はとても大切でかけがえのないものだった。


……それでも、忘れられない仲間たちがいたのだ。


「勘弁してくれ。ごめん、本当に。俺は、帰らなければならないんだ。俺を必要としている、ろくでもない仲間のところに」

シヅキはまた泣いた。

辛い。

苦しい。

離れたくない。

父さんとも母さんとも、葉月や皐月や日月や三日月、あんまりにも大切な人が多すぎる。

でも、行かねばならない。

「……紫月、父さんの言葉、いっつも口を酸っぱくして言ってたことを覚えてるか?」

父が優しい口調で語り掛けてきた。

「人の役に立てる、立派な人になりなさい。父さん、そう言ったな?」

「ああ、言った。確かに」

「そうだ。だから、俺はお前はここにいるべきではないと思う」

父は、茂はそう言うと紙に自分の名を記した。

「まったく、ここまで嫌な署名は生まれて初めてだ。でも、お前のためなら、父さんは喜んで書くぞ」

父は立派な字で書いてくれた。

今度はその紙を母が手に取った。

「母さんはいつもあなたの味方よ。だから、異世界でも胸を張って誰かのために物を作り続けなさい。それが、六月紫月でしょ?」

可愛らしい字だった。

弟妹達は顔をあげようとしない。

今にも泣きそうだった。

でも一番泣きそうなのはシヅキだった。

「お前たち、お前たちは兄ちゃんが人が困っていても見捨てるような人になってほしいか?」

みんな首を振った。

優しく子達にこんなことを言う自分はクソ野郎だとシヅキは思った。

でも、それでもシヅキは言わねばならない。

もうムツキシヅキは一人ではない。

こんな自分でも、仲間だと言ってくれる人がいるのだ。

「お前たちのことは大切だ。俺の大切な家族だ。お前たちにとっても、俺は大切か?」

みんなが首を縦に振ってくれるのが嬉しい。

そして、そんな子らにこんな話をするのがいかに残酷なことか。

シヅキは言葉に詰まった。

言えなかった。

ここまで自分を思ってくれる人に、そんな人には言えない。

「……兄ちゃんのことは大好きだ。だから俺、書くよ」

シヅキは驚いて顔をあげた。

日月が自分の名前を書いていた。

「約束、約束。また会えるよね」

「……ああ、ああ! 会えるとも、今こうして会えてるから、絶対!」

シヅキの言葉に安堵したのか、日月は笑顔を浮かべた。

葉月も名前を書き始めた。

「兄さん。大好き。……兄さんの幸せが私の幸せだから、私は笑顔で送り出すよ」

「葉月……」

「兄さん。僕も書きます。だから、また会いに来てください」

「皐月、分かってるとも」

葉月と皐月も書いてくれた。

本当に、優しい子たちだ。

「……シヅにぃ、寂しいよ……。シヅにぃがいないと、寂しいよ」

三日月はぐずり始めた。

シヅキはその小さな体を抱きしめてやった。

「三日月、ごめんな。勝手な兄ちゃんを許してな」

「うん、いいよ。でも、また会いに来てね」

シヅキは返事の代わりに頭を撫でてやった。


……そして、すべての署名が集まった。


「ありがとうな。俺の勝手に付き合ってもらって」

シヅキの体が消えていく。

署名を集めると強制的に異世界に戻す機能がついていたのだろう。

みんながみんな晴れやかな表情をしているわけではないが、シヅキを止めようとする人はいなかった。

「じゃあ、行くな」

「ああ、行って来い。胸を張って! 父さんの自慢の息子だからな」

……。


「これは最後の別れじゃないからさよならじゃなくて、行ってきますって言うな」


シヅキは消える寸前そう言った。

行ってきます。

そう一言。


『ああ、いってらっしゃい! 元気でな』


シヅキは姿を消した。

異世界に帰るのだ。



……。

「掴まれ」

気が付くと目の前に死神がいた。

「え、なんで」

「時間かかり過ぎだ。このままではお前の魂と肉体のリンクが切れて、マジで死ぬぞ」

「ファ!? マジで!?」

それはまずい。

折角快く送り出してくれた家族に申し訳が立たなくなる。

「やばいよどうすれば」

「だから、掴まれと言ってる」

シヅキは言われるがままにその手を掴んだ。

「上司にどやされるが、ここは真理の空間を飛んで短縮する」

そう言うと死神は宇宙のような空間にシヅキを引っ張って飛び込んだ。

「ここは!?」

「真理の凝縮された空間。人間が本来は入るべきではない場所。今回だけ特別だ。おかげで間に合いそうだしな」

そう言うと今度は見慣れた町が見えてきた。

リースだ。

「……いい旅になったか?」

死神は柄にもなくそんなことを聞いてきた。

「ありがとうとだけ言っておく」

「そうか。じゃあな」

死神はシヅキの魂をぶん投げた。

「すっごい乱暴!」



シヅキは病室で目が覚めた。

何とか間に合ったみたいだ。

しかし、病室を見渡すとまるでお通夜のような空気だった。

「あの、もしかしてここは霊安室で俺もしかして火葬前とかそんな感じすか?」

不安になって口を開いたがそれに部屋にいる一同は仰天し、みんな慌てふためいた。

そこでシヅキはああ、帰って来たんだな~としみじみ感じたのだった。


真面目回はしばらく休んでドエロ回に馬鹿話頑張るぞ!

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