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生産者の里帰り

時間ないので後で書きます。

あらかたの制圧を終え、部隊が一斉に穀物庫の中に突入した。

暗い穀物庫の中を照らすのは無理やりこじ開けた壁の穴から入る光だけであった。

そして、目の前に見える巨大な肉の塊が、マザーと呼ばれるそれなのだろう。

「デカい」

「生きてるか判別できないな。マスケット兵、射撃してみろ」

レオンの指示でマスケット兵が一斉に発砲する。

すると、マザーは小さく泣き声を上げた。

「衰弱してるな。今のうちに焼き払うか」

「焼くんですか?」

「ああ、こいつらの死骸は疫病の元になる。処分は迅速に、かつ確実に行う」

そうレオンが言うと油が室内に運び込まれ始めた。

レオンは各部隊に指示を出し、村中のゴブリンの死骸を集め始めた。

一気に焼却するらしい。

そんな時、マザーの体がかすかに動いたようにシヅキは見えた。

それは錯覚ではない。腕が徐々に上がっているのだ。

そして、その腕は勢いよくレオンに向かって振られる。

「教官!」

シヅキはレオンを蹴っ飛ばした。

そして………、その後のことをシヅキは覚えていない。



「久しぶり。いい時に来てくれた」

シヅキは見慣れた刑事ドラマでよく見る机に座っていた。

そして、シヅキに声を掛けたのはほかでもない。

死神である。

「俺は、死んだのか?」

「いや、死んでいない。俺が呼んだ」

「あんたが?」

「お前には私たちがこれからやろうと思っているサービスの被験者になってもらおうと思ってね」

死神は前回会った時よりも余裕があった。休みをもらえているのだろうか。

「俺たちは、新たなサービスとして一日限定の里帰りを企画してる」

「里帰り?」

「日本の家族、気になるんだろ?」

死神の言葉にドキッとする。

確かに気になるが、胡散臭くもある話だった。

しかし、それ以上に、シヅキはこの話に乗ってみたくなった。

「気に、なる」

「なら決定だな。注意事項が一つだけあるからよく聞け」

そう言うと死神は立ち上がり、ポケットから財布を取り出した。

「こいつは軍資金だ。ちなみに注意事項というのは財布ではなくこっちの紙だ」

死神に渡された紙には署名欄が並んでいた。むしろ署名欄しか印刷されていない紙を渡された。

「お前には三つの選択肢がある。日本で家族と会わずに見守るだけ。家族と会ってそのままそこで第二の人生を送る。そして、家族から署名をもらって異世界に帰る。だ」

「帰るためには、家族からの署名が必要なのか?」

「そう、家族全員のな。署名は代理を立ててもいい。家族限定だが。そして会わなければ署名はいらない。帰ってこれる。では良き旅を」

「え!? 待て、そんな唐突に!」

説明が終わったかと思ったらいきなり足元が沈み始める。

シヅキにはまだ聞きたいことが、そして心の準備があるのに問答無用であった。

そして、シヅキの意識はまた途切れた。



見慣れた風景。

超久しぶりに見る車。

機械にあふれるそこを紫月は知っている。

「日本……、あの死神野郎、心の準備位させてくれよ」

紫月はキレ気味に悪態ついた。

しかし、いつまでもここにいるわけにはいかない。

なぜなら、ここは天下の大道路。知り合いに会うと厄介なことになる。


「紫月? え、紫月なのか?」


ほれ見ろ。

会ってしまったよ知り合いに。

「はい? 私に事ですか?」

懐かしい顔があった。思わず出そうになった涙をグッとこらえる。

その人物は紫月の無二の友にして、紫月の黒歴史に深く関わる人物である。

「あ、すみません。あんまりにも友人に似ていたもので」

淳。

お前は変わらないな。

(お前の本を盗んでしまったときも、そんな優しい目で許してくれたよな)

紫月は昔のなつかしさに浸った。

とても優しくていいやつ。

優しすぎていっつも損ばっかして、でも紫月はそんな淳にいつも支えられていた。

「すみませんでした。……あの、あなたはどちらに行かれるのですか? 案内しますよ」

「いや、大丈夫です。目的地は決まってるので」

紫月はそう言うと淳の横を通り過ぎていった。

少し悲しそうな淳の表情が目に入った。

しばらく歩いて、紫月は最初はこのまま立ち去るつもりだったが堪らなくなった。

紫月は振り返った。


「淳! 俺は俺でうまくやってるから、お前もこっちで頑張れよ! 俺の友達、淳!」


紫月はそそくさと立ち去った。

淳は唐突な出来事にぽかんと口を開けていたが、やがて笑顔で頬を掻いた。

「俺が元気ないもんだから、化けて励ましに来たのか……。ったく、だったら最初から死んだりすんなよ」

淳は緩みそうな口元を押さえながら足元の石ころを蹴っ飛ばした。



紫月は家の近くまで来た。

変わっていない。

みんな元気だろうか。

紫月は心配で仕方がなかった。

しかしいつまでもここにいると見つかるかもしれない。

そして見つかれば署名をもらえないと帰れない。

「会わない方が、いいに決まってる」

このままここにいる選択肢もあるが、そうするとあっちにいる仲間たちを悲しませてしまう。

だから、会わない方が……。


「兄ちゃん! 兄ちゃんだ!」


だから、早く離れた方がいいと思っていたのにこれだ。懐かしさに、そして家族に見つかってほしいという紫月の願望が足を鈍らせていた。

駆け足でこちらに走ってくるその姿に紫月は涙腺がいよいよ爆発しそうになる。

日月、うちの三男坊だ。甘えん坊でいっつも兄ちゃん兄ちゃんって紫月の周りを走り回るいい子だ。

「お母さん、いい子にしてたから帰って来たよ! 兄ちゃんだ! 僕、悪いことしないでいい子にしてたんだ!」

「こら日月、お兄ちゃんが帰ってくるわけないで……しょ……」

俺の顔を見て母、美月が固まった。

紫月は母さん、帰ったよと言いたい気持ちでいっぱいになった。

でもいけない。

このままやり過ごせば、やり過ごせば何事もなく終わる。

(元気そうだからいいじゃないか。もう確認はできた。別人だって言って、全部なかったことにすれば、それで)


紫月には、出来なかった。


「母さん、紫月、帰りました」

ボロボロと柄にもなく涙があふれてくる。

異世界でいろんな仲間に恵まれたけど、心のどこかでは寂しかった。

だからだろうか、今仮に拒絶されようとも紫月には我慢できない。

所詮は17歳。まだまだ子供なのだ。


「……お帰りなさい、お帰りなさい……!」


拒絶してくれれば振出しに戻れたのに、なんで受け入れちゃうんだよ。

不審者だろ常識的に考えて。

死んだはずの息子が帰ってくるわけないのに常識的に考えて。

それでも、母は泣きながら帰りを迎えてくれた。

紫月は日月をぎゅっと抱きしめる。

母もそんな紫月を固く抱き留めた。

「ありがとう。帰ってきてくれて」

「兄ちゃん、寂しかった」

「ごめん、ごめんなさい、ごめんなさい……!」

紫月はただ謝り続けた。

ただただ、謝り続けた。


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