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79 桜



八重さんとは、その後少し今の日本と昔の日本の話をしていた。

「あー、龍馬くんね。あの人そんな有名になっちゃったのかー。龍馬くんは昔からイケメンだったよー。」

「龍馬くんって…知り合いなんですね…。でも、八重さんもかっこいいじゃないですか。」

「まぁ、言うほどでもあるけど。ナユちゃんも可愛い顔してるよねぇ。モテるでしょ〜?」

「いやいや、モテないですよ」

「じゃあ気付いてないだけだ。ナユちゃん、人を惹く力あるよ。龍馬くんと同じ感じがするもん。」

「そ…そうなんですか?分からないですけど。」

あはは、と爽やかに笑って、将棋盤を指先で叩く。

こん、と軽い音がした。


「こんな話してる場合じゃないね。」

「え、あ…!ギーツ!」

「一緒に来た彼、この城の人間につかまちゃったみたい。」

「…っ!!」

ギーツ!

早く、戻らないと。

「この部屋は時間の流れを止めてるからね。外はここよりもずっと時間の流れが早い。向こうはそろそろ

日が暮れる。」

「ぎ、ギーツは!?ギーツは無事ですか?」

「んー?そうだね、無事…なのかな、あれは。ナユちゃんの居場所を吐くまでは殺されないだろうな。安心安心。」

「あ、安心って…。」

「大丈夫だろ。あいつはああいうことに慣れてる。多少は拷問にも耐えられるだろう。ナユちゃんは俺から帰る方法聴いて早くあいつんとこに戻ってやんな。」

八重さんは静かに笑って、そう言った。


「俺らがいた世界には魔力というものはなかった。だけど、俺にもナユちゃんにも魔力がある。なんでか?

「この世界には空気中にも魔力が漂ってて、どこもかしこも魔力であふれてるんだ。

「俺達の身体という器には、魔力がもともと入ってないが、空っぽの器だけはあるんだよ。

「その器は空っぽの隙間を埋めようと、空気中に含まれる魔力をどんどん体の中に吸収していく。

「それは、この世界の人間の器のように許容量が決まっているわけでもない。

「だから魔力を使わなければそれはどんどん増えて、溜まっていくんだ。

「ナユちゃんは今までに何度か魔力を使っているから、まだまだ溜まっていないけれど、やろうと思えばこの世界の誰よりも大きな魔力を得ることが出来る。

「そしてこの世界には、俺達の世界でいうところのパワースポットのような、特別魔力の多い場所もある。

「まず、そこを回って魔力を溜めることが課題だ。」


「この世界に来たのは、神社の強い気がこの世界の魔力に反応して二つの世界を繋げてしまったんだけど、ならばその逆を行えばいい。

「ナユちゃんという器に、二つの世界を繋げられるだけの力をためて、強制的に道を作る。

「ただ、それは人工的なものだからナユちゃんだけの力じゃいけない。

「ナユちゃんの「内」の力と、誰かの「外」の力がいるんだ。

「魔法陣を作って扉を作る者と、道を渡るための通行料を払う者。

「ナユちゃんが道を、もう一人が扉を、もう一人が通行料を。

「三人いて初めて成り立つ。

「条件が揃えば、きっと帰れるさ。」


「まず、西のフレイムルアーから、時計周りに、セノルーン、ログダリア、ラッシュバルドと回って、最後にライトフェザーへ行く。

「フレイムルアーの「炎の岩場」、セノルーンの「夢の泉」、ログダリアの「白花の谷」、ラッシュバルドの「終わりの森」、そしてライトフェザーの「天空の塔」。

「ナユちゃんはその五つの場所を回る。

「その間、決して魔力を使ったらダメだ。

「ナユちゃんが通った場所は根こそぎ魔力がかっさらわれるわけだから、その場所にもう一度魔力が溜まるのにはなかなか時間がかかる。

「だからチャンスは一回だ。

「慎重に行くこと。

「そして動くときには十分気を付けて。

「ナユちゃんの敵は、たくさんいるんだから。」


 八重さんはそう言ってすっと立ち上がった。

瞬間、白い花が咲いていた木が全て桜に変わった。

ぶわり、と狂ったように咲き乱れる桜の花。

風と共に勢いよく散って、辺りを薄紅色に染めた。

ついこの間だけど、随分昔に見たような気がするその花は、和服の八重さんには非常に映えていて。

とても、とても美しかった。


 差し伸べられた手に無意識に手を差し出す。

八重さんに優しく引かれて立ち上がる。

どんどんどんどん桜の量は増えていき、ついに視界がピンクでいっぱいになった。

「頑張れ。」

八重さんの短い呟きが聴こえて、耳鳴りがひどくなった。

思わず目を閉じる。

触れていた手が解けて、私の手は空を切った。

一際強い風が吹いて、耳鳴りが収まる。

ぐわんぐわんしている頭の中。

私はそっと目を開けた。


 するとそこは地下牢のような場所だった。

石の壁が続く廊下。

鉄格子が奥まで並んでいた。

困惑していると、奥から声が聞こえてきた。

「マリー、こいつ全然吐かねえよ。」

「黒魔女さん…どこに行ったんだろう?」

「とりあえず今はここでやめとこうぜ。後でまた吐かせんぞ。冷静にさせれば話す気になるかもしれねぇ。」

「そうだね。行こう。」

少女の声が二つ。

一つはあのマリーの声だろう。

そして、二人の会話から、ギーツが牢にいるのも分かった。

キイ、という鉄の擦れる音がして、ガシャン、と重そうな扉が閉じる音がした後、コツコツと二人分の足音が響く。

私は慌てて近くの壁にある窪みに体を押し込んだ。

息を殺して、二人が上へ向かう階段を上って行くのを聴いていた。

数分待って、誰も戻って来ないことを確かめると、足音を忍ばせて急いで二人が出てきた牢へ向かった。


 牢の中では、手足を鎖で縛られたギーツが丸くなっていた。

痛々しい傷が無数に素肌に刻まれていて、思わず息を呑んだ。

「ギーツ!」

鉄格子を無理矢理押し広げて開けると、飴細工のように軽々と歪んだ格子の隙間から中へと飛び込んだ。

バッと顔を上げた、ギーツが、私を見てほわっと笑う。

「良かった!どうなったのかと、心配してた。」

ギーツは自分のことなど何も気にせずに、私を見て安堵のため息をついた。

「ごめんね、ごめんねギーツ…!大丈夫?」

私は泣きそうになりながら、ギーツの手足の鎖を素手で引きちぎっていく。

「ボクは大丈夫だよ。ほら。」

ギーツはいつもと同じような声でそう言うと、腕を向けてきた。

今まで赤黒く腫れていた腕は、白く滑らかな肌に戻っていた。

「…治るからって、痛いのは同じ。」

私は悔しさで唇を噛みながらギーツの腕を抱きしめた。

ギーツは、少し驚いたように押し黙ってから、小さく苦笑した。

どこか嬉しそうに見えたのは気のせいだと思う。


「で、目標は達成できたのかな?」

「うん、早く出よう。」

「分かった。」

噛んでいた下唇から、血が滲んだ。


そういえば、ツ〇ッターで、この話の裏話とかをちょこちょこ呟いたりしてます。

興味のある方は是非見つけてみて下さい。

もしかしたらキャラ設定の絵とかを載せる…かも?

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