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来々軒繁盛記 ~ 寒くなったねぇ。ここで、熱いラーメンを一杯、食べていきなヨ  作者: 白河夜舟
第12章 今年最後の営業日、接客って大変、来々軒の評価

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66 陽丘信用金庫 融資係長 根岸 伸夫

 お金が借りられないので、お店の改装なんかできない。

 ならば、お助けキャラを参上させましょう。

 適当だなぁ?

 何を言ってるんだね。予定通り、予定通りなのだよ…

 その男は、閉店十五分後きっかりにやってきた。

 背広姿の、サラリーマン風の男だった。

 俺は、そいつの顔に見覚えがあったが。

 どうやら、向こうも同じことを考えていたようだ。

 目と目があった瞬間、お互いがお互いを思い出したのだから。

「ああっ!プータローまがいの警備員っ!」

「ああっ!食い逃げ狙いの酔っぱらいっ!」

 思い出したくもないが、思い出さずにはいられない。

 まだれんげちゃんが店にくる前の、俺がここの常連だった頃。

 来々軒のラーメンにマズイマズイと文句をつけて、食い逃げしようとした男だ。

 俺が不用意に「だったら来るな」とか言ったせいで、ケンカ沙汰になりかかったんだっけ。

 で、止めに入った親父に、なぜか俺が殴られて…

 ニャロウ、今度はナニしに来たんだよ。

「いらっしゃいませっ!お待ちしておりました、どうぞこちらへ」

 れんげちゃん、いそいそと男に席を進める。

 イィンダヨそんな奴相手にしなくたって。ロクな奴じゃないんだから!

「まさかあんたが働いてるとは思わなかった。顔も見たくないから、わざわざこんな時間に食いにきたってのに」

「そんなの俺の勝手だろうが。大体、行列に割り込んでラーメン食わせろだなんて、客の風上にもおけない奴だな。れんげちゃんに絡んでたおかげで、俺もエライ迷惑したぞ」

「ハッ、女の子一人に店を任せっきりにしてるからだ。イザという時に接客の一つも出来ないで、よくラーメン屋に勤めてるもんだ」

 こ、このっ…口の減らない野郎だな!

 俺が親父なら、即座に叩き出しているところだ。

 でも、親父、なんかこの男には、卑屈なんだよね。

「あの、オーダーお願いします」

「オーダー?注文と言え、注文と。それに、味を確かめにきたと、そう言わなかったか?」

「失礼致しました。マスター、塩一丁ッ!」

「アイヨッ、塩一丁ッ!」

「オッケー、塩一丁ッ!」

 とっさの条件反射で声がでてしまう。なんでこんな野郎の為に!

 第一、閉店するって言ってるのに無理やり押しかけて、そのぞんざいな態度はなんだ。うちの看板娘れんげちゃんに、いちゃもんまでつけやがって。

 れんげちゃんもれんげちゃんだよ。そんなに丁重にもてなしてやることなんかないんだ。お客が一人しかいないからって、いつもより丁寧にカウンター拭いたり(まあ、いつも丁寧だけどさ)オシボリやお水、甲斐甲斐しく運んでやらなくったって。

 親父は、まあ、こういう男は苦手らしいから仕方ないけど。

 まあ、俺も俺だよな。こんな野郎に作ってやるラーメンなのに、勝手に手が動いてメインスープと調味スープの配合、いつもより上手くいってるし。

 流れ作業で親父が茹で上げた麺を乗せ、俺も自然にチャチャっと具を盛りつける。

 身についた習慣が、我ながらコワイよ。

 間髪入れず、れんげちゃんが運んでいく。

「お待たせしました、ごゆっくりどうぞ」

「いや、大して待ってない」

 いいんだよこの野郎、そんな余計なこと言ってないで、さっさと食ってさっさと帰りやがれっ!

 俺や親父が見ている中、男は箸で具を突ついたりひっくり返したりしている。

 ナロッ、コイツ絶対、文句つけたくてキッカケ探してやがる。

 男、そのまま麺の弾力を確かめるように箸で押したりしていた。

 レンゲでスープを掬い、色合いや香りを確かめるように目の前にかざすと、味を確かめるように啜る。

 と、麺に箸が伸び、噛みしめるようにして口に運んだ。

 何口かそうして、その後、一気に啜り込む。

 男の顔が、ぐっと前にせりだすと、そのまま一気にラーメンを掻き込むように食べ始めた。

 ズズ、ズズズッ…

 ジュルジュル、ジュル…

 見ていて、あきれるほど旨そうな、食べっぷりだった。

 なんか、無性にラーメンを、来々軒のラーメンを食べたくなるような、そんな食べっぷりだった。

 みる間にドンブリの中身が減っていき、男は最後まで、スープ一滴も残さずに平らげた。

「プハアアァァァ…」

 幸せそうな余韻に浸る、男の顔。

 まあ、見ていて悪い気はしないが。

 でも、いいからさっさと帰れという気持ちが収まるわけでもない。

 だが、すんなりと帰るつもりはないらしい。

 男、立ち上がると、背広から名刺を取り出して、親父に丁重に手渡す。

『陽丘信用金庫 融資係長  根岸 伸夫』

「信用金庫の、融資係?!」

 俺と親父は、思わず顔を見合わせた。

「ゴメンナサイ、お話する時間、なくって…」

 れんげちゃんが、済まなそうな顔をして俺たちを見ていた。

 ダメなお店には徹底的にダメ出しをする。

 美味いお店には徹底的に寄り添っていく。

 妥協しない男、根岸伸夫。

 ねぎし のぶお。ネギが 伸びる男。

 お話の最初っから登場してます。

 鳴人君とケンカしてます。

 コイツも妥協しない男です。


 来々軒は、そういうお話です。

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