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来々軒繁盛記 ~ 寒くなったねぇ。ここで、熱いラーメンを一杯、食べていきなヨ  作者: 白河夜舟
第12章 今年最後の営業日、接客って大変、来々軒の評価

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65 うわあ、熱い、熱いって!

 相変わらず、忙しく繁盛している来々軒。

 年内最後の営業日だそうです。

 ラーメン屋さんの年末年始の営業日は、店によってまちまちのようですね。

 来々軒の場合は、毎年、長めに休業します。


 経営、大丈夫か?

 今年最後の営業日、来々軒は相変わらず、満席だった。

「れんげちゃん、そろそろ」

 俺も、仕事に余裕が出てきて、スープが切れるかどうかを見極めて、彼女に声を掛けられるようになっていた。

「ハイッ、お客様に伝えてきますね」

 れんげちゃん、ちらっとスープの入ったナベを見て、客席を見渡してから、行列の続く外に出ていった。

 長年の経験というか、天性のカンというか。

 残り何人分か、見ただけで判るのはスゴイよなあ。

 なんて感心しながら、俺も休まず手を動かし続ける。

 ちょっと親父に元気がないのが気になるけど。

 その分は、俺がカバー出来ているし。

 調理台にもずらっと並んだラーメンドンブリが、旨そうな湯気を立てている。

 あーあ、もう少しで終わりだ。お腹空いたなあ…

 それにしても、れんげちゃん、遅いな。

 いつもなら、すぐに取りにくるんだけどな…

「鳴人君、ラーメン、配膳してきてくれないか」

 忙しそうに麺を茹でながら、親父が客席を見渡している。

「あ、は、はい…」

 まあ、閉店間際なので、ドンブリを抱えていないお客に配ってくればいいんだけど。

 でも俺、接客なんてやったことないんだよね…

「こっちは、あっしがやっとくから」

「はい…」

 れんげちゃん、どうしたんだろう?

 仕方なく、お膳にドンブリを乗せて、片手で持ち上げようとすると…

 お、重い。

 たかが、ドンブリ五杯なのに。

 れんげちゃん、片手でササッと持ち上げていたのに。

 下手に持とうとすると、バランスを崩してひっくり返しそうだ。

 カッコつけてる場合じゃないので、両手で抱えるように持って客席に急ぐ。

 えー、醤油ラーメンの方は…?

 おっと、奥の小上がりのお客が手持ち無沙汰だ。

 よたよたと持って行くと、お客の若い男が四人ばかり、怪訝な顔で俺を睨む。

 仕方ないだろ、れんげちゃん、行列を止めにいってるんだよ。

「お、お待たせしました、醤油ラーメンです」

「おい、俺は味噌だぞ」

「塩ラーメンどうしたんだよ」

「こっちは醤油でいいんだけど、普通、他のと一緒に持ってくるだろうが」

「す、すいません、すぐお持ちしますので」

 く、くそぉ、俺が注文受けてるんじゃないんだから、そんな事言われてもなあ。

 なんて、さすがにお客の前では言えない。

「おい、お兄さん、醤油はこっち、こっちだ」

 カウンターの年配の夫婦が呼んでくれる。

 というより、この夫婦、ラーメンのお替り頼んでたのか。

 ドンブリ抱えているから、もう食べ終わるのかと思ってたよ。

 それにしても、両手がふさがっているから、ドンブリを上手く置けない。

 カウンターには、おぼんを乗せるスペースはない。

 なんとか、片手でお盆を支えて、片手でドンブリを持って…

 うわあ、熱い、熱いって!

 手、手がふらつく、こんな所でひっくり返るわけにはいかないよ!

 れんげちゃん、一体どうやっているんだ?

 なんて具合で、もたもたとドンブリを並べていると。

「おい、味噌ラーメンまだぁ?」

「会計お願いしまーす」

「御馳走さまでしたぁ」

「ここ、開くんですよね、座っていいですか?」

 ああぁ!いっぺんに言わないでッ!

 パニックに襲われそうになるのを、必死に堪える。

 れんげちゃーん、どこいったんだよぉ!

「ハイッ、お待たせしました、味噌二つに塩一つですね。はい、少々お待ちくださいね…鳴人さん、こっちはもういいですよ。御会計千五百円になります。はい、只今ご用意いたしますので、もう少々お待ちくださいね…」

 俺の声が届いたのかどうか知らないけど。

 ようやくれんげちゃん、帰ってきて店の中をコマゴマと動き回り始めた。

 ほっとして調理場に戻ったけど。

 親父がドンブリの用意もしてくれていたので、ちょっと手が空いた。

 それにしても、れんげちゃん、早くて優しくて丁寧で正確な動きぶりである。

 まるで、彼女が何人もいるかのような錯覚さえ覚える。

 俺のあたふたとした仕事ぶりで、お客のクレームがガンガンきていたような状況を、ものの一、二分できれいに解決してしまった。

 しかも、お客に愛想のいい笑顔を振りまいて、文句が出ないようにしながら。

 いや、それまでの接客ぶりも、丁寧で素早いものだったが、まるで本気ではない風である。

 これ位の忙しさの方が、かえって調子がでる、といった感じだ。

「彰油さん、まだまだお客さんが来ても平気ですって、言ってくれてるんだよ…

 …鳴人君も、しっかり仕事をこなしてくれているし、まだまだ上手く速くなっていくだろうしねえ」

 茹でる麺が無くなった親父が、そんなれんげちゃんの働きぶりを見ながら、ボソボソと呟く。

 ハハ、俺なんかまだまだまだまだ…

「確かに、店を広げれば、数を稼げるんですよね…」

 れんげちゃんに任せていいなら、やってやれない事はないだろう。

 だが、客席を増やしたからといって、必ずしもラーメンを全部捌ける保証はないのだ。銀行にしてみれば、リスクの高い賭にしか思えないだろう。

 来々軒もそうだが、行列のできるラーメン屋が必ず儲かっている、というわけではないかもしれない。

 コストを高くして、旨いラーメンを食わせている内情は、採算ギリギリにしているのだから、店の改装資金の捻出にも困っている状況が多いのかもしれない。

 それでも、お客さんの満足げな顔を見るのは嬉しいし、仕事のやりがいがあるのだが。

 だから、親父の口惜しさも、判ることは判るのだが。

「マスター、鳴人さん、ちょっと…」

 れんげちゃんの手も空いたようで、後は今食べているお客が帰れば店を閉められるわけだ。

 そういえば、さっき、れんげちゃんはどうして中々帰って来なかったんだろう。

「どうしたんだい?」

「あの、さっき、行列の最後の方にいた男の人に絡まれちゃって…」

「なにィ!」

「ナニイ!」

 俺と親父は、同時に大声を上げそうになった。

「声が大きいですよっ」

「ゴ、ゴメン、で、なんかされそうになったの?」

「いえ、他のお客様もいましたから、そういうことじゃないんですけど。

 うちのラーメンの味を、どうしても確かめなきゃならないとか言って、列に割り込もうとしたので、止めていたんですけど…

 あ、ありがとうございましたっ!」

 話の途中で、れんげちゃん、レジに行っちゃう。

「アリガトヤシタッ!」

「ありがとっシタッ!」

 お客に大声でアイサツをかわしながらも、俺と親父は顔を見合わせる。

「うちのラーメンの味を…」

「確かめにきた、んですか?」

 他のラーメン屋が、味を盗みにきたのか?

 それにしては、おおっぴらというか、そんな騒ぎを起こすものか?

「ゴメンナサイ、話の途中で」

 れんげちゃんが、戻ってきた。

 普段なら、そのまま客席の掃除をしたり、水の入ったポットを入れ換えたりと色々気を使っているんだけど。

 閉店間際という事もあり、また、かなり急ぎの用件でもありそうだ。

「わたし、断りきれなくて、閉店後に来て下さいって、約束しちゃったんです。

 ゴメンナサイ、そうでも言わないと、帰って貰えそうになかったから…」

「いや、それは仕方ないだろ。ただ、麺が、もう無いんだよな…」

「スープは、なんとか一杯分あるかも…」

「そうか、じゃあ、一食分、なんとかほぐすよ。氷冷熟成麺を常温に戻すのは、結構時間が掛かるんだがな」

「本当に、ゴメンナサイ…」

「なあに、れんげが断りきれなかったんだ。仕方ないだろ?」

「ハ、ハイっ!」

 れんげちゃん、親父さんから名前で呼んで貰うと、本当に嬉しそうな笑顔になる。

 店の中では、今まで通り「彰油さん」「マスター」と呼びあっているけど。

 でも、れんげちゃん、親父の娘だと認めて貰えたのが、心から嬉しいんだね。

 普段、経験していない接客。

 やってみると、これがトンデモナク大変。

 れんげちゃーん、タスケテェ!


 作者としては、とても好きなシーンなんです。


 ヒドイじゃないかっ!

 え、余裕ですよ?

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