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来々軒繁盛記 ~ 寒くなったねぇ。ここで、熱いラーメンを一杯、食べていきなヨ  作者: 白河夜舟
第11章 荒ぶる親父、付き合う鳴人、彼女の理由

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59 俺たちはラーメンを、作る側なのだ

 新章開幕。


 れんげちゃんとイイ感じになれたのは、嬉しいんだけど。

 問題は、店の経営状況、だよなぁ…

 いやぁ、マイッタなぁ…

 街がクリスマスムードに包まれている中、来々軒は相変わらず繁盛を続けていた。

 ただ、普段と違うのは、クリスマスだけのインスタントカップルがちらほらと来客していた事位か。

 まあ、メイクもファッションもばっちり決まっている彼女を、こともあろうにラーメン屋に連れてくるなんてオバカなヤツも何割かを占めていたが。

 あえて普段着で、ここに来る為の格好をして行列に並んでいるカップルが、結構多いように感じた。

 ふたりの仲が親密であり、お互いに特別な物を求めているわけじゃない。

 暖かいラーメンの温もりがあれば、それでいい。

 カネは無いけど、アイがあればそれで充分。

 そんなカップルが、仲良さそうにラーメンを食べていく。


     ~ ・ ~


 ただ、俺とれんげちゃんの場合には、そう簡単には行かないかもしれない。

 俺も、れんげちゃんも、ラーメンが好きで。

 お互いがそうだから、二人はより近づける。

 だけど、俺たちはラーメンを食べる側じゃない。

 ラーメンを、作る側なのだ。

 確かに、れんげちゃんは不正やごまかしなんか、一切していなかった。

 それどころか、普通のラーメン屋ではできないような、仕入れ先との交渉事までこなしていた。

 それでも、来々軒のラーメンで採算を取るのは、厳しい。

 一杯の値段が安い上に、原価が異様に高い。

 今はまだいいけど、何かのアクシデントがあって多大な出費を強いられたら、その時点でアウトだ。

 資産も預金もない。俗にいう「会社の体力がひ弱」な状態である。

 まして、これで店の増築だ改築だなど、とんでもない話である。


 なんて考えなど、親父が判るはずもなかった。

 店を閉めた後の定休日前とくれば、親父と俺はビールを交わすのが定例行事と化しつつある。

 片づけは自分がやるというれんげちゃんの言葉に甘えて、俺たちは小上がりに上がり込んだ。

 ちょうどいい機会とばかり、俺は印刷した決算書を親父に見せた。

 正確には、まだ今年度の営業日が幾日か残っているが、さほど変わりがあるわけでもない。

「…おお、出来たのかい。いやぁ、苦労を掛けたねぇ」

 だから、そんなに嬉しがらなくてもいいって。

 まあ、別の意味で苦労したけど。

「で、親父さん、採算なんだけど…」

「ああ、鳴人君が心配することはないんだよ。大丈夫、大丈夫だよ」

 …大丈夫じゃないんだって。

 確かに今月のこれまでの売り上げは約500万円。でも粗利益は約100万円なんだよ。

 ここから人件費を引くと、いくらも残らないんだよ。

「鳴人君のバイト代は、一日1万円で計算してるから、25万でいいかな?」

 親父、ごそごそと皮の鞄を取り出し、茶封筒を取り出す。

「ちょ、ちょっと待って下さいよ。俺、大学もあったし、そんなに働いてない…」

「イイんだイイんだ。無理やり働いて貰ってるんだし、こんなに立派な帳簿まで作って貰った、感謝の気持ちなんだから…」

「だ、だめです、そんなの。俺、帳簿作ってたから判るんです。来々軒、今でも採算はギリギリなんですよ」

 全く、この馬鹿親父ときたら、人が良すぎるというか、経営感覚ないというか…

「…ハハハ、判ってるって。大丈夫、鳴人君が気にする事はないんだよ。ほら、ビールが空いてるよ」

 だから、酒なんか注いでもらってる場合じゃ。

 おっとと、こりゃスイマセン…じゃなくて。

「彰油さん、ついでだから、君にも、渡しておくよ、ほら!」

 れんげちゃんの分の茶封筒を持って、ヒラヒラさせている。

「マスター、大丈夫ですか?お顔、真っ赤ですよ?」

「いや、大丈夫、大丈夫だよ…」

 れんげちゃん、ちょっと心配そうに親父の顔を見る。

「そうじゃなくて、鳴人さんの仰られているように、お店、の事なんですけど…」

「ハハハ、あっしが大丈夫と言ってるんだから大丈夫なんだよ。それとも、あっしの言う事は信用できないかい?」

「い、いえ、そういうわけじゃ…」

「ソウだろソウだろ。若いもんが、そんな余計な心配しちゃいけない、イケないヨ。ササ、彰油さんも一杯呑むかい?」

「いえ、まだ片づけがありますから…」

 れんげちゃん、チラッと俺の顔を見て、調理場に引っ込んだ。

 あとはヨロシク、という意味らしい。

 でもなあ、よろしくお願いされても、なあ…

 この酔っぱらい親父の「大丈夫」なんて、当てにはならないし。

 とにかく、現状を判って貰わないと、なあ。

「鳴人君、明日、ちょっと付き合って貰えないかい?」

「え、どこへですか?」

 トロンとした目で、親父は俺の顔を見てニヤリと笑う。

「銀行。銀行だよ」

 …強盗でも、やるのか?

「鳴人君に、きちんとした帳簿を作って貰ったんダ。コイツを持って行けば、金が借りられる。そいつで店を改装すれば、お客さんは待たないし、売り上げも上がる。なんの問題も無くなるだろう?」

「は、はあ…」

 確かに、利益は薄くても売り上げが上がれば、ある意味問題はない。

 問題はないんだけど、そう簡単にいくはずもないんだよね…

 銀行、かぁ。

 明日は定休日だし、付き合わないこともないけど。

 なんかもう、目に見えてるよなぁ…


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