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来々軒繁盛記 ~ 寒くなったねぇ。ここで、熱いラーメンを一杯、食べていきなヨ  作者: 白河夜舟
第9章 手伝う彼女、教える鳴人、来々軒の帳簿

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42 れんげちゃん、ナイスタイミングだよ

 新章開始。

 三世代前のパソコンで、会計ソフトがキチンと動かせる時代でした。

 NECがまだ市場で天下を謳歌していた時代の事です。

 来々軒繫盛記は、そういう時代のお話です。


 …道理で、人気が出ない(略)


 翌日の定休日。

 俺は、中古専門のパソコンショップを覗いて、三世代前のパソコン一式を揃えた。

 アパートに届けて貰うように手続きして、大学に向かう。

 どうせ冬休み前で、色々と手続きもあるそのついでだ。

 経理部を選択している学生には、大学で作った教習用の会計ソフトが支給される。

 規格の表計算ソフトとも互換性のある優れ物だ。

 しばらくは、コイツで充分間に合うはずだ。

 親父の住んでいるアパートに、伝票やなにやらを受け取りに寄る。

 予想通り、俺の住んでいるアパートと大差ない造りではある。

 以前の来々軒の収益なら、そんな大層な所には住めないはずだから。

 それでも、親父の心底嬉しそうな顔を見ると、まんざら悪い気もしない。

 まあ、本格的にやるかどうかは別にして、俺自身、大学の授業を実践できる機会に恵まれた事は確かでもあるし。

「じゃあ、とにかくやるだけやってみますので」

「うん、よろしく頼むよ」

 手を振って、俺はスクーターを走らせた。


 部屋に戻って、伝票の袋を仕分ける。

 一昨年、去年、そして今年の分と、一応、袋を分けておいてくれている。

 今年の分は、明らかに多い。

 前の二期の、軽く十倍はある。

 とにかく、一年毎に伝票や領収書を仕分ける。

 前の分は、枚数自体がそれほどないので、かなり楽に終わった。

 今年の分、それもれんげちゃんが来た後から、伝票の枚数も、勘定科目も飛躍的に増えている。

 俺は神経を集中させながら、部屋中に伝票の山を仕訳していった。

 しばらくすると、宅配便で荷物が届けられて来た。

 随分速い。

 さぞかしサービスのいい所だろうな、と思ったら、案の定「イーグル宅配便」だった。

 しかも、例の“ナベさん”が届けにきたのだ。

「毎度様です。宅配便です」

「あ、どうも。そこに置いといて」

 配達員、仕事中なのに、俺の顔を睨み付ける。

「今度は、何をして取り入るつもりだ?」

「あのねえ、アンタ、仕事中でしょ?そういう口の利き方をお客にしてもいいわけ?」

「オマエには、いいんだよ!」

「あのお…“そうなんですか?”」

 後ろから、おずおず、といった風に、聞こえる可愛い声。

 れんげちゃんだ。

 今日は髪の毛をお団子にしないで、両側にしばって垂らしている。

 まるでウサギの耳みたいで、なんとも可愛い。

「あ、いや、その、し、失礼しますっ!」

 配達員、大慌てで逃げ出そうとする。

「ちょっと、ハンコ、ハンコッ!」

「あ、いや、その、す、スイマセンッ!」

 もったいぶってハンコを押してやると、ありがたそうに伝票を受け取って、大急ぎでアパートの階段を駆け降りていった。

「…忙しい人ですね」

「うん、そうだね」

 まったく、れんげちゃん、ナイスタイミングだよ。

 お店で働いている時と同じ、そういう「天性」に恵まれているのかもな。

「で、どうしたの?」

「いえ、帳簿付けるの、なにか手伝えないかな、って思って」

「ええっ?」

 手伝って、くれるって?

 れんげちゃんが?

 いや、彼女、確かに手抜きしない性格だけど。

 それでも、こういう細かい事は苦手とか言ってたし。

 それが、そんな勿体ないお言葉を頂けるなんて。

 しかし、ふと俺の脳裏を掠める記憶があった。

 確か、れんげちゃんがこのアパートに引っ越して来た時。

 俺が荷物を運ぶのを手伝おうとした時、れんげちゃん、やんわりと断ってたよな。

 そうだよ、部外者が、そういうことするの、れんげちゃんは嫌うはずで。

 いやしかし、れんげちゃんは部外者じゃないわけで。

 そういう所は、男の度量を見せなければならないわけで。

 うん、そうすべき、そうすべきで…

「あのお…」

「あ、い、いや、大歓迎だよ!…その、ちょ、ちょっと待って…」

 そういえば、嬉しい事は嬉しいんだけど。

 俺の部屋って、女の子をお招きした事、まだ一度も無いんだよね。

 伝票を散らかしているのは、仕方ないとしても。

 あちこちゴミやら雑誌やらが散らかってるし、台所もこのところの忙しさでかまけてないし、男物の下着とか服とか、脱ぎ散らかしてるし。

 うわぁ、とてもれんげちゃんをお招きできるような雰囲気じゃないよ。

「あ、いえ、わたし、別にそういうの、平気ですよ」

 うわ、コラコラ、勝手に上がらないでっ!

「あああ、ちょっと待ってっ!」

 あわてて玄関に行こうとして、なにかのコードに足が引っかかった。

「うわあっ!」

「キャアッ!」

 転びそうになって、慌てて手を前に出したその先に、れんげちゃんの胸があって。

 そのまま彼女を抱きしめる格好で、二人してひっくり返ってしまった。

 …れんげちゃん、細いのに、あったかくて柔らかい…

 …あのぉ…

 …この胸の感触が、またなんとも…

 …あのぉ、なるとさん?…

 …はいはい、なるとですよ…

 …おもい、んですけど…

 …はいはい、おもいですね…

 …重い?

「…あ、ご、ごめんッ!」

 ぼおっとしていた頭が、急にシャキッとなる。

 俺の体の下で、れんげちゃんがもがいている。

 大慌てで起き上がったその下で、れんげちゃんが心配そうに見ている。

「大丈夫ですか?!どこか、打ったんじゃ…」

 確かに、頭がズキズキする。

 柱のヘリに、ぶつけたらしい。血は出てないようだが、代わりにコブができている。

「いやあ、たいしたことないよ。それより、れんげちゃんこそゴメンネ、大丈夫だった?」

「わたしは平気です。体だけは、丈夫に出来てるんですよ。ほら」

 右腕をギュッと持ち上げてみせて。

 なんとも華奢で可愛らしい力こぶを、作って見せてくれた。

 転びそうになって、彼女を抱きしめながら倒れ込む。

 ベッタベタな展開じゃないですか。

 ベッタベタ、大好きです。大好物と言ってもイイ。

 これぞ創作の醍醐味というか、こうでなくちゃイケマセン。こうあるべきなんです!


 何を力んでいるんだ、おれ…

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