128 もういいわ、仕方のない人たちね
そのままれんげちゃんは俺を引っ張って、店の中から厨房に入っていこうとする。
おいおい、一体なんのつもりだよ。
そりゃあマズイよ、マズイだろう。
「ちょっとれんげちゃん、どこにいく気だよ、勝手に入っちゃ怒られるよ」
楽しげに談笑しながら店内に入ってきた家族連れが、ギョッとした顔で俺たちをみている。
ワゴンを運んでいたウエイトレスたちも、何事かと足を止めた。
「すいませんお客様、そちらは関係者以外立ち入り禁止ですので…」
案の定、黒服の元ホスト風のお兄さんたちが素早く近づいてきた。
そりゃ、当たり前だよなあ。
前に親父が銀行員相手に息巻いてみせた事があったけど、さすが親娘というべきか、血筋のなせる業というべきか。
いや、血は繋がっていないんだったか。
でも、ホントにマズイってば、この連中。
身のこなし、立ち居振る舞いからすぐに判るよ、彼ら、なにか武道をやっているに違いない。声にも有無を言わせない張りがあるし、店内で接客をしていなかった事からも、こういう場合のための警備をかねているのだろうし。
って、そんな冷静に判断している場合じゃない。犯人は俺たちになってるよ!
「す、スイマセン、すぐに引き上げますから。
…ちょっと、れんげちゃんってば!」
「あなたたち、新入りなの?」
と、れんげちゃん、俺の顔を見もしないで、黒服たちの顔をじっと見据える。
瞳に宿る権威。命令する事に慣れた口調。
今までとは別人の、彼女がいた。
いや、違う。単に俺が彼女の事を知らないだけだ。
元から彼女に備わっていた性格が、そのまま現れただけだ。
それほど、そんな高圧的な態度が板についていた。
「い、いえ、あの、どちら様で…」
彼女の急な変貌に、黒服たちも勝手が違って、戸惑っているようだ。
「チーフマネージャーの室戸さんは、今日は非番なの? まさか、あの人まで辞めさせたわけじゃないんでしょう?」
え? え?
誰、それ?
しかも黒服たち、もごもごと何か言い訳しているし。
なんか、俺を除いて話が通っているぞ。
「宗主様にこんな対応が露顕したら、あなたたち、もうこの業界では働けなくなるのよ。もっとしっかりしないと」
「は、はあ…あの、あなた様は…」
宗主、様?
そういえば、店に入る前に、ちらっとそんな事を言っていたような気がする、んだけど。
躊躇いがちにでも、聞いてみようと思ったら、黒服たちが代わりにれんげちゃんの事を聞いてくれた、ん、だけど。
れんげちゃんは、大げさにため息をついてみせて。
もういいわ、仕方のない人たちね、と目線と言葉だけで黒服たちを制して、そのまま俺の服の裾を引っ張って、厨房の中に入ってしまった。




