第35話 全面戦争 10
ナオヒトは自らが祀るべき王を探していた。
あの場にいたセフィラ達に名を与え、自らもビルガメシュを名乗り王を偽った。
だが、本物の王はそこにはいない。
ナオヒトの王冠としての本能のようなナニカが王を渇望している。
王を探すも偽物ばかり。
偽物の王を断罪する日々が続いていた。
そんな荒み果てたナオヒトへ彼が接触するまで、そう時間はかからなかった。
「錬金術を名乗る狂人がいると聞いたが、まさかお前だったとはな」
「ハハッ!アラシヤマ ナオヒト君。いや、今はビルガメシュといったカ」
ケタケタと感情の無い声で笑うのはふざけた様子の仮面の男。
白衣を身にまとい、能面で顔を隠した狂人。
ナオヒトは彼を知っていた。
なぜなら、元々は同じ組織に属していたから。
「黒衣の王の顕現への手助けだと?どこまでを知っている、ドクター」
「あハッ!全てだヨ、全てダ。君がセフィラへと至ったことも、その本能から黒衣の王を求めていることもモ、そしてその顕現方法もネ?」
ブンブンと頭を振りながら。
さも楽しそうに、そしてそこに一切の感情が乗っていないままに告げる。
一切の揺れもなくピタリと張り付いた仮面がその異様さを物語っていた。
「面白いことを言うではないか。医者気取りの狂人ごときに何がわかるというのだ」
感情のままに泡沫を発露し、その勢いのままにドクターに叩きつける。
だが、怯むようすもなくドクターは答えた。
「医者気取り、カ」
ふざけた様子の消えた、一段と低い声で言葉を紡ぐ。
「言っただろウ?大樹に囚われし王冠よ。私は錬金術ダ。全ての摂理を紐解き、意のままに操ル」
一本の杖がその右手に現れた。
軽快な音とともに床に三度突く。
その後現れるのは宙に浮かぶ三枚のホログラム。
そしてそこに写っているのはそれぞれ違う壁画。
一枚目は、炎の中で悠然と立つ土偶のようなナニカ。
二枚目は、何本にも枝分かれした大樹を背中に、人々に指示を与える男。
三枚目は、黒一色の王冠と黒衣を身に纏い人々に頭を垂れさせる王。
近未来的にも、古代的にも、超常的にも見えるそれを背に言葉を続ける。
「王に必要なのは、王たる素質。それに加えて血筋が必要ダ」
杖でもう一つ床を叩くと、王の居た壁画が切り替わる。
そこに居たのは黒い王冠を被った男と、それを長剣で貫く黒衣の男。
「親殺しというのは神話的意味を持ツ。ギリシャ神話において、オイディプス王は親殺しの運命を課せられタ。そしてその運命からはどう足掻こうと逃れられなかっタ。つまり、親殺しを行うことで運命というものを世界に定着させるのダ」
「はっ!馬鹿馬鹿しい!それならば子を成して私を殺させろというのか」
「ああ、そうダ。お前は子をなス。そして、その子は運命に導かれて泡沫持ちとなり、お前を殺ス」
ナオヒトは求めていた。
自分を殺して王になる存在を。
それは理性や考えの末ではない。本能で察し、求めていたのだ。
「さあ、哀れな王冠ヨ。汝の命運は既に決まっていル。子を成し、その子を泡沫へと堕とし、王へと導ケ」
ナオヒトは根拠もなく信じてしまった。
その錬金術士の言うことは全てが正しいと認めてしまった。
それは、ナオヒトの中のナニカが知っていたから。
だから、王冠は錬金術師に傅いた。
それを見てご機嫌に頷く。
「安心しろ、私が王の元へ導こウ。すべては、ニコラ・フラメルの意志の元に」
◇
その話から数年後、ナオヒトは竹山 知佐子と子を成す。
そしてその半年後、浮気、DV等様々な行動でチサコを精神的に追い詰め、逃亡。
その精神的破壊の余波は当然のように旅人へと届く。
その間、ナオヒトはニコラ・フラメルを名乗るドクターの奇跡を幾度も見た。そして、その度に彼に心酔して行った。
彼こそが唯一信じるべき神で、彼こそが王を顕現させ自分を救うのだと心の底から信じた。
そして、実際に彼は泡沫の先へ至った神である事を後に知る。
10年ほどが経ち旅人が自立可能なギリギリの年齢まで育ったのを確認し、それまで温めていた行動を実行に移した。
ナオヒトを中心に組織を設立。
名を『フラメルの意思』。
ギルドへの対抗も、アラハバキの降臨も全ては表向きの話。
その本望は初めからずっと一つ。
黒衣の王の顕現だけ。
全ては、ナオヒトとドクターの描いたシナリオの上であった。




