1011.総動員
「はっ、バカが! 味方も巻き込んじまうってのによオ!」
「バカはお前じゃ! こっちこい!」
魔王は、壁のような魔法の障壁を張り、〝紅の炎〟を防いだ。しかし、それも完全なものではなく、回り込まれて左足を焼かれる。
それでもなんとか後方の四人と合流し、空へと飛んで逃げる。
そこでコルニーは肝を冷やした。まるで津波のような〝紅の炎〟の勢いは止まらず、倒れていた騎士たちをも飲み込んでしまう。
「げ、元帥……! み、み、みんな……っ」
「あら、心配には及びませんわ。火の扱いには心得がありますので」
「へ……?」
その言葉通り、騎士たちには被害が出ていなかった。〝紅の炎〟の波を被ったと言うのに、誰一人として悲鳴をあげていない。
その事実に呆気に取られる――暇もなく、次なる危機が上空から迫ってきた。
〝魔王〟が巨大な魔法陣を創り出し、〝生きた魔法〟を産み落としたのである。雷光とともに〝雷の怪鳥〟が現れる。
「また、あんなのが暴れたら……!」
「ふむ……。なるほど……。あのような力技でも……」
コルニーたちが慄いている間、リリィは興味深いとでもいうかのように〝怪鳥〟を観察していた。
「元帥……? 元帥!」
「元帥元帥元帥!」
ピアーもミリーも、もはやそれしか口にできていない。
その様子がおかしかったのか、リリィは思わずと言ったように吹き出した。
「ふふ。大丈夫ですわよ」
〝怪鳥〟が翼を広げて襲いかかってくる。その恐ろしい様相にコルニーもたまらず悲鳴をあげたが――それも「あ」と止まった。
〝雷の怪鳥〟の前に、誰かが躍り出たのだ。
そうして、抜剣。
振り抜かれた剣の軌跡通り、〝怪鳥〟は真っ二つになり……霧散した。
「む。お見事ですわ」
「そのわりには、随分不満そうですね」
リリィの隣に降り立ったのは、クロエ・サーベラス。エグバート王城に向かっていた彼女が、ギリギリのところで駆けつけてくれたのだ。
「そういうわけではありませんが……。先ほどの剣技、見たこともないものでしたので」
「魔法を切る剣です。〝波動術〟が一番効率的なのでしょうが、魔法でも同じことができるのではないかと思い立ちまして。お教えしましょうか?」
「――いえ。わたくしも、オリジナルを創ります」
「ふふ。リリィさん、意外とそういうところで頑固ですよね」
竜ノ騎士団〝元帥〟と王国騎士軍〝近衛騎士総隊長補佐〟。その二人が並び立つ安心感といったらなかった。
加えて……。
「――ふがっ?」
妙なタイミングで、キラが起きた。
○ ○ ○
五分間、眠ったからといって何が変わるわけでもなかった。
キラの体は相変わらず傷だらけで、疲れ切ったエルトは眠りについてしまっている。
戦場はといえば、むしろ悪化していた。
〝魔王〟と〝四天王〟は合流し、おそらくはそのせいで騎士たちは全員倒されている。気配面で探ってみたところ、死人はないようだが、手当を急がねばならない重症人が何人もいる。
リリィとクロエが駆けつけてくれたとはいえ、状況は逼迫しているといえた。
「リリィ……クロエ……。あの五人、頼める?」
「もちろん。というより、キラは下がってなさいな。今にもミリーたちが泣きそうですわよ」
「そうです。あとは私たちで片をつけます。増援ももう少しで到着しますので」
反論したいところだったが、二人の言う通りだった。
キラは立ち上がることはおろか、自力で上半身を起こすことすらままならない。コルニーとピアーに助けてもらって、ようやく姿勢を維持できる体たらく。
「じゃあ……。僕はサポートに回るよ」
「……。また無茶をする気ではありませんわよね?」
「まあ……。キツイと思ったら後退するよ。そうでもしなきゃこの状況を乗り切れないってことで……大目にみてほしい」
怪訝そうに振り返ってくるリリィとクロエだったが、それ以上は何も言わなかった。
キラはコルニーとピアーに声をかけて再度横になり、目を閉じた。
そして。
「〝術式:流転〟」
ぶっつけ本番、見よう見まね。
全神経を集中して、エルトとブラックの技術を体現する。
「〝精霊化〟」
〝覇術〟も〝波動術〟も〝雷の神力〟も。これまで得てきたもの全てを動員して、キラ自身が〝精霊化〟を果たした。
〈おお……。こんな感じなんだ〉
幽体離脱を疑似体験しているような感覚だった。ふわりと自分の体から離れていくのを如実に感じる。
とはいえ、目も耳も、手足すらない。
気配面で視覚の役割を果たし、〝波動術〟で音を汲み取る。体を動かすのは〝雷之加護〟を得た〝雷之力〟となる。
「キラ、それは……! 心臓は大丈夫なのですか?」
〈最低限にとどめたからね。だから広範囲で活動はできないし、攻撃なんてこともできない。離れた位置で〝声〟でサポートするのが精一杯。ただ、怪我の痛みを感じない分、こっちでいるほうがむしろ楽かも〉




