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~新世界の英雄譚~  作者: 宇良 やすまさ
第10章

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1009.増援

「すまんのう。なにせ一対三……こうでもせんとサシの勝負には持ち込めん」

「くそ――よけろっ!」

 魔王はそのセリフとは裏腹に、遠慮などしなかった。

 首を掴んだまま、セルカークを投擲。

 地面に叩きつけるようにして、右に展開していた女騎士ラナークに投げつける。


「騎士も難儀よのう」

 ラナークはセルカークを無視できなかった。仕込んでいた魔法を取り止めてまで、その体を受け止める。

 その間に魔王シャーロットは、残りの騎士に体を向けた。


「ふうっ……」

 その騎士、ユーデールは、ひどく冷静だった。

 己を律するように長く息をつき、じっくりと間合いを保つ。


 魔王が一歩動けば、ユーデールも一歩引く。

 完璧な間合い管理。

 を。


「――ぬん!」

 魔王は、一瞬にして踏破した。

 〝転移の魔法〟もなく、ただただ〝身体強化〟だけで、ほぼ瞬間移動を果たしたのである。


 パワー重視の剣戟ではなく、スピード重視の蹴り。

 魔法も体術も最高効率を求めた動きで鋭く跳んで、膝蹴りでユーデールの頭を狙う。


「――」

 だが、ユーデールも見事なものだった。

 わずかばかり反応が遅れたものの、驚くことも息を呑むこともなく、剣を盾にして防ぐ。

 その目は大剣の動きを追い――魔王はその瞳の動きに注意を払った。


 膝蹴りを防がれた魔王は、そのまま素直に着地。

 そうして、愚直に大剣での勝負に仕掛ける。


 掠りでもすればそのまま体が真っ二つにするほどのパワーで、何度も何度も大剣を打ち込む――それを、ユーデールは喰らいつくようにしていなした。

 腕を持っていかれながらも、姿勢を崩しながらも……足運びでなんとか誤魔化しつつ、隙を潰す。


「ハァ……ハァ……!!」

「ふうむ。普通はそうよなぁ……」

「何が……っ」

「戯言じゃ」


 魔王が一段と深く踏み込み、さらなるパワーをユーデールに向ける。

 この十数秒で何度も剣を合わせたからか、ユーデールも慣れてきていた。

 吹き飛ばされること前提で剣を構え、後退しながら衝撃を受け流す。


 その慣れ方に、魔王が好機を見つけた。

 距離を詰めつつ、両手で持っていた大剣を、左手のみで握りしめる。

 すると、ユーデールがことさら大剣に集中する。わずかに姿勢を変えて、次の一手に備える。


「かかったな」

「――ッ!」


 左の大剣は囮。

 本命は、右の拳。

 ユーデールが魔王の動きに釣られるほどの剣士だからこそ、魔王のノーモーションの拳打には気づきもしなかった。


 魔王が右の拳で狙ったのは、ユーデールの剣。

 想定外からの衝撃に、ユーデールはあっけないほど簡単に剣を手放した。

 首を刎ねるのに絶好の間合いとタイミングだったが――。


「なんじゃ……。寝てれば良いものを」

 背後から迫り来る〝炎〟の魔法を、やむなく処理。大剣の一振りで振り払う。

「っるせえ……! 簡単に終わらせんじゃねえよ」

「威勢がいいが……。残念ながら、時間切れじゃ。戦場が変わる」

「なんだと……?」

 そこへ、己の存在感を示すかのような怒声が轟いた。

「――どこにいやがるっ! 黒髪ィィィッッ!」


   〇   〇   〇


 キラに追い詰められ、幾つもの攻め手を失ったというのに……。なおも〝生きた魔法〟が機能し、五つの〝バレット・ビット〟が猛威を振るう。


 〝魔王〟といえど、たった一人。

 そのたった一人に、三十人の騎士たちが苦戦を強いられていた。

 有象無象のチンピラなどではなく、皆が名のある騎士。コルニーが憧れてやまない騎士もいる。


 その一人がユーデール。

 騎士学校出身者の若き剣士であり、彼が在学中に作った伝説は数知れない。

 中等部一年にして騎士団に内定していた高等部三年を負かしただの、高等部一年時で竜ノ騎士団〝上級騎士〟と渡り合っただの……百年に一度の神童と謳われていた。


 ユーデールの後輩に当たる女騎士ラナークも、やはり有名人。

 剣士としてはもちろん、魔法使いとしても優秀であり、彼女を指針とする女子学生も少なくない。

 竜ノ騎士団の大会形式の試験で、堂々の優勝を果たした才女である。


 そしてセルカーク。

 実は彼は、高等部三年時にユーデールに敗北した男子生徒。

 その悔しさをバネにして、入団後三年という速さで上級騎士に到達……近々副師団長に昇格するのではないかという噂である。


 そんな三人が。騎士団の将来を担うとまで言われた三人ともが。大量の血を流して、〝魔王〟シャーロットを前に倒れていた。


「ねえ……ねえ……! この、このままじゃあ……!」

「いうな、ピアー!」

 言いたいことはわかっていたが、コルニーは聞きたくなかった。その言葉を口にすれば、瞬く間に現実になりそうで……気が狂いそうだった。

「ああ……! 元帥の顔色……また悪く……! なんで……!」


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