1007.代理
「コルニーさんたちは、キラ様の看病をお願いします」
「え……?」
ついさっきまで、リーウも不安そうな顔つきをしていた。しかし、キラが眠りについたのをきっかけに、キリリと表情を引き締める。
それこそが、彼女が〝元帥代理〟に選ばれた理由なのだとわかった。
「総員、戦闘隊形に入ってください。〝応援陣形〟です」
〝元帥代理〟の命令ではあったが、騎士たちはなかなか動こうとはしなかった。
「そうはいうけど……! このまま戦っても、全員無駄死にだろ……っ」
「そうですか。――では、なぜ、魔王は今もなお仕掛けてこないのでしょうか」
「え……。え……?」
「敵を、よく観察してください。――焦げた体は再生したようですが、あの様子では余裕があるとは到底思えません。なぜでしょうか」
「……! ただじゃ使えねぇってことか……!」
「キラ様が敵わなかったのではありません。〝百門詠唱〟、〝転移〟、〝再生〟、〝バレット・ビット〟……そこまで揃えてなお、魔王が追い詰められているのです。――しかも、その全てはキラ様の〝雷〟により阻害されています」
そこまで言われれば、騎士たちを縛るものは消えていく。
目には見えない絶望とやらを言葉にして説明されたことで、少なくとも払い除けられるものと理解できたのだ。
全員の士気が上がる。と同時に、即座に〝応援陣形〟に入っていた。
盾部隊、遊撃部隊、魔法部隊、〝煽り手〟と順に列をなす。リーウだけは一人外れたところにいた。
対する魔王は、なおも動かない。
空中に立って腕を組んだまま、見下ろすだけ。
「魔王シャーロット。私たちが、依然、優勢です。それでもなお、戦うのでしょうか」
「……ふん。追い詰められたのは認めてやろう。じゃがあいにく……この機を逃すほど愚かでは無いのでな」
やはりというか、魔王は退く気はないようだった。
遠目からでもわかるほどに銀色の瞳を輝かせ――巨大な魔法陣を造り出した。
「もっとも。貴様ら雑兵に、このわしを止められるとは思えんがなァ」
コルニーでもわかるほどに、魔王から複雑で強大な〝気配〟を感じる。その〝気配〟が魔法陣と繋がり――うねる炎を生み出す。
まるで魔法が生きているかのように。炎はうねりながら蛇の形を型取り始め、口を大きく開けて迫ってきた。
それに対し、騎士たちはもはや悲鳴はあげない。
盾部隊が中心となって防御体制を作り――しかし、その必要はなかった。
「〝乖呪〟」
〝元帥代理〟が放った呪文一つで。蛇のような炎は瞬く間に崩れ、魔法陣ごと消え去ったのである。
「……ッ! メイド如きが……何をした」
「〝消失の魔法〟……と銘打っておきましょう。魔法を消す魔法でございます。あなたへの対策として理論を組んだのですが……お気に召したようで何より」
「〜〜ッッッッ!」
声にならない声で魔王が唸るのと同じくらい、周りの騎士たちも呆気にとられていた……というより、ドン引きしていた。
魔法を消す魔法など、聞いたこともない。
しかも相手はあの〝魔王〟で、おそらくはぶっつけ本番で試したオリジナル魔法。
〝元帥〟にも匹敵する理不尽さを、皆が感じていた。
「……なぜ私を見るのでしょう?」
皆の視線が集まったことで、リーウは気まずそうにしていた。その態度は、視察に来たキラの姿とそっくりで……コルニーは思わず吹き出してしまった。
それがきっかけとなって、極度に高まっていた緊張感がわずかに緩んだ。
「いやあ……まさしく元帥の〝代理〟だなあ、と」
一人の騎士がそう返し、また別の騎士がいう。
「理不尽だ……ヒデェ理不尽」
そしてもう一人。
「もう準元帥っすよ。そこまでしちゃったら」
もうこの場のどこにも、リーウの采配に疑問を抱く者はいない。
これまでもその的確な指示には誰もが従っていたが、実力まで示されては頭があがらない。
「軽口はここまでにしましょう。――魔王の魔法はできる限り封じ込めますが、正直に言って〝消失の魔法〟は完成度が低い状態です。遠距離部隊も、魔法の追撃を中心にお願いします。〝煽り手〟の方もそのつもりで」
ここが正念場。
というところで、全員の士気が最高潮に達する。
もう誰も、怖気付いたりはしていなかった。
○ ○ ○
〝百門詠唱〟はほぼ使えない。〝転移の魔法〟もなし。動く〝バレット・ビット〟は五つのみ。
それでも、魔王は魔王。
百の魔法の代わりに〝生きた魔法〟を召喚し、五機の〝ビット〟とともに特攻を仕掛けてくる。
これに対して、〝煽り手〟を中心として、騎士たち全員が臨機応変に立ち回った。
「レンジィ、放てェ!」
魔法陣から産み落とされた〝雷の怪鳥〟に、魔法部隊が徹底抗戦。
一人が〝雷〟を使って誘導を試み、他全員で〝炎〟をぶつけて解体する。
「足りない……!」
「押し負ける――〝元帥代理〟ッ!」
「もう少し稼いでください!」
合図と同時に、リーウの〝ドッグナイツ〟が飛び出した。
三体の毛糸の犬が〝怪鳥〟に噛みつき、それを合図にリーウが爆発させる。強引に〝怪鳥〟を放電させ、そこでようやくことなきを得た。
「メレー、囲めェ!」
一方で魔王本人は、盾部隊と遊撃部隊の合間へ降り立った。
この意図を素早く察知した〝煽り手〟が指示を繰り出す。
「囲め、囲めッ!」
「二重隊形!」
一様に剣を構えた騎士は五人。全員が腕に覚えのある上級騎士であり、降り立った魔王を素早く取り囲んだ。第二陣として、四人がその外側に控える。
それに対して魔王は、怯むことがなかった。
五機の〝バレット・ビット〟が、第二陣の騎士たちに対して射撃。
「ぐっ……!」
「だぁっ、くそ! 足が!」




