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~新世界の英雄譚~  作者: 宇良 やすまさ
第10章

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1007.代理

「コルニーさんたちは、キラ様の看病をお願いします」

「え……?」

 ついさっきまで、リーウも不安そうな顔つきをしていた。しかし、キラが眠りについたのをきっかけに、キリリと表情を引き締める。

 それこそが、彼女が〝元帥代理〟に選ばれた理由なのだとわかった。


「総員、戦闘隊形に入ってください。〝応援陣形〟です」

 〝元帥代理〟の命令ではあったが、騎士たちはなかなか動こうとはしなかった。

「そうはいうけど……! このまま戦っても、全員無駄死にだろ……っ」

「そうですか。――では、なぜ、魔王は今もなお仕掛けてこないのでしょうか」

「え……。え……?」

「敵を、よく観察してください。――焦げた体は再生したようですが、あの様子では余裕があるとは到底思えません。なぜでしょうか」

「……! ただじゃ使えねぇってことか……!」

「キラ様が敵わなかったのではありません。〝百門詠唱〟、〝転移〟、〝再生〟、〝バレット・ビット〟……そこまで揃えてなお、魔王が追い詰められているのです。――しかも、その全てはキラ様の〝雷〟により阻害されています」


 そこまで言われれば、騎士たちを縛るものは消えていく。

 目には見えない絶望とやらを言葉にして説明されたことで、少なくとも払い除けられるものと理解できたのだ。

 全員の士気が上がる。と同時に、即座に〝応援陣形〟に入っていた。

 盾部隊、遊撃部隊、魔法部隊、〝煽り手〟と順に列をなす。リーウだけは一人外れたところにいた。

 対する魔王は、なおも動かない。

 空中に立って腕を組んだまま、見下ろすだけ。


「魔王シャーロット。私たちが、依然、優勢です。それでもなお、戦うのでしょうか」

「……ふん。追い詰められたのは認めてやろう。じゃがあいにく……この機を逃すほど愚かでは無いのでな」

 やはりというか、魔王は退く気はないようだった。

 遠目からでもわかるほどに銀色の瞳を輝かせ――巨大な魔法陣を造り出した。


「もっとも。貴様ら雑兵に、このわしを止められるとは思えんがなァ」

 コルニーでもわかるほどに、魔王から複雑で強大な〝気配〟を感じる。その〝気配〟が魔法陣と繋がり――うねる炎を生み出す。

 まるで魔法が生きているかのように。炎はうねりながら蛇の形を型取り始め、口を大きく開けて迫ってきた。

 それに対し、騎士たちはもはや悲鳴はあげない。

 盾部隊が中心となって防御体制を作り――しかし、その必要はなかった。


「〝乖呪〟」

 〝元帥代理〟が放った呪文一つで。蛇のような炎は瞬く間に崩れ、魔法陣ごと消え去ったのである。

「……ッ! メイド如きが……何をした」

「〝消失の魔法〟……と銘打っておきましょう。魔法を消す魔法でございます。あなたへの対策として理論を組んだのですが……お気に召したようで何より」

「〜〜ッッッッ!」


 声にならない声で魔王が唸るのと同じくらい、周りの騎士たちも呆気にとられていた……というより、ドン引きしていた。

 魔法を消す魔法など、聞いたこともない。

 しかも相手はあの〝魔王〟で、おそらくはぶっつけ本番で試したオリジナル魔法。

 〝元帥〟にも匹敵する理不尽さを、皆が感じていた。


「……なぜ私を見るのでしょう?」

 皆の視線が集まったことで、リーウは気まずそうにしていた。その態度は、視察に来たキラの姿とそっくりで……コルニーは思わず吹き出してしまった。

 それがきっかけとなって、極度に高まっていた緊張感がわずかに緩んだ。


「いやあ……まさしく元帥の〝代理〟だなあ、と」

 一人の騎士がそう返し、また別の騎士がいう。

「理不尽だ……ヒデェ理不尽」

 そしてもう一人。

「もう準元帥っすよ。そこまでしちゃったら」

 もうこの場のどこにも、リーウの采配に疑問を抱く者はいない。

 これまでもその的確な指示には誰もが従っていたが、実力まで示されては頭があがらない。


「軽口はここまでにしましょう。――魔王の魔法はできる限り封じ込めますが、正直に言って〝消失の魔法〟は完成度が低い状態です。遠距離部隊も、魔法の追撃を中心にお願いします。〝煽り手〟の方もそのつもりで」

 ここが正念場。

 というところで、全員の士気が最高潮に達する。

 もう誰も、怖気付いたりはしていなかった。


   ○   ○   ○


 〝百門詠唱〟はほぼ使えない。〝転移の魔法〟もなし。動く〝バレット・ビット〟は五つのみ。

 それでも、魔王は魔王。

 百の魔法の代わりに〝生きた魔法〟を召喚し、五機の〝ビット〟とともに特攻を仕掛けてくる。

 これに対して、〝煽り手〟を中心として、騎士たち全員が臨機応変に立ち回った。


「レンジィ、放てェ!」

 魔法陣から産み落とされた〝雷の怪鳥〟に、魔法部隊が徹底抗戦。

 一人が〝雷〟を使って誘導を試み、他全員で〝炎〟をぶつけて解体する。


「足りない……!」

「押し負ける――〝元帥代理〟ッ!」

「もう少し稼いでください!」

 合図と同時に、リーウの〝ドッグナイツ〟が飛び出した。

 三体の毛糸の犬が〝怪鳥〟に噛みつき、それを合図にリーウが爆発させる。強引に〝怪鳥〟を放電させ、そこでようやくことなきを得た。


「メレー、囲めェ!」

 一方で魔王本人は、盾部隊と遊撃部隊の合間へ降り立った。

 この意図を素早く察知した〝煽り手〟が指示を繰り出す。


「囲め、囲めッ!」

「二重隊形!」

 一様に剣を構えた騎士は五人。全員が腕に覚えのある上級騎士であり、降り立った魔王を素早く取り囲んだ。第二陣として、四人がその外側に控える。


 それに対して魔王は、怯むことがなかった。

 五機の〝バレット・ビット〟が、第二陣の騎士たちに対して射撃。


「ぐっ……!」

「だぁっ、くそ! 足が!」


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