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~新世界の英雄譚~  作者: 宇良 やすまさ
第10章

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1006.満身創痍

「――頭回ってないって? それァお互い様でしょ、魔王サマ」

「……ッ!」

 空には、いつの間にか黒い雲がかかっていた。

 〝バレット・ビット〟の全砲門がビームを撃ち出すその瞬間、ドス黒い雲の内側が怪しく瞬き――〝雷〟を落とす。

 雷光が蛇行しながら鋭くキラの元へ舞い降り、遅れて爆音を轟かせた。


 そうやって、二十のレーザーも、〝バレット・ビット〟も、〝魔王〟シャーロットも、まとめて吹き飛ばしてしまった。

 〝元帥〟キラは、魔王が一気に畳み掛けてくるその時こそを、待ち望んでいたのだ。


「キラ様……!」

 左半身を焼かれた〝魔王〟はたまらず空中へと避難し、〝バレット・ビット〟を引き寄せる。

 その間に、今度こそリーウが駆けつけ、三十余りの騎士たちがその周りを守りに入る。

 もちろん、コルニーもピアーもミリーも、黒髪の少年のそばに駆け寄る。


「ぜぇ……ぜぇ……。は……も……むり」

「ご無事で何よりです。キラ様」

 そうはいっても、キラは全身傷だらけだった。

 遠目からではわからなかった切り傷や火傷でまみれている。〝魔王〟の剣を受け切った左腕は深い傷が刻まれ、ひどく出血している。

 だが何より恐ろしかったのは、キラの呼吸の速さ。

 尋常では無いほど、息が荒い。心臓の音が聞こえてきそうなほどに、胸が絶えず上下している。そのままでは爆発しそうだった。


「……! ま、まず、血を……止血……っ!」

 コルニーが〝治癒の魔法〟の準備に入ったところ、キラがわずかに首を振った。

「これ……。これ……のませて」

 キラが右腕をモゾモゾと動かし、ポーチを探った。緩慢な動きで取り出したのは、茶色い小瓶。

 リーウは一瞬で意図を汲み取ったのか、素早くその小瓶を受け取った。


「一錠でよろしいでしょうか?」

「ん……」

「口移しで失礼します。この状況で〝錯覚系統〟はかけられませんので……少し苦しいですが、我慢を」

「ん……」


 リーウは小瓶から薬らしい錠剤を一つ取ると、自分の口に含んだ。それから指をくるりと回してから、魔法で水の塊を作り出す。

 その水に口をつけて、頬が膨らむくらいに大量にため込む。

 そうして迷わず、しかし慎重に、キラの唇を塞いだ。水と一緒に錠剤を流し込む。


 おそらく、魔法を使って水を操っているのだろう。口に移すだけでなく、喉の奥から胃に届くまで、水で錠剤を押し込んでいく。

 その苦しさがどれほどのものか。ましてや、今の今まで荒い呼吸をしていたのだ。キラの体が反射的に抵抗を始める。


「お、抑えるぞっ」

 リーウが失敗しないように。キラがこれ以上消耗しないように。コルニーはピアーとミリーとともに、脚と右腕と左腕を体全部で押さえ込んだ。


「――。三人とも、ありがとうございます」

 リーウが名残惜しそうに唇を離すと、キラは再び呼吸を荒くした。

 しかし、先ほどまでの不安になりそうな荒さはなく、胸の上下運動も少しずつおさまっていく。

 何が何だかわからなかったが、コルニーは改めて〝治癒の魔法〟の準備に入った。騎士学校で習い、今日も実際に何度も怪我人に使ったとはいえ、慎重に呪文を口ずさむ。

 ピアーも同じようにして〝治癒の魔法〟を使い、魔法が苦手なミリーは、先んじて傷口の周りについた土や草や泥を取り除いていく。


「リーウ……。とりあえず……要点だけ……」

「はい」

「警戒するのは……。〝百門詠唱〟……。百の多重詠唱で……〝転移〟と〝不可視〟も併用してくるから……」

「……!」

 その話にコルニーはぎょっとした。いまだに動きを見せない魔王の様子が気になったが、それを確認するのも恐ろしくなり……キラの治療に集中する。


「ただ……。〝雷〟を何度か流したから……まだ魔法は使いづらい、はず……。連携力は削いだと思う……。あとあの兵器も……。ただ……近接戦はリリィクラスだから……」

「わかりました。注意しておきます」

「で……。魔王……再生する……。殺しきれないと思う……」

「――は?」


 その事実が、この状況において、どれほど重いか。

 周りで守りを固めていた騎士たちも、その一言にざわりとする。〝元帥〟が一体何に苦しめられていたのか……改めて、わからなくなっていた。


「なんだよ……。それ……!」

「そんな……そんなの、どうやって……っ」

「元帥でもかなわなかったのに……」


 騎士たちの間に広がる不安が、絶望へと塗り替えられていく。下級騎士から上級騎士まで揃っているが……誰もが、怖気付いていた。

 そんな状況なのに、コルニーは〝治癒の魔法〟に集中する以外できなかった。

 何か声を掛けられればと思いはするものの、口の中がカラカラになるばかり。それ以前に、〝見習い〟の発破になど誰も耳を傾けない。

 いつもはお調子者のピアーもおろおろとするばかりで、ミリーなどは泣きそうになっていた。


「五分……五分、だけ……」

 今にも消え入りそうなキラの呟きは、誰にも届いてなかっただろう。

 コルニーも最初はうまく聞き取れず、何を言ったのかさっぱりだった。聞き返そうにも、キラはすでにくうすかと眠りについていた。

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