1005.元帥VS魔王
「ミリー、平気か……っ?」
「うん……! キラさんを……助けなきゃ……!」
まだ十二歳で、身体も小柄で。戦うことすら知らないミリーが、疲労で顔色を悪くしながら、なおも足を止めない。
そんな少女が隣にいるというのに、弱音など吐いてはいられなかった。
「――見えたっ」
先をいくリーウと騎士たちが立ち止まっている。
彼ら彼女らの視線の先には、理解不能な戦場が広がっていた。
何かボールのようなものがいくつも空を飛んでいた。
まるで獲物を狩る鳥のように縦横無尽に飛び回り、黄色い光線を打ち出す。
その標的となっているのは、〝元帥〟キラ。
彼はその全てを回避していた。
右足を一歩引くことで、体を少し沈めることで、頭を傾けることで――無限に続くレーザーを避けている。
しかもその上で、〝魔王〟の猛攻をさばいている。
というより、接近戦を待ち望んでいたかのようだった。
パワーをいなし、レーザーを避け。それを数回繰り返したのち、タイミングを見てグッと踏み込み、鍔迫り合いに持ち込む。
とはいえ、立ち止まっていてはレーザーの餌食になる。
細かな足運びで位置をずらしつつ、その動きこそをフェイントとしてミスを誘う。
その思惑に、魔王は踊らされていた。
タイミングをずらされては斬られ、踏み込み方を間違えては斬られ、大剣の構え方の隙を突かれて血を流す。
圧倒的な剣術の差に、魔王がたまらず後退。キラはそれをも見越していたが、レーザーに阻まれてしまう。
そんな人間離れした戦い方に、皆が絶句していた。
コルニーたちはもちろん、リーウも騎士たちも割って入るようなことはできない。ただただ、その様子を見守るだけ。
「ハァ……ゼェ……! くそっ……!」
だが、キラもすでに限界が近かった。
腕や足には焼け跡があり、他にもいくつか線のような黒い筋がある。当然〝元帥羽織〟はボロボロで、靴が脱げたのか両足とも素足だった。
何度か膝が沈み込むこともあり、ギリギリのところで横っ飛びになってなんとか誤魔化している。
そんなところへ。
「ヌン!」
〝魔王〟シャーロットが、大剣を手に斬りかかる。
地面にうつ伏せになって倒れていたキラは、草原を掴むようにして後転。
間一髪で回避し、即座に魔王へ接近戦を仕掛ける。
「このバケモンが……! おとなしく狩られんかっ!」
刀による一撃を、魔王は大剣で簡単に弾いた。そうやって防いだ流れで、上段から振り下ろす。
キラはそれを見越していた。
弾かれて流れる刀に身を任せ、くるりと回転。
避けつつ、カウンター――を、魔王も予見していた。
素手で、首元へ迫り来る鋭い刃を掴み取る――正しくは、五本の指で受け止めた。
「……ッ!」
「じゃが、もう頭が回らんか。無理もない――大技を構えられんよう〝バレット・ビット〟を主軸としたんじゃ。あの〝雷〟は喰らいとうないんでなァ」
「っとに……!」
何かしなければ。何かしなければ。何かしなければ――。
そう思えば思うほどに、コルニーは頭の中が真っ白になっていく。
見方を変えれば、キラが〝魔王〟を抑えている状況である。刀を掴まれたのを利用し、力で押し込もうとしている。
そこへ割って入って、魔法でもなんでも叩き込めば良かった。
だが。〝魔王〟が垂れ流す恐ろしい気配が、そうさせてくれない。一歩でも踏み込めば、何か仕掛けてくる……そんな嫌な空気を纏っていた。
リーウも、三十人はいる騎士たちも、誰一人として迂闊に入り込めないでいた。
そうしているうちに、〝バレット・ビット〟の一つがレーザーを放ち――。
「ぐ……!」
キラの右の太ももを貫通。
ぐらりと、その体が倒れる。
そこへ。
「しまいじゃッ!」
魔王の大剣が降り注いだ。
キラはこれを腕でガードし――そこが限界。
そのままパワー負けして、背中から叩きつけられる。
まるで爆発でもしたかのように、地面が陥没。
「キラ様!」
「元帥!」
リーウや騎士たちがなりふり構わず駆けつけようとしたのを、誰あろうキラが咎める。
「来ちゃ……ダメだッ!」
一難去ってまた一難。
魔王のパワーをなんとか受け止めたというのに。およそ二十の〝バレット・ビット〟が、キラを至近距離で包囲した。
決着をつけようと全ての砲口が瞬く。
「ああ……っ!」
その場にいる全員、最悪の結末を想像しながらも、見ることしかできなかった。
おそらく〝魔王〟シャーロットも、自らの勝利を確信していただろう。
ただ。〝元帥〟キラだけは、その瞬間まで諦めていなかった。
「――頭回ってないって? それァお互い様でしょ、魔王サマ」




