1004.ひよっこ
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竜ノ騎士団〝見習い〟コルニー。つい一ヶ月ほど前、友人のピアーとともに入団したばかりの新人騎士である。
弱冠十四歳での入団は、コルニーやその周りにとって快挙と言えた。
なにせ、騎士学校〝中等部〟在学中の騎士団入り。
騎士学校の最終目的を、高等部に進学することなく、一足飛びに達成したのだから……学校をあげてのお祭り騒ぎとなった。
クラスメイトや担任教師、隣のクラスから先輩から後輩から、全く関わりのない高等部の先輩や先生まで……。試験合格を知らせるとみんなから祝福されて、コルニーはピアーと一緒に世界をとったつもりにすらなっていた。
だが……少しずつ、現実を知っていくことになる。
まず衝撃的だったのが、〝北の三番の伝説〟。
試験の課題は、王都に戻ること。そのためには〝疫病問題〟をクリアする必要があったのだが、コルニーはそれどころではなかった。
他の受験者たちとなんとか折り合いをつけ、協力関係を築き、一晩明かしたところでようやく街に着いたのだ。
その苦労あってこその喜びだったが……ものの一時間で王都に戻った受験者がいたという。
次なる衝撃は、〝王都武闘会〟で目の当たりにした。
新人騎士たちも武闘会に参加する権利が与えられていた。〝ランクアップシステム〟により下級騎士からのスタートも夢ではなかった。
しかし、コルニーもピアーも、前線に出て戦うことを想定して訓練したわけではない。なにせまだ中等部……真剣を持ったことも何度とない。
そういうわけで参加を見送ったのだが、それが普通だと思っていた。
〝ランクアップシステム〟は魅力的ではあるものの、経験を積んだ騎士たちに敵うはずがないと思い込んでいた。
二万を超える観客を沸かすような戦いなどできない。どうせまばらな拍手が続くばかりだと……。
だが、違った。
新人クラスからの参加者は二十名ほど。
その全員が、血を流す覚悟で前のめりに戦っていた。〝がんばったで賞〟など、誰も望んでいなかった。
とりわけ鳥肌が立ったのが、セドリックVSバックス。
剣技と格闘術のぶつかり合いには、互いの意地が見えて……コルニーもピアーも、声をあげて応援していた。
そして、忘れもしない新人式での顔合わせ。
〝元帥〟リリィの演説の後、新人たちの配属先が発表され、そこで同期となる〝北部第一騎士寮〟のメンバーと挨拶することとなった。
王都配属となった五十五人のうち、〝北部第一〟は九人。大学や冒険者の出が多く、年齢層は比較的高め。二十歳以下は三人しかいなかった。
コルニーもピアーも、新人騎士の中でも最年少と思っていたのだが……もっと下がいた。
それが、パン屋の娘のミリーである。
その時はまだ誕生日を迎えていなかったということもあって、弱冠十一歳。今年はおろか、ここ十年でも最年少での合格というのだから、皆で驚いたものである。
しかも、騎士学校に通ったことはなく、誰かに師事したこともないのだという。試験に向けて、少し手ほどきをしてもらった経験があるだけ。
まさしく、生まれながらの騎士。各々の資質を問う〝疫病問題〟が見出した、ある種の天才と言えるだろう。
世界は広く、自分は井の中の蛙にすぎなかったのだと……コルニーとピアーは、改めて思い知ったのである。
「ハァ……ハァ……!」
「うぅ……もっと……! 走り込みしとけば良かったぁ……!」
「ハッ、ハッ……! ピアー、無駄口は……体力減るぞ……っ」
〝元帥〟キラが……あの物腰柔らかな黒髪の少年が、〝魔王〟を足止めしている。クロエ・サーベラスからそう聞かされれば、取るべき行動は一つだった。
すなわち、猛ダッシュ。
幻覚のパニックの対処に、どれだけ時間をかけていたのかはわからない。
だが、三十分は下らないはずであり、黒髪の少年キラはそれだけの時間を〝魔王〟と戦っている。
一分一秒が惜しく、ほぼ全速力で走り続けていた。
「センパイたち……元帥代理も……なんで、あんなに……っ」
ピアーの疑問も最もだった。
コルニーとピアーとミリーは、たった今門をくぐったところ。
だというのに、リーウも騎士たちも、走る速度を落とすことなく何十メートルと先にいる。
皆、三十分間も無為に過ごしたわけではない。幻覚が感染するという前代未聞の事態に、全身全霊で当たっていた。
とりわけリーウは凄まじかった。
魔法で感染者を抑制しつつ、指示を飛ばして隔離を徹底し、その上で幻覚の解除法を見出したのだ。コルニーたちはその指示に従うだけで精一杯だったというのに、一人で何役もこなし、最適解を出し続けていた。
〝元帥代理〟に選ばれるだけはある……化け物じみた胆力だった。
他の騎士たちも並大抵ではない。
感染者を傷つけないように細心の注意を払い、しかしだからといって戦うことを躊躇しなかった。
峰打ちで転ばせたり、体当たりで尻餅をつかせたりして確実に無力化していき、元感染者をそのまま放置はせずに安全な場所へ運ぶ。
決断力も視野の広さも意志の強さも、誰もが高い水準で兼ね備えていた。
やはり、まだまだ世界は広いのだと実感する。




