1003.魔導術
「ふう——」
キラによれば。〝擬似覇術〟は魔法と波動術を掛け合わせたものなのだという。
本来は〝魔法周波数〟を使うところを、〝波動周波数〟で魔法を使っている状態なのだとか……。
そもそも〝魔法周波数〟は魔法専用の〝波動周波数〟、らしい。ヒトによって〝魔法周波数〟の周波数帯が異なるのだという。
その魔法専用の周波数帯を以て、魔法を使うわけだが――アランは、プラスアルファの形で、類似した〝波動周波数〟の周波数帯を付与している。
一つの小石を取るのに、周りの砂地もまとめて掴んでいるみたい……とキラは表現していた。
重要なのは、砂地をまとめて手に取っているということ。
つまりは、〝波動術〟で魔法現象を手繰り寄せているのだ。キラも近いことができるらしいが、それとは比べ物にならないほど完成度が高いらしい。
ということは――。
「――こう、か」
意識の仕方を変えるだけで、アランは〝波動術〟を使える。
その切り替えを、この窮地で、しかも感覚のみでなさねばならないが――超重力に押しつぶされそうな状況が、かえって手助けしてくれる。
〝波動術〟が操る〝波動〟とやらは、万物に存在している。
〝魔素〟は超重力に押しつぶされて地面に溜まってしまうが、超重力そのものもまた〝波動〟の塊。
しかも自然現象ではなく、何か道具によって発生しているのだから、〝波動〟という存在を直に感じ取ることができる。
まるで渦潮でも発生しているかのような〝波動〟を感じ――アランは、それをコピーした。
「ハァ……ハァ……。ふう。戦いの最中に息切れを起こすのは、もう何年振りか……」
「なっ……!」
カラクリがわかってしまえば、解除の仕方も簡単だった。
超重力は、極々小さな〝波動〟の渦の集まり。その力が下方向へ向かうことで、対象を地面へ押しつぶそうとする超重力に変わる。
ならば、その全てをかき消すかのように、〝波動術〟で〝渦〟を作ればいいだけ。
「上の四人……。ようやく目があったな」
屋根の上に取り囲むようにして展開している四人は、目に見えて動揺していた。何か妙な道具をその手に持っていたが、一人が取り落としてしまった。
四人が揃って使わねば意味がないのは把握済み。
ということで。
「まあ、そう怯えず――降りてこい」
新たに体得した〝重力の魔導術〟を使って、四人を引き寄せる。
まるで化け物にでも喰われるかのような悲鳴をそれぞれがあげ――足元に落ちてきた四人を、そのまま〝重力〟で拘束する。
「便利なものだな、〝重力〟というのは。気に入るのも無理はない」
「なんで……! どうして……そんなことがッ」
「俺と睨み合いをする気概があるというのに……案外、不甲斐なく腰を抜かすのだな。どうした、気が抜けたか」
アランは四人をそのまま左手の〝重力〟で抑えつつ、右手でも使ってみる。わずかに左手の方にブレが生じたが、失敗も厭わず最後の一人を〝重力〟で引っ張る。
流石に右も左も一緒くたに使うのは一秒ももたなかったが……それでも、五人の侵略者は気絶していたため、一旦はヨシとする。
「もしや、〝不可視の魔法〟も同じ原理か……? だがアレは、自分の体をも動かす……。――検証が必要だ」
年甲斐もなくワクワクしている自分に気付き、アランはわけもなく咳払いをした。
しかしそれでも気持ちがそわそわとする。一刻も早くシリウスとともに研究をしたくなるが、それをグッと堪える。
「で……重力を発生させていた道具は……」
四人とも、屋上から引き摺り下ろされた際に、その妙な道具を手放したらしい。地面に散らばっていた。
回収しておこうと近づいたところで。
『強制回収、シマス』
妙な声と共に、四つとも消えてしまった。
「……キラ殿に共有しておくべきだろうな」
〝王都武闘会〟決勝戦でキラと手合わせしてから……アランは、たびたび彼の不思議さについて考えるようになった。
あれほど完璧な〝戦士〟に、アランは今まで出会ったことがない。
特に、近接戦闘における心構え。瞬発力や発想力もさることながら、いかなる危機にも冷静さを欠かない。
目を丸くするのは、ほんの一瞬。次の瞬間には鋭く引き絞られ、解決策を見出している。あるいは、凌ぎながら反撃の一手を考えている。
戦場で敵として出会ったのならば、アランも死を前提として動くだろう。
〝元帥〟に落ち着いてくれてよかったと、心底思う……と同時に、あれほどの傑物が〝不死身の英雄〟に師事したという事実が信じられないでいる。
はっきりとしたことは知らないが、リリィやシリウスの話を聞く限り、何やら特殊な事情があるというのはわかる。
しかしそれはそれとして、キラは強い。彼に関わった人間全てが断言するほどに、彼は根っからの戦士である。
身を挺してドラゴンに立ち向かったこと、旧エマール領のごたごたに首を突っ込んだこと、帝国との戦争を終わらせたこと……。
それらの事実と、『キラが〝不死身の英雄〟に師事した』という話とが、どうにも結びつかない。
よほどの事情があったと言われればそれまでだが……。
「なぜ師匠は……彼を弟子に取った?」
不意に湧いた疑問に答えてくれる者はいない。アランはゆっくり首を振ってから、その疑問を頭の隅に追いやり、現状に目を向けた。
「存外、時間を食ったが……〝魔王〟とやらが現れた様子はないな。であれば……ふん……俺は守りを固めるか」
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