前世で言う非科学的なもの、つまりはそれってファンタジーじゃない?ーーなら、この世界がその存在を証明してない?
クラウスが変なことを最後に言ってきたせいで、寝なければいけないのに全く寝付けない。眠気が何処かへ逃げてしまっている
私たちが今いるのはピクニックを楽しんだ草原である
この世界では長距離の移動の際には近くに別荘や知り合いの貴族の屋敷などがあればそこに滞在するのだが、基本的には野営を行う
野営といっても私達が乗っている馬車とは別に荷物を運んでいる馬車にあるテントを張って過ごすのだ
このテント、貴族様用なのでとても質が良い
外に使われているのは雨風をきちんと凌ぐことが出来るように防水作用も兼ね備えている魔獣である雨皮馬の皮で作られていて、大きさもかなりのものである。中も地面の部分は痛くないようフワフワの雲のような毛皮をもつ雲羊の羊毛がぎっしりと敷かれているので、中に入ってしまうとテントではなく別世界である
なお、このテントのお値段は軽ーくお屋敷を一から建てることが出来るくらいなんだそう。最初の日に驚いていた私が「いくらなんだろう…」と呟いたのが聞こえたクラウスが教えてくれた
中で過ごしているとここが草原の中だと忘れてしまうくらいに過ごしやすいVIPルームなんだけど、眠気は関係ないようで全く眠れる気がしない
ああ、クラウスたちは私たちが過ごしているテントとは質がちがうけど、それでも比較的過ごしやすいテントでお泊まりしています。あとは周囲に交代制で見張りがいるそう
外に人がいるのなら何を怖がるだろうと思われるかもしれないけど、私は幽霊とかその手のものが非常に苦手である
別に、霊感がある訳でもないんだけど苦手なものは苦手なので勘弁していただきたい
お父様達は既にグッスリと夢の中に入ってしまっていて、起こすわけにもいかない。でも、眠らないで過ごすにはあまりにも夜は長すぎる
変に外に出るのも気がひけるし、何をして過ごすにも何もないので頭のなかで妄想とかをするくらいしか出来ることがないのだ
このままだと、明日屋敷に帰った時に疲れてバタンキューしてしまう未来が見える。別に問題じゃないけど、なんだか気が引けてしまうので出来ればちゃんと生活リズムが整っているいい子で過ごしたい
うーーーん、護衛でも頼んで散歩にでも行ってこようかな。身体を動かしたら眠れる可能性が高くなる気もするし…
そう思ってから私はこそこそと両親を起こさないように注意をしながらテントの外へと抜け出した
テントの外には出てすぐのところで見張りをしている騎士の人がいた。護衛をしてくれているのは公爵家に仕えている騎士の一部だ。領主の持つ騎士についてはまた後々話すとして…見張りの騎士の人もすぐに私に気がついて駆け寄ってきた
「お嬢様、どうかされましたか!?」
見張りをしてくれていたのは騎士としても長く支えてくれているイーサン・ローだ。少し白髪の混じっている茶髪をバッチリ後ろ流している四十代くらいのオジサマで、性格はお爺様とよく似ている豪胆なひと…の、はず
ゲームに出てこないような普通の人たちについては今の身体になってから覚えていっているのでちょっと不安があるけど、あっている…と思う
「イーサン…その、すこしねむれなくて」
何かあったのではないかと心配してくれているイーサンには悪いけど、大声を出すと他の人たちも起きてくるかもしれないので静かにしてほしい
声が高いのがイーサンの良いところの一つであり悪いところでもあると私はつくづく思うのだった
「それはそれは!何か飲み物でも用意させましょうか?」
見た目は子供の扱いとかに慣れてなさそうなイーサンだが意外にも配慮の出来る男らしい、私が片手の人差し指を口元に当てて暗に静かにするように示したジェスチャーをちゃんと読み取って声のボリュームを下げてくれた
「ううん、だいじょうぶ。でも、ねむれないからすこしさんぽをしたいの」
「散歩ですか?うーーん…では、護衛として別の者を起こしてきますので暫しお待ちいただいてもよろしいですかな?」
今、私達親子が過ごしているテントを見張っていたのはイーサンだけだったみたいで、散歩についてはダメとは言わなかったけど1人ではやっぱり行かせてくれないみたいだ
私の護衛として新しく人をここに連れてくると言われると、夜も遅いので雇っている側の人間としては変わってるかもしれないけど悪いという気持ちになる
別に、そこまでして散歩がしたいわけじゃないしね
「あ、そこまではしなくていいの。ねむりにくいから、うごいたらねむくなるかと思っただけだから」
あと、よくよく考えると散歩するにしても歩く場所はこの草原しかない。そうなると、幽霊が出る可能性が上がるというか、会いに行くようなものじゃないかと気がついた
よかった、行く前にその事に気付いて…散歩を始めてから幽霊と遭遇なんてことになったらたまったものじゃない
あ、この世界に幽霊がいるのかについてなんだけど、そこに関しては何もわかってないんだよね。いるともいないとも言われていない、つまりは謎である
だから、考え方によって人によっては幽霊は存在するし、反対にそんなものがいるはずはない。人は死ぬときに魂が神の元へと戻るのだという人たちもいる
私?私はなんとなく居る方に賭けます
居て欲しくはないけど、ファンタジー世界に転生してしまっている以上、いない方が不自然に思えてしまうから、こればっかりは仕方ないと思う
はあ、怖過ぎる。何かされるわけでもないと思うけど、やっぱり怖いよ…ぴえん
どうやって眠気が来るまで耐えていようかな、なんて思っていると誰かが私たちのところに近づいてくる影が見えた
イーサンが剣に手をかけて私の前へと出る




