現代はあまりにも娯楽が多過ぎて、移動時間が退屈ですーー本というどこにでもあるそれは素晴らしい発明です
あれからさらに数日経過しました
あの日から変わらず私はヴェントとずぅうっと一緒、合間を見ては書斎で読書にふけるという毎日を過ごした
そして、私は公爵領へと帰ることになった
本当ならもっと早く帰るはずだったんだけど、誘拐事件とか色々と大人の事情でかなり滞在日数が延びてしまった。お父様の領地でのお仕事をこれ以上置いておかないという、これまた大人の事情により私の王都滞在は終わりを迎えることなった
「ルーナ!ちゃんとやしきにいるんだぞ!」
今私は、帰るための馬車の中にいる。窓から顔を出して別れの挨拶をしているところだ
ヴェントは強がっている姿を見せているけど、目が潤んでいる
そして、やっぱりまだ気にしているらしい。言い過ぎで口が酸っぱくなってしまってるくらい私に言ってきた“室内にいるように”。ここまでくるといじらしいものである
「…きょくりょくね!」
だが、私は出来ない約束はしない主義なのだ
屋敷の外に興味の対象というか用があれば出て行くつもりだし、そもそも外に出ないでずっと過ごすなんてことは不可能なので曖昧な返事を満面の笑みでしておく
それを聞いたヴェントは意味は分かっていないようだが良い返事ではないかとはわかったのか複雑そうだ。それを横で見てる大人達は微笑ましそうだけど
「じゃあ、わたしかえるね。ヴェントもげんきでね、また会ったらあそぼうね」
バイバイと手を小さく振る
なんだかんだとヴェントと共にいた日々は楽しかった
領地に帰っても同じように遊んでくれる子供いないので、今回のように悪戯して過ごしたり、走り回ったりなんて出来ないのがちょっと残念だけど、仕方ない
「っ…おう!それまでに、つよくなっておくからな!」
なんだかよくわからない宣言を受けてしまったけど、何事もやる気があるのなら問題はないので何も言わずに頷いておこう
「ではまた」
お父様たちも挨拶を済ませたようで馬車は公爵領に向けて走り出した
あ、クラウスは行者と一緒に乗せるわけにはいかないということで、今回は急遽私達と一緒の馬車に乗っている
ペイジではあるけど貴族なので、扱いをひどくしてはいけないのだ。世間体というのもあるらしい
クラウスは立場はペイジであることは変わりないのでいつもの他所行きスマイルで私の隣に座っている
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王都から私達の住むナハトヒンメルン公爵領までは馬車で3日かかる距離がある
馬車自体の性能が良いので乗っていて身体が痛くなることはないものの、暇だけはどうしようもない
来るときにはリオンの事やお茶会のことが心配だったのや初めての馬車に遠くへの外出ということでハラハラワクワクしていたので気づけば着いていたけど、帰りはそうはいかない
数時間くらいなら眠っていてもよかったんだけど、流石に3日間眠り続けるわけにもいかない
クラウスと雑談もできないので両親と会話を弾ませるもののずっと途切れなく話を続けることは出来ない
あと、何かあったらと心配して周囲の護衛を今回増やしていることもあって行きとはまた違う道で帰っているそうだ
道が違っても距離はそこまで変わらないらしい。あと、周囲の景色も草原でつまらない。こう、楽しめることがあればいいけどゲームもスマホも当たり前にないので現代人には退屈な時間を過ごしている
退屈を我慢して2日
あと1日だというところで気分を変えようと休憩することになった
あたりには怪しい人物などが見当たらない草原でのピクニック的なものだ
ピクニックといっても簡単な軽食を談笑しながら楽しむものだけど、閉塞的な馬車の中とは違って開放的なだけで気持ちが結構変わってくるものだ
護衛してくれている人たちには申し訳ないけど、もう少しこうして外でゆっくりしていたいところだ
「お嬢様、大丈夫ですか?」
お父様達から少しだけ距離を開けてぼ〜と1人空を眺めているとクラウスが声をかけてきた
話はしていないものの私が退屈していたのはクラウスも知っているだろう、聞いてきているけど特に意図は感じなかった
「はなしあいてがいてくれたら、たのしいわ」
お父様達は護衛の人たちと何か話をしているようだ。声が大きくないのでよく聞こえないけど子供にはどうせ教えてくれないと思うので知ーらない
「なら、僕の出番だね」
お父様たちもこっちの会話は聞こえないからか2人の時の話し方になるクラウスは膝をついて私の横へと身体を寄せてきた
「お姫様は退屈みたいだね」
「だって、ばしゃのなかじゃすることがないもの。あと1日だけど、とっても長かったわ」
感想としてはうんざり、だ
暫く馬車での遠出は遠慮したいところである。いや、ないとは思うんだけどね?今回みたいに王子から呼ばれることのほうが稀だと思うしね
「室内でも楽しめる物があればいいのにね。本くらいしかないけど、本は持ってきてないからもう少し辛抱してね」
「わかってるわ。でも、こんなことなら本をおじさまに借りてくればよかったわ」
そうすれば、少なくとも最初の1日くらいは暇じゃなかった。そして、体感でいえばもうお屋敷に到着していたのに
「次の遠出の際には本を持参しようか。お姫様が退屈しないようにしないと、暇すぎて君が溶けちゃうかもしれないからね」
「なによそれ」
「暇を持て余している時の君はだれてしまってスライムみたいになってる時があるよ」
「え!うそ!?」
衝撃の事実!!お父様達に見られてない!?
「う・そ」
だまされた〜、と笑ってるクラウス。鳩尾に一発喰らわしてやろうかと右手をグッと握る。これは喰らわしても文句は言われないやつだろう、うん
「ごめん、ごめん。怒らないで。良いこと教えてあげるから」
謝ってきてるけど絶対こいつ、反省してない
顔が笑ったままなんだよ。騙される私が悪いというかもしれないけど、騙してきた方が悪いからね!
「良いこと?」
つまらなかったら一発いくからな
心の中で物騒なことを考える
「ここの草原、出るらしいよ?」
なにが、とは教えてくれなかった




