全てがうまくいくなんて、そうは問屋が卸さないーーだって、そんな、思わないでしょ?
上手くいった!!
手元にあるモノを見て、興奮が収まらず手が震える
心臓が耳元にあるみたいにバクバクと音を立てる
私は今、確かに魔法を使ったのだ!!
《魔法》
ファンタジー世界における最も代表的な不思議能力であるそれを扱うには以前にも話したが三つの要素を必要とする
《魔力》《呪文》《媒介》
そして、重要になるのが《媒介》である杖だ
ただ、ここでより詳しく説明させてもらうと本当に必要なのは杖ではない。杖を構成する上で最も大切なのは《魔鉱石》である
魔鉱石とは魔力の篭った宝石のこと。この世界にある宝石には多少なりとも魔力が含まれており、その魔力を媒介として魔法を使うことができるのだ
だから、魔法を使いたいのなら真っ先に用意するのは魔鉱石になる
質の良い魔鉱石ほど強力な魔法を使う上で最も気をつけなければならない物であり、用意するのが難しい代物なのだ
貴族にしか魔法が使えないのも平民では魔鉱石を用意することが出来ないことが理由にあるのかもしれないな
さて、私が手に持っているのは男たちの持ち物として持っていた指輪ではなく、机の上にカードを押さえるために置かれていた岩石である
見た目は薄暗くただの石というか岩。大人の拳くらいの大きさのそれは外見からはとてもじゃないが高価なものには見えない
しかし、実際、この岩石の中身は立派な美しい宝石なのだ。磨く前の原石であり、見る人が見れば驚くべき価値のある代物である
穴からこの岩石を目にしたとき、私がここから抜け出すにはこれを使うしか方法はないと思った
魔法の使い方すら知らない。魔鉱石さえあれば理論的には魔法が使うことができる、そのことは分かってはいても上手くいく保証はどこにもない。本当に、行き当たりばったりというか、なるようになれの精神でした行動だった
1人目の男はまずぼろぼろのロープを布で補強したもので足を引っ掛ける、そのあと酒瓶で頭をガンっと一発。大丈夫、重力を利用して落としたとは言っても5歳女児の力なので意識が飛ぶくらいの威力しかありません。でも、良い子は真似しないでね
2人目は入ってきたところに小麦粉を包んだハンカチを顔面にぶつける。上手く当てられるかは賭けだったけど、ちゃんと顔面にヒットしたので無問題!ふらふらになってるところを倒しておいたクワのクワの部分を思い切り踏んで持ち上がった柄の部分をぶつけてノックアウト。良い子は危ないから真似しちゃダメだよ?
最後のリーダーは木箱にまず隠れながら移動して、ワイン瓶に気づかせないようにする。そして、木箱が持ち上げられたのと同時に男の急所に向かってドンっ!とワイン瓶を振り上げる
そして、机の岩石をさりげなく奪ってから扉へ
急所を狙うのは危ない目にあってる時だけにしようね!良い子は真似しないように!
本当なら、これで外に逃げられたらよかったんだけど鍵がかかってるみたいで外には出られなかった
思っていたよりもリーダーの男の復活が早かったので、岩石に対して魔力とかよく分からないけどイメージで力を集中させるようにしながらそれっぽい呪文を口にした
光よ集いて輝きたまえ、ってね
そしたら、持ってた岩石がさながらスポットライトのように輝いたというわけ。怖かったので目を閉じていたおかげで私の目はやられてないけど、直視しただろうリーダーの男は両眼を手で隠しながら床にのたうちまわってる
よし、今のうちに次の策を練らねば
扉の上の方を見てみると鍵と言うよりは引っかかるタイプの仕掛けがあるようだ。位置からしても私ではとても届く高さではない
岩石を使ってまた魔法を使いたいところだけど、これもなんとなくの感覚だけど使えない気がする
なんだか、身体が怠いのだ。魔法を使った反動なのか、私の魔力量が少ないのかは分からないけど、魔法はいざと言う時の為に今は使わない方がいいだろう
でも、だからと言って何もせずにいる訳にもいかない。目のダメージが落ち着いたリーダーであったり、意識の戻った男たちがいつ私のところに来るかわからない。残念なことにこの小屋には隠れることができそうな所は見当たらない。逃げ場がないのだ
窓…も、位置が少し高い。椅子を用意できればいいけど、椅子はリーダーの男のそばだ。正直言って近付きたくない
もう一度、魔法を使えるか試してみるしか、ない…か
ちらっとリーダーの男の方を見る。唸っていてまだ回復はしてなさそうだ
これで捕まれば今度は縛り上げられて痛めつけられる可能性がある。死ななくても酷い目にあっては元も子もないのだから
私はまた、岩石へと意識を集中する
「かぎよ、ひらきたまえ」
岩石は反応しない。扉の鍵?仕掛け?もうんともすんとも言わない
ダメか…自然を操る内容じゃないからなのかな?ゲームの中では魔法は杖を振って呪文さえ唱えておけば大抵問題なく発動していたので、その理屈とかはよく知らないのだ。こんなことなら、もっと詳しく調べておくべきだった
もう、こんなことしている場合じゃないのに!!
「よぉ…っ…さっきはよくもやってくれたなぁ?」
声に慌てて振り返るといつの間にか復活していたリーダーの男が私の背後に立っていた
光を浴びた影響なのか目がギンギンで人間っぽくない。明らかに殺気立っている様子で私へと手を伸ばしてくる
万事休すか…せめて、痛みが少しでも少なくなりますように!
次に来る痛みに備えて目をギュッと瞑る
しかし、いつまで経っても何もこない
恐る恐ると目を開く
目に入ってきたのは、いつかの日にも私を守ってくれた優しい背中だった




