089 神話の駆け引き
地味に感じるエンチャント魔法だけど、実は隠し性能として、物理攻撃ダメージに属性魔法ダメージを上乗せするというものがある。
つまり、ゴーストタイプのモンスターなど物理攻撃では効果がないモンスターにも武器でダメージを与えることができるのだ。
この『炎帝の祠』のボスは邪炎竜ガレスゴディアの魂。つまり幽霊みたいなものだ。ただの物理ダメージは効果がない。アクエリアスは心強い味方になってくれるだろう。
まぁ、アクエリアスがなくても、僕がみんなの武器にエンチャント・ウォーターをかければ済む話だけどね。
「ほう?」
大剣を構えていた父上が驚いたような声をあげた。
「見事なロングソードですね。それこそ、国宝になってもおかしくないような……」
ほうっとシンディーが熱いため息をついてアクエリアスを見ていた。
「こいつはドえらいお宝が出ましたね!」
トムの目から見ても、アクエリアスは業物に見えるらしい。
ディアナ?
ディアナならいつも通りの無表情を浮かべて黙ってアクエリアスを見ているよ。
「いい剣が手に入ったな。キースに与えたいところだが、キースはまだ五歳だからなぁ……。七歳になるまで我慢だぞ?」
そういえば、この地域では七歳になって何とかって儀式をしないと刃物の使用が許可されないんだっけ?
面倒な風習だね。でも普通は五歳の子どもに武器なんて渡さないだろうし、まぁ、仕方ないか。
子どもが刃物を振り回すとか、怖いもんね。
「ありがとうございます、父上」
僕としては、トムにでも使ってほしいところだけど、そこは僕がエンチャント・ウォーターをかけて補えばいい話か。トムとしても、この土壇場で使用武器を変えるのは不安だろうし。
ゲームではより良い武器が手に入ったらすぐに装備を変えていたし、それでも主人公たちは十全にその武器を扱っていた。
でも、現実ではそうもいかない。
武器によって重心や使用感がまったく違うのだ。当然、慣れるまでには時間がかかる。
そのことを考えれば、トムにアクエリアスを使ってもらうのも考え物だね。
それに、できれば自分でアクエリアスを使いたい思いもある。ゲーム中でもけっこうレアな武器だからね。
懐かしいなぁ。
まだゲームの情報がネットにあまりなかった頃、ゲームでダンジョンの隠し通路を発見するためにダンジョンの壁を叩いて回ったものだ。
隠し通路を発見した時の脳汁はヤバかったなぁ。最高にハイってやつだ。
すぐにネットに情報を書き込んで、神扱いされたものだ。
実は、このアクエリアスの隠されている隠し通路を見つけたのも僕が初めてである。それもあって、思い入れのある武器だ。性能もいいしね。
七歳になるまであと一年半といったところかな。
子供の成長は早いというし、僕は平均より大型な体格をしているけど、七歳なんてまだまだ子どもだ。長剣であるアクエリアスを片手で扱うことは難しいはず。
たぶん、父上は僕にアクエリアスを大剣のように使えと言っているのだろう。きっとサイズ感的にもピッタリのはずだ。
◇
「階段がありますね」
僕たちの目の前には、さらに地下へと続く階段があった。
階段の入口を囲むようにレリーフが刻まれており、ここから先の空間が特別であることを示している。
「外のレリーフはボロボロで判別できませんでしたが、ここは奇麗な状態で残っていますわね。ここでは三体のドラゴンの戦いが描かれていますね。おそらく、左が聖氷竜アラスティアラ。右の二体が邪炎竜ガレスゴディアと邪嵐竜ヒューブソップかと思われます」
それぞれのドラゴンに付けられた聖と邪の称号。それは勝者である女神に味方したか、敗者である男神に味方したかで分けられる。
僕は『レインボー・ファンタジー』の設定資料集を見たから正しい神話を知っているけど、シンディーの認識ではどうなっているのだろう?
「神話によれば、ドラゴンというのは、世界の管理を補佐するために神々が手ずから創られた極大戦力ですわ。女神側に立ったのは光、水、土のドラゴン。男神側に立ったのは闇、火、雷、風のドラゴンです。数的不利は免れませんでした。そこで、数的不利である女神側はある作戦を立てます。それが、聖氷竜アラスティアラの囮戦術です」
そう。聖氷竜アラスティアラは自ら犠牲になることを承知で、二体のドラゴンと対峙した。
そうすれば、残るドラゴンは女神側は光と土。男神側は闇と雷になる。光と闇はお互いに有利であり不利という属性同士だが、土と雷なら土の方が属性的に有利だ。
つまり、女神側の立てた作戦はこうである。
聖氷竜アラスティアラが時間を稼いでいる間に、土のドラゴンが雷のドラゴンを撃破。その後、土のドラゴンと光のドラゴンが協力し、闇のドラゴンを撃破する。
すべては、聖氷竜アラスティアラがどれだけ時間を稼げるかが勝負の分かれ目だった。
故に、女神は人族の英雄たちにも助力を求めた。
それが、次のレリーフに刻まれた場面である。
お読みいただき、ありがとうございます!
よろしければ評価、ブックマークして頂けると嬉しいです。
下の☆☆☆☆☆をポチッとするだけです。
☆1つでも構いません。
どうかあなたの評価を教えてください。




