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087 権威

「倒しちゃった……」


 若干の寂しさとともに僕は呟く。


 僕の目の前の通路には、三つの大きな石が転がっていた。


 実はこれら、マグマスライムだったものである。僕の水で急激に冷やされて、石になってしまったのだ。


 僕だって本当はこんなことしたくなかった。


 でも、あのまま進んでいたら、マグマスライムたちは僕たちに降りかかり、奇襲を仕掛けるつもりだったのだ。無視することはできない。


 スライムラバーの僕としては倒したくなかったけど、運命はそれを許さなかった。


「僕たち、もっと違う形で出会えたらよかったね……」


 気が付くと、アクアが僕の肩をぽんぽんと触手で叩いてくる。


 アクアも同族とこんな形で出会いたくはなかっただろう。


 なんて運命は残酷なんだ!


「よくやった、キース! ん? キース、どうしたんだ? モンスターは倒したんだ。先に進むぞ?」

「はい……」


 しょんぼりした気持ちを抱えながら、僕はトボトボとダンジョンの通路を歩いていく。


「やっぱり一匹くらい飼えないものか……。いてっ!」


 気が付いたら、アクアにお尻を叩かれていた。どうやら浮気は許してくれないらしい。


 はぁ……。



 ◇



 定期的に通路に水を走らせ、僕たちは迷路のようなダンジョンを攻略していく。


 その途中でモンスターと闘ったり、宝箱を見つけたり、モンスターと闘ったり、トラップを避けたり、わりと忙しい。


「ん?」


 そんな忙しいダンジョン攻略の中、僕はおかしな反応を見つけた。


 僕としては予定調和なのだけど、敢えて立ち止まってみんなの視線を引き付ける。


「どうした、キース?」


 予想通り、父上が尋ねてきた。


「父上、不思議な壁があります」

「不思議な壁?」


 僕が指差したのは、少し先にある何の変哲もない石造りの通路の壁だ。


「あそこがどうかしたのか?」

「なんだかあの壁の奥に通路があるみたいです」

「そんなことまでわかるんですか!」


 僕が言った瞬間、シンディーが噛みつくように質問してきた。


「遺跡の中には隠し通路が見つかっているものがいくつもあるのですが、そのどれもが巧妙に隠され、発見が困難でした。一番確実な方法は壁や床を叩いて反響音の違いで見つける方法なのですが、モンスターの出現する遺跡でそんな悠長なことを長々としていられません! キース様の魔法を知ったら、考古学者たちは喉から手が出るほど欲しがるでしょう!」


 シンディーの話を聞いて、父上は嫌な顔をしていた。


「それは、キースが狙われる理由が増えるということか?」


 僕はすでに王都の研究者に狙われているらしい。しかも、そいつらは僕の解剖実験も辞さない危険な奴らだ。まさしく僕は命を狙われている。


 それに加えて、今度は考古学者からも狙われることになるんだろうか?


 そのことを父上は危惧している。


「この事実が知られれば勧誘くらいはあるかもしれませんが、決して無理強いはしないでしょう。考古学者たちは比較的弱い立場ですので……。ですが、弱くとも力ではあります。彼らを味方にすることができれば、味方を増やすことはできますわ」

「それってどういう意味?」


 僕はシンディーに問う。


 考古学者の立場が弱いことはわかった。でも、弱い彼らを味方にするメリットは何だろう? それが見えてこない。


「考古学者ですが、そう正式に名乗れるのは王宮考古学者のみと定められています」


 王宮に認められた学者ということかな?


 僕の感覚としては、国家資格を持っているという感じという認識だ。


「彼らは陛下に認められた研究機関の職員ですわ。学者としては、最高位といってもいいでしょう。先ほど言った通り、キース様の魔法は考古学者から見たら喉から手が出るほど欲しい魔法です。もしかしたら、キース様が王宮考古学者になれるように手筈を整えてくれるかもしれません。私も伝手を使って援護もできますわ」

「なんか頭がこんがらがってきたんだが、キースを王宮考古学者にしたいってことか? だが、そんなことをして何になる?」


 父上がシンディーに問うと、シンディーは少し考えるような仕草を見せて口を開く。


「ようするに、権威の問題でしょうか。先に申し上げておきます。申し訳ありません。ですが、アクロイド男爵家の権威など大多数の貴族が認めておりません」

「ぐっ! それは、そうだが……」


 父上が苦い顔をする。


 そう。僕たちのアクロイド男爵家を打ち立てた初代アクロイド男爵。彼の功績は大多数の貴族たちに認められていない。僕たちは嘘で貴族になった嘘吐きと大多数の貴族たちに思われているのが現状だ。そんなアクロイド男爵家が権威なんて持っているわけがない。


「ですが、キース様が王宮考古学者になれば話が少しだけ変わってきます」

「なに?」

「どういうことですかい?」


 父上とトムがシンディーに問う。僕はなんとなくシンディーの考えがわかってきた。


「先ほど言った通り、王宮考古学者は陛下に認められた学者です。王族お抱えの学者といってもいいでしょう。そうなれば、王族の権威がキース様を守ってくださいますわ」

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