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084 キミも水蒸気にならないか?

「ありえないわ……。いくらモンスターといっても、生物でしょう? なぜ生きているの……?」


 シンディーが言いたいこともわかるけど、『レインボー・ファンタジー』の設定資料集を見た僕にはその答えがわかる。


 なんとこのモンスターたち、邪炎竜ガレスゴディアの魂から周囲に溢れ出した魔力から生まれているのだ。だから、このダンジョンでは火属性のモンスターしかいない。


 そんなことを解説してあげたいけど、どうやら時間がないらしい。


 僕の前にいたディアナが苦無のような短剣を両手に構えて、振り返る。


 ちょうど、僕が何かの接近を察知していた方向だ。


 ディアナの索敵能力は折り紙付きだ。その索敵能力を信じるのならば、僕のこの何かがいる感覚も信じてみてもいいのかもしれない。


「来ます」


 いつものように呟くディアナ。


 その声を拾ったのだろう。父上がいつの間に僕の隣にいた。


「敵は、どこだ?」


 父上の声に応えるようにディアナがアクアの持っている松明の明かりが届かない深淵を指差した。


「気配はする。だが、まだ遠いな」


 たしかに、敵はまだ遠くだ。でも高速でこちらに向かっているを感じる。


 たぶん、敵の位置を正確に補足しているのは僕だけなのだろう。


 この感覚はいったい何だろう?


 例えるなら水だ。水が犬のような四足獣の形をとって迫ってくる感じだ。


 『炎帝の祠』で犬型のモンスター。たぶん、フレイムウルフだ。その毛並みは炎を纏い、ゲームではフレイムウルフを攻撃するたびに火傷ダメージを受ける厄介な相手だ。


 ひょっとしてだけど、僕はフレイムウルフの体内に含まれている水を感知しているのだろうか?


 例えば人間。七から八割は水でできているらしい。たぶん、他の生物も似たようなものだろう。その水を感知できるとしたら……? それも、ディアナの索敵能力を超える範囲で。


 僕は目を閉じて、感覚を研ぎ澄ます。


 そうすると、こちらに接近するフレイムウルフの姿がより鮮明に感じることができた。


 でも、それだけじゃない。


 父上をはじめ、シンディー、トム、もちろんディアナのことも感知できた。


「間違いない……」


 どうやら僕は、生物に含まれている水も感知できるようになったらしい。


 その索敵範囲はたぶんディアナ以上だ。これってすごいことなんじゃない?


 でも、すごいのはそれだけじゃない。


 僕は水を操ることができる。


 そう。生物に含まれている水も感知できたのなら、その水さえ操れる感覚があった。


「来たぞ! オオカミだ!」


 その時だった。父上の言葉に目を開ける。そこには、予想通り燃え盛る毛並みを持つフレイムウルフが二匹こちらに向かって疾走してきていた。


 試すには格好の状況だ。


「爆ぜろ……」


 僕はそう命じるだけでいい。


 その瞬間、フレイムウルフの体が急激に膨らみ、ついには破裂する。


 僕を守るように立ち塞がっていたアクアは嬉しそうにぽよんぽよん弾んでいた。


「……はあ?」


 遅れて反応したのは、隣に立っていた父上だ。


 何が起こったのかわからないとばかりに口を大きく広げ、驚愕の表情である。


 僕は後ろを振り向くと、珍しい光景が広がっていた。


 ディアナが暗器を投げようと腕を振り上げているところで、まるで彫像のように固まっているのだ。


 しかも、驚いたように目を大きく見開いている。珍しく表情が動いているね。


「何が、起こったの……?」

「……は?」


 シンディーもトムもビックリ顔である。


 そこで僕は種明かしをすることにした。


「どうやら上手くいったようですね」

「何? キースがやったのか?」

「はい!」


 父上の質問に頷いて答える。


「いったいどうやったんだ? 普通じゃなかったぞ!」

「フレイムウルフの水を爆発させたんです」


 僕がやったことは簡単だ。フレイムウルフの体内にある水分を水蒸気に変えただけである。


 やったことはたったそれだけなので、消費魔力も少ない。それなのに、一撃必殺のこの威力である。いい技を覚えたなぁ。


「爆発……そんなことができるのか。すげえな!」

「さすが坊ちゃんでさあ!」

「…………」


 父上とトムは褒めてくれたけど、シンディーは僕の方を向いてギョッとしていた。


 たぶん、シンディーは僕の魔法のヤバさに気が付いたのだろう。


 そうだね。生物が相手だったら、僕はたぶんもう負けないんじゃないかな?


 ちなみに、ディアナはそっといつもの無表情に戻って、腕をゆっくりと下ろしていた。


「消費する魔力も少ないので、モンスターの相手は僕に任せてください!」

「よし! その意気だ! 予定通り、後ろからくるモンスターの相手はキースに任せる!」

「はい!」


 よーしがんばるぞー!



 ◇



 水を……爆発……?


 私、シンディーは、その魔法の恐ろしさに冷や汗が止まらなかった。


 その原理はわかる。おそらく、あのオオカミの体内の水を水蒸気に変えたのでしょう。


 水は水蒸気に変わる過程でその体積が千七百倍になる。あのオオカミが爆発するように爆ぜたのもわかる。


 だったら、人間は?


 人間も血液などに豊富に水を含んでいる。


 その水が水蒸気になれば?


 その答えは粉々に爆発したオオカミが教えてくれた。

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