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081 人員確保

「まずは人員の確保だな」


 遺跡の調査が決まったら、次は人員の確保だ。どうやら父上としては今日にでも遺跡の調査に出かけるつもりのようだ。


 まぁ、アクロイドの呪いが晴らせるかもしれない可能性があるのなら、一刻も早く行きたいだろう。


 僕はチラッとシンディーに目配せすると、彼女は溜息を吐いて控えめに手をあげた。


「ご領主様、私も調査に参加いたしますわ」

「そうか! シンディーが参加してくれるなら心強い!」


 シンディーはアクロイド村では一番の知識人として通っている。その知識もさることながら、治癒魔法を使えるというのも大きい。ぜひとも欲しい人材だ。


「領主様! 儂も連れて行ってくだせえ!」


 続いて名乗りを上げたのは、トムだった。それはもうテーブルに乗らんばかりに身を乗り出している。


「それはありがたいが、村の守りはどうする?」


 そうか。ただダンジョンを攻略すればよかったゲームの時とは違い、僕たちにはアクロイド村という守るべき存在がある。戦える者を全員引き抜いてしまえば、村の守りが疎かになってしまう。


「コリンたちに任せましょう。他にも木こりの奴らもいます。それに、村の奴らも戦えないわけじゃねえ。儂一人抜けても大丈夫でしょう」

「うーむ……」


 いつも即断即決の父上が、目を閉じて珍しく悩むように唸る。


 たぶん、村の戦力を計算し、トムを引き抜いても大丈夫かどうかシミュレーションしているのかもしれない。


「よし!」


 結論が出たのか、父上が目を見開いた。


「トムを連れていく! 遺跡調査のメンバーは、オレ、キース、トム、シンディーだ! 各々準備を始めてくれ。食料はこちらで用意する。では、解散!」

「はい!」


 父上、トム、シンディーがいそいそと応接間を出ていく。きっと遺跡調査のために準備をするのだろう。


 でも、僕はあまり準備するものがない。それこそ、いつも使ってる大木剣を持ったら準備完了だ。


 そして応接間に残ったのは、母上と僕、アクアとディアナだった。


 母上は僕に向き直ると、心配そうな顔で口を開く。


「キース、本当に行ってしまうのですか?」


 母上としては、やっぱり僕のことが心配なのだろう。情の深い母上だからなぁ。今にも泣きだしてしまいそうな顔で僕を見ている。


「はい! 僕は行きます。ご先祖様との約束を果たさないと。それに、僕はこのアクロイド村が好きなんです。村のみんなは優しいし、僕によくしてくれます。だから、僕は恩返しがしたい!」

「キース、あなたはもう十分村のために役立っていますよ。水の問題を解決しましたし、アクアスライムのこともそうです。あなたのおかげで、確実に村はよくなりました。もう十分なのではないですか?」

「そんなことないですよ。僕は父上と母上の息子です。そのことを誇れる自分でありたい。ここで行かなかったら、きっと僕は後悔をして生きていくことになります。だから、僕はアクロイドの呪いを払ってみせます!」


 前世でもノブレスオブリージュという言葉があった。『高貴なる者の義務』だ。社会的・財政的に優位な立場にある人々が、その地位に見合った社会的責任を果たすべきであるという考え方である。


 この世界にそんな考えがあるのかわからないけど、僕は貴族の息子であり、力がある。ならば、率先して困難に挑むべきである。そんな姿こそ父上と母上の息子である僕に相応しい。


「泣かないでください、母上。絶対に生きて帰ってくることを誓います。そして、お兄ちゃんはすごいことしたんだぞって誇れる自分でありたいのです」


 母上、クレア・アクロイド。彼女は僕にとって特別な人だ。


 前世での僕は、親というものを信じられず、人というものを信じられなかった。そんな僕の人生は孤独であり、友情や愛情なんかは物語の中にしか存在しないものだった。


 そんな僕の頑なな心を無償の愛で溶かし、また人を信じることできるようになるきっかけをくれたのが母上だ。


 だから、そんな母上を泣かしてしまうのはとても心が痛い。でも、そんな母上が誇れる自分でありたい。


「もう、キースは言い出したら聞きませんからね。いったい誰に似たのかしら」


 ついに零れる母上の涙を、僕は指で拭う。


 すると、母上は僕に抱きついてきた。そのまま強い力で僕を抱く母上。


「ちゃんと気を付けるんですよ。お父様やみんなのお話をよく聞いて、……怪我したら、承知しませんからね」

「はい」


 僕も母上を抱きしめる。


「必ず帰ってきます。弟か妹にも会いたいですしね」

「もう」


 母上は無理してでも笑ってくれた。あとは僕がそれに応えるだけだ。



 ◇



 一時間後。屋敷の前には父上と母上、僕とアクアとディアナ、トムとシンディーが集まっていた。他にもコリンや僕たちの遠征を知った村人たちが激励に来ていた。


「準備はできたな?」

「はい!」

「では、行ってくる」

「あなた、キース、気を付けて」

「ああ」

「はい!」


 その時、父上と母上が抱き合った。そして、熱いキスを交わすと、お互いに見つめあう。

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