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080 キース参戦

 やがて、目を閉じて沈黙を守っていた父上が目を開けた。


「それはオレも考えた。だが、数ばかりが増えてもな。アクロイド男爵領には兵士たちを食わせてやれるだけの食料がない。それに必要なのは兵士の数ではない。少数精鋭の攻略部隊が必要だ」


 僕も父上の考えに賛成だ。たぶん、兵士を大量に投入しても攻略できるかもしれないけど、その犠牲はかなり増えるだろう。ならば、初めから邪炎竜ガレスゴディアを討伐できるメンバーで挑んだ方がいい。


 それに、ゲームの主人公たちも少数精鋭で邪炎竜ガレスゴディアの討伐を成し遂げたのだ。それに倣いたい気持ちもある。


 それに、僕の考えが確かなら、この世界では個人の強さが物を言う世界だ。


 ならば、父上の考えもわかるというものだ。


「まずはアクロイドで有志を募って探索に行くべきだな。シンディーの話もキースが感じたという邪悪な魔力の気配を無視するわけじゃない。だが、どれだけの脅威があるのか調べねば、対策も打てまい。もちろん、領主であるオレも出る」

「あなた……」


 父上の言葉に母上が思わず父上を見上げている。そこにあるのは不安、心配だ。


 まぁ、自分の夫が危険度がまるでわからない遺跡に挑むというのだから止めたい気持ちは痛いほどわかる。


 でも、母上はその目尻に涙を浮かべつつも気丈に笑顔を浮かべていた。


「お帰りをお待ちしております」

「すまんな、クレア。だが、オレはこのアクロイド男爵領の領主だ。オレが行かなくてはいけない」


 父上が母上の目尻に浮かんだ涙を優しく指で拭うと、母上の頭を優しい手つきで撫でる。


「あとのことは頼んだぞ」

「はい……!」


 父上と母上の話も一段落したし、僕も参加を表明しようかな。


「父上! 僕も調査隊に入れてください!」

「ダメだ!」

「え……?」


 てっきり即OKが出ると思ったのに、父上は怖い顔で僕を見ていた。


「キース、お前はオレに何かあった時、このアクロイド男爵領を率いていく立場だ。そのことを忘れてはいけない。キースは置いていく」

「そんな……⁉」


 だって、水の魔法を使える僕なら邪炎竜ガレスゴディアに対して優位に戦えるし、僕は遺跡のことを知り尽くしている。それこそ、どこに宝箱があるのか、どこに罠があるのか、隠し通路の場所まで覚えているのだ。客観的に見ても、僕を置いていくという発想はなかった。


 しかし、父上の考えもわかるつもりだ。領主とその嫡子が一緒に危険な場所に向かうなど、貴族の常識として考えればナンセンスなのだろう。


 でも、僕はどうしても遺跡に行きたいのだ!


 もちろん、ゲームにも登場したダンジョンを実際に攻略したいという欲求もある。


 でも、それだけじゃない!


 僕は誓ったんだ。アクロイドの呪いを終わらせると! アクロイドの民に降りかかる嘘吐きという偏見をなくすと!


 それに、このまま行かせて、父上を失う事態は絶対に嫌だ!


 だから――――!


「父上、僕と模擬戦をしてください!」

「なに?」

「僕が父上に勝ったら、僕も連れて行ってください!」

「それは……」


 父上が首を横に振って、僕を教え導くように優しい顔で口を開く。


「キース、オレはお前の実力を疑って言ってるわけじゃねえんだ。お前は強い。お前はオレの誇りだ。そんなお前が村に残ってくれる。だから、オレは命を懸けられるんだ」


 父上の言うこともわかる。でも、それじゃダメなんだ!


「命を懸けるなんてなしです! みんなでアクロイドの呪いを払って帰ってくるんです! そのために、僕を使ってください!」

「みんなで……」


 父上が初めて迷ったような素振りを見せた。


「そうです! みんなで帰ってくるんです! 誰も欠けさせない! だから、命を懸けるなんて言わないでください!」

「キース……お前は……。ぐぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬ……」


 悩むような唸り声をあげていた父上が、突然僕の両肩に手を置いた。


「はぁ……ったく。頑固なところばっかり似やがって……。わかった、オレの負けだ。キースを調査隊に入れる」

「あなた⁉」


 僕と父上の話を見守っていた母上が悲鳴のような声をあげた。


「クレア、こいつは言い出したら聞かないやつだ。オレもそうだったからわかる。キースは絶対に付いて来る気だ。なら、最初からオレの目の届く範囲に置いておいた方がいい」

「それはそうかもしれませんが、でも……」

「絶対にオレたちはみんな無事に帰ってくるさ。そうだろ、キース?」

「はい! 母上、心配しないでください!」


 母上から見れば、夫どころか息子まで危険を冒そうとしているのだ。絶対に止めたいだろう。


 しかし、母上は父上と僕の顔を見比べるように見ると、仕方がないとばかりに溜息を吐いた。


「絶対に帰ってきてくださいね? 絶対ですよ? 約束を破ったら承知しませんからね?」

「おう!」

「絶対に帰ってきます!」


 少しでも母上の心配を晴らそうと、僕は笑顔を浮かべて頷いた。

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