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078 アクロイドの宴会

「こいつはまたデカいな! しかも硬そうだ。こんなの食えるのか?」


 父上はカニを知らないのか、難しそうな顔でガサゴソ動く青いカニを見ていた。


「シンディーが食べられると判断したのですから食べられるのでしょうけど……。なんだか虫みたいで……」


 いつの間にか父上の傍にいた母上が気持ち悪そうにカニを見ている。


 僕にとってカニは御馳走に映るのだけど、たしかに知らない人が見たら大きな虫みたいに映るのかもしれない。


「しかし、捨てるのもなぁ……」

「捨てる⁉」


 父上の呟きに僕は驚いてしまう。カニを捨てるだなんてもったいない!


 なんとかして、カニを調理しなければ……。


 しかし、アクロイド村には蒸し器もなければバーベキューで使うような網もない。どう調理したものか……。


「そうだ! 汁にするのはどうですか?」

「汁に?」


 父上と母上が驚いた顔をして僕を見る。


「はい! あのカニは、適当に割って塩汁にしちゃいましょう! それなら、食べる人食べない人も選択できますし!」

「たしかに、茹でれば少しは柔らかくなるかもしれん。採用だ!」

「わーい!」


 カニが捨てられなくて僕は万々歳である。大きな蒸し器があれば蒸しカニが食べたかったけど、仕方ないね。


 そのままバッサバッサと父上が大型の魚を捌いていると、ネイサン、ロニー、ミックの『赤のキツネ』のメンバーが大皿に大量の串焼きを乗っけてやってきた。


「領主様! もう焼けてますよ!」

「早く食べましょう!」

「んだんだ!」

「みんな、先に食べてていいんだぞ?」

「領主様より早く食べるなんてできねーですよ!」


 『赤のキツネ』の面々の言葉に、父上は眉尻を下げると、ネイサンが持っている大皿から三本の串焼きを手に取った。


「ほれ」

「ありがとうございます、あなた」

「ありがとうございます」


 父上から串焼きを受け取ると、本当に焼き立てのようで、まだプスプスと脂が弾けていた。なんだかサンマを短くしたような魚だけど、よく脂が乗っているらしい。おいしそうだ。


「はぐ!」


 僕たちの目の前で、父上が一口で魚の焼き串を食べてしまった。熱くないのかな?


「うむ! うまい! 酒が飲みたくなる味だな!」


 そう言ってごくりと飲み込むと、父上は雄叫びを上げるように叫ぶ!


「見ての通りオレは食ったぞ! みんなも食え! 今日は宴会だ! この場を作ってくれたキースに感謝だな!」

「「「「「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」」」」」

「「「「「キース様、万歳!」」」」」

「うお⁉ うめえ! キース様様だぜ!」

「塩でキュッと味が締まるよな!」

「脂が乗ってやがる!」

「こいつは酒が欲しくなるぜ!」

「我慢できねえ! 俺は持ってくるぞ!」

「オラはヤギの肉より好きなんだなあ!」

「キース様、万歳!」

「こんなに贅沢に塩を使った料理は初めてだ! うめえ!」


 父上が食べたからなのか、それとも魚の焼けるいい匂いに誘われてか、村人たちは魚を初めて食べるというのに、まったく恐れることなく食べていく。


 焼き魚は好評のようで、大人も子どももバクバク食べていく。中には秘蔵の酒まで持ってくる村人もいるくらいだ。


 魚が新鮮でおいしいというのもあるだろうけど、塩が貴重なアクロイド村では、塩分が足りてないものが多かったのかもしれない。塩をふんだんに使った焼き魚は、まさに体が求めていた栄養だ。すさまじい勢いで食べていく。


「さて、オレももう一働き……」

「とんでもねえ! 領主様は食ってきてくだせえ!」

「あとは儂らが捌いときますんで!」

「そうか? すまんな。お前たちも適当に休憩して食べるんだぞ?」

「「「へい!」」」


 父上はネイサンたち『赤のキツネ』から受け取った大皿を男たちに渡すと、いつの間にか用意されていたクマの毛皮が敷かれた一角へと向かう。そこでは、アビーがせっせと焚火で魚を焼いていた。


「アビー、精が出るな」

「旦那様! 魚が焼けておりますよ!」

「うむ。クレアもキースも一緒に食べよう。もちろん、アビーとディアナもな」

「いえ、私たちは……」


 謙遜するアビーに父上が口を開く。


「今日は宴会だと言っただろう? 早く食べないと食いっぱぐれるぞ?」


 笑顔で言う父上に、アビーは呆れ顔だ。でも、その顔には嬉しさも滲んでいた。


「ありがとうございます、旦那様」

「ありがとうございます」


 アビーとディアナが礼を言い、僕たちの給仕をしながら自分たちも焼き魚を食べていく。


「ぷりぷりとした、不思議な触感ですね。それに脂が乗って……。まるで高級な鶏肉を食べているようです」

「おいしい」


 アビーもディアナも気に入ってくれたみたいだね。


 その様子を見ながら、僕もぶつ切りにされた白身魚にかぶりつく。わりと淡白な味の魚だね。でも、塩味の中にちゃんと魚の味も感じる。これは何の魚だろう? わからないけど、脂が乗っていておいしい。


 そうこうしているうちに夕方になり、アクロイド村の宴会は続いていく。中にはお酒でハイになっているのか、踊り出す人や歌い出す人まで現れて大賑わいだ。大きな太鼓まで現れて、ズドンズドンというリズムに体が震える。


 魚を持ってきてよかったなぁ。

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