077 海産物と塩
「なんじゃありゃ⁉」
「水が、浮いてる……?」
「水の中に何かいるぞ!」
「すげー……。どうなってんだ……?」
「ありゃ何だ⁉ でっけースライムか⁉」
「まーたキース様が何かやったのか⁉」
「とりあえず領主様に伝えっぺ!」
水のヴェールの外に出て農作業をしていたアクロイド村の村人たちが、口々に驚きの声をあげるのが聞こえてきた。どうやら僕たちの後ろに浮いてる海を切り取った海水の塊に驚いているようだ。
まぁ、自分で言うことじゃないけど、アクロイド村の住民たちは、僕が何かやらかすのに慣れている。その反応は驚きと困惑であり、混乱や暴動にならないあたり慣れを感じるね。
「トムとシンディーは村人たちに説明してきてくれないかな? みんなを怖がらせてしまったらかわいそうだ」
「わかりました!」
「かしこまりました」
村人たちの方に駆けていくトムとシンディー。あの二人なら、村人たちの信頼も厚いだろうし、すぐに困惑も治まるだろう。
そんなことを思っていたら、トムとシンディーと入れ替わるように大剣を持った父上が猛ダッシュしてきた。
「キース! こいつは何だ⁉ 新しいスライムでも連れて来たのか⁉」
「父上! これは僕が魔法で浮かせているただの水ですよ」
「そうなのか⁉ だが、中に魚が泳いでいるぞ? どうなってるんだ?」
「あの水は、海の水なんです。泳いでいるのは海の魚ですね。食べたかったので獲ってきました」
「獲ってきた⁉」
父上はポカンとした顔を浮かべると、次の瞬間には堪え切れないばかりに笑い出した。
「はっはっはっはっはっはっはっはっはっはっ! 魚が食べたかったから海ごと持ってきたのか?」
「はい!」
「こいつは傑作だ! まったく、お前といると飽きないな、キース! オレも久しぶりに魚が食べたくなってきた! でかしたぞ!」
父上は目尻に涙を浮かべて本気で笑うと、僕の頭を乱暴に撫でる。僕は視界がぐわんぐわん揺れるが慣れたものだ。
「しかし、どうしたものかな」
「どうしたんですか、父上?」
「オレは王都に行ったことがあるから魚を食べたことがあるが、大半の村人は食べたこともなければ調理したこともないだろう。どうやって食ったものかとな……」
「なるほど……」
思い返してみれば、アクロイド男爵領の海といえば、断崖絶壁の遥か下にあるものでしかない。あれでは釣りもできないだろう。
つまり、アクロイドの民は、海があるのに魚を食べことがないのだ。
「まあ、今回はシンプルに塩焼きといこうか! 新鮮な魚は焼くだけでも十分うまいからな!」
こうして父上の鶴の一声で魚をどうするかも決まり、村の中央にはいくつも焚火が用意された。
「これは毒がありますね。これとこれは食べれますわ」
魚にも詳しかったシンディーによって食べられる魚が選り分けられ、木で作った串を打たれていく。串の打たれた魚には塩を振りかけて、焚火で次々と焼いていく。
ちなみに、アクロイド村では塩は貴重品だ。海は近くにあっても塩を作ることができないからね。他領から買うしかない。
でも、今日はこれでもかといわんばかりに贅沢に塩を使っていく。僕が海水を分解して、塩を大量に作ったからだ。それはもう一軒家が塩で埋まるくらいの大量である。それこそ村人たちには魚を食べられることよりも、大量の塩の方が喜ばれたくらいだ。
まぁ、村人たちにとって魚は未知の食材だ。そんなものよりも生きるためには欠かせない塩の方が重要なのだろう。
でも、一口食べれば魚のおいしさもわかってくれると思う。
「よし、このデカいのはオレが解体しよう! 危ないから離れてろよ」
父上の前でビッチビッチ跳ねているのは、大きなハンマーヘッドシャークみたいなサメだ。
そのサメが跳ねた瞬間、父上の大剣が閃く。
ぼてっと地面に落ちるのは、奇麗に解体されたサメだった。頭と骨を残して、奇麗に四等分されている。白い身が輝いているね。サメは自分が解体されたことに気が付いていないのか、口をパクパクさせていた。
「領主様、ありがとうございやす! あとは儂らが!」
ササッと村人たちが包丁を持って現れ、サメの肉が一口大に切られていく。
「よし、次は……。こいつはどう捌けばいいんだ……?」
困惑する父上の前に現れたのは、ぐでっとしている大きなエイみたいな魚だった。
僕も普通の魚なら捌いたことあるけど、さすがにエイを捌いたことはない。でも、たまたま前世でエイを捌く動画を見たことがあった。
「父上、この魚はたぶん体の真ん中に内臓が詰まっているので、左右のヒレみたいな部分が食べれると思います」
「なるほど。たしかにそうかもしれん。まあ、とりあえずやってみよう」
父上は持ち前の前向きさでエイを捌いていく。
といっても、左右の大きなヒレのようなところを落として終了だ。
「よし、次の魚を持ってこーい!」
「へい! おいこら、逃げるな! 力を貸してくれ!」
次は、魚ではなく、一抱えもある大きなずんぐりとしたカニだった。それがちょこまか動いて逃げようとしていた。
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