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076 だぶるちょろい

 僕は決めた。


 必ず、僕たちのご先祖様たちに着せられた濡れ衣を晴らすと。


 アクロイド村の住人たちのご先祖様は、みんなグラッツヴァール大要塞で戦い、その身を犠牲に国を守った護国の英雄たちだ。そんな彼らの子孫が嘘吐きの子孫として貶められているなんて我慢ができない。


 これは僕だけの問題じゃない。村のみんなの尊厳をかけた戦いだ。


 国中の人間の意識を変えるなんてことが本当にできるのかわからない。でも、やらなくちゃいけない。そうじゃなきゃ、命を懸けて国を守った彼らが報われない。


 そして、トムの話を聞いて、なぜアクロイド男爵がこの呪われた土地を領地に貰ったのかもわかった。


 答えは簡単。ただの嫌がらせだ。


 だったら、このアクロイド男爵領を世界で一番豊かな領地にしてやる!


 それこそ、初代アクロイド男爵や村のみんなのご先祖様を嘘吐き呼ばわりした奴らへの最初の一撃に相応しい。


 そのためなら、僕はなんでも活用するつもりだ。もちろん前世の知識も。


 今まで僕は、自分が転生者だとバレないように手加減をしていたところがある。


 でも、それももうやめだ。


 たとえ父上や母上に気味悪がられたとしても、僕はアクロイド村を発展させる。


 そりゃ父上や母上に嫌われるのは怖い。今の円満な関係にヒビが入ると想像するするだけで心が軋むように痛くなる。


 でも、僕はやり遂げるよ。もう逃げない。


「村に戻ろう」

「坊ちゃん……?」


 突然、村に帰ろうとする僕にトムが疑問の声をあげる。


「村に帰って、父上に報告する。そして、一刻も早くアクロイドの呪いなんて解いてやるんだ!」

「坊ちゃん……。本気、なのですね?」

「ああ!」


 僕が頷くと、今度はシンディーが僕の肩を掴んで前後に揺すってきた。


「キース様、考え直してください! そんなの無茶ですわ! 相手は神話のバケモノかもしれませんのよ! 人間が勝てるような存在では――――⁉」

「勝てるさ。僕ならね」

「ッ⁉」


 僕が何回『レインボー・ファンタジー』をクリアしたと思ってるんだ。千回だぞ? 負けるビジョンなんてこれっぽっちも浮かばない。


 ただそれはこの世界では百年も前の状態ではということになる。この百年で何か変化が起きているかもしれない。ならば、念には念を入れて準備するべきだ。


「村に戻る。案内を」

「はい!」

「あ! キース様⁉」


 僕たちは急いで村に戻る。村では、マスクをした村人たちやアクアスライムたちが農作業をしていて、牧歌的な雰囲気があった。


 僕は、みんなを幸せにしたい。マスクが必要なく、雨の恵みを受け、豊かな暮らしをしてもらいたい。


 そのためにも、呪いの元凶を叩かないとね。


「キース様、考え直してください! たしかにキース様は優れた魔法使いですが、人には限界というものが――――」

「シンディー、シンディーも来てくれない? やっぱり治癒魔法を使える人は欲しいし」

「私がですか⁉」


 帰り道、ずっと僕に考え直すように言ってきたシンディーを逆に誘ってみる。


 シンディーは顔面蒼白で首を高速で左右に振った。


「無理! 無理ですわ! 私は、英雄ではありません! ただ少し人より魔法が得意なだけの一般人です!」

「そこをなんとか頼むよ」

「そんな悲しそうなお顔をされても無理はものは無理ですわ!」

「へー。じゃあ、シンディーは遺跡の調査を諦めるの?」

「そ、それは……」


 今まで五年も付き合ってきたからわかる。シンディーは知識欲の奴隷だ。自分の知らないことを探求したくて堪らない。そんなシンディーが、未発掘の遺跡を前にして我慢できるだろうか?


 たぶん、できないよね?


 シンディーは謙遜しているけど、その治癒魔法は役に立つ。絶対に欲しい人材だ。


「残念だなぁ。シンディーがいれば、なにか世紀の大発見があるかもしれないのに。本当に残念だよ」

「世紀の大発見……。ですが、それはあまりに危険――――」

「大丈夫だよ、シンディー。危険だったら戻ればいいんだ。無駄なリスクは冒さない。これなら安心でしょ?」

「リスクを冒さない……。たしかにそれなら……たしかに……」


 ちょろい。ちょろすぎて心配になるレベルでちょろい。本当にシンディーなのか疑いたくなるくらいだ。


「はあ……。キース様はどうしてもあの遺跡に行くのですね?」

「うん。シンディーがどれだけ止めても、たとえ母上や父上が止めようと、僕は一人でも行くよ」


 そう言うと、目の前のシンディーは盛大に溜息を吐き、座った眼で口を開く。


「わかりました。わかりましたわ。このシンディー、遺跡調査に参加いたします」

「ありがとう、シンディー」

「ああ、もう、なんでこんなことに……」


 ブツブツ言ってるシンディーを見ていると、服の裾をくいくいと引っ張られるような感触があった。振り返ると、ディアナがいつもの無表情で呟くように言う。


「私も行きます」

「いいの? たしかにディアナが来てくれれば心強いけど、危ないよ?」

「私はキース様の護衛。決して一人にしない」

「あ、うん……」


 なんだろう。ちょっとドキドキした。

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