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072 水神の腕輪と落とし穴

 水神の腕輪。


 アクロイド男爵領の南端に埋まっている宝箱から発見できる隠しアイテムである。


 こうした隠しアイテムである宝箱は、フィールドの特定の場所に埋められており、フィールドでシャベルを使うと発見できる。


 まぁ、『レインボー・ファンタジー』の数あるミニゲームの一つだね。


 『レインボー・ファンタジー』のガチ廃人を自称する僕は、すべてのアイテムの隠し場所を覚えている。千回もすべてのアイテムを回収したからね。嫌でも覚えるさ。


 サブイベントをやっていないであろう百年前の主人公だったら、隠しアイテムの回収もしていないのではないかと考えていたけど、かなりレアな水神の腕輪が残っているのは幸運だった。


 水神の腕輪。その効果は、水魔法の攻撃力を上げる腕輪装備だ。まさに僕にぴったりだね。これがどうしても欲しかったから、ここまで来たといっても過言ではない。


 パチリと右腕に填めると、少しぶかぶかだけどちゃんと装備できた。これで僕の水魔法の攻撃力アップだ。


「そいつはすげー! 売ったら、どれほどの値が付くか……」

「売らないよ?」

「えぇっ⁉」


 トムが驚いているけど、こんなに僕にぴったりな装備を売るわけないじゃないか。


 でもまぁ、子どもがこんな高価そうな装備をしているのも問題か?


 普段は服の下に隠しておこう。


「売らないのですか? どのような魔法の効果があるのか気になりますね。鑑定に出すのでしたら、私の伝手を使いますが、いかがなさいますか?」

「いいよ。このままで」

「そうですか?」


 シンディーは不思議そうな、ちょっと残念そうな顔をしていた。たぶん、どんな効果のアイテムなのか知りたかったのだろう。


 でも、僕には必要ない。『レインボー・ファンタジー』で手に入るアイテムなら、僕はすべてを知っているからね。


「ですが、こんな所にこんな高価なものが埋まっているだなんて、キース様はよくわかりましたね?」


 さすがシンディー、核心を突くような質問をしてくるじゃないか。


 さすがに前世の知識で知っているだとか、ここはゲームと同じ世界だと言っても信じてくれないだろう。


 だが、僕も誰かに質問された時に困らないように言い訳だって考えてあるのだ。


「なんだか、呼ばれている気がしたんだ……」

「呼ばれている……?」


 僕は無意味に俯いて、意味深に呟くことで、シンディーの質問に曖昧に答える。あとはシンディーの方で勝手に想像してくれるだろう。……たぶん。


「さあ、用事も済んだし、あとは帰ろうかな」


 僕はアクアに乗ると、遠くに見えるローダス山脈の一番高い山目掛けてアクアを進ませる。


 歩いている順番は、トム、アクアに乗った僕とディアナ、シンディーの順番だ。


 トムはアクロイド村へ最短ルートで帰ろうとしているのだろう。真っすぐ北に向かって歩いていく。


「坊ちゃん? 村はこっちですぜ? どこ行くんです?」

「ちょっと気になるものがあってね」


 そうトムに言って、僕の進む道は村からちょっと東にズレた方向に、ローダス山脈の山頂に向けて真っすぐ進んでいく。


「はぁ……? まあ、夕暮れにはまだ時間がありやすし、少しくらいなら……」

「あのローダス山脈の山頂を目指して真っすぐ進んでくれ」

「へい。この方向に何があるんで――――うおおおおおおおおおおおおおおお⁉」


 その瞬間、目の前を歩いていたトムの姿が消えた。


 そして、トムの代わりとでもいうように、土煙が舞う。


 さすがにこれには驚いたのか、一緒にアクアに乗っていたディアナがアクアから飛び降りて、周囲を警戒する。


「な、何が……⁉」


 シンディーも杖を構えて臨戦態勢だ。


 でも、僕は喜びを抑えるのに苦労していた。


 だって、やっと本当の目的地を見つけたからね。


「ぺッ、ぺッ。こりゃ、何だ……?」


 土煙が晴れると、地面に空いた穴から土塗れのトムが姿を現す。


「洗ってあげるよ」

「へ?」


 僕は水を操って、前に父上にしたようにトムを洗っていく。


 そして、トムの這い出てきた穴を見下ろした。


 そこは朽ちかけた石でできた地下へと続く階段があり、その奥にはヒビ割れた石でできた入り口がぽっかり口を開けている。


 うんうん。ゲームで見たとおりだね。


 これこそが本当に僕の探し求めていた場所。これ比べれば、水神の腕輪はおまけでしかない。それほどの価値のある場所だ。


 なにせここは、アクロイド男爵領が雨の降らない呪われた地になった原因の眠る場所だからだ。


 アクロイド男爵領の調査くらいは過去にも誰かがやったことがあるだろう。それこそ、僕のご先祖様もやったかもしれない。


 しかし、アクロイド男爵領は広大だ。こんなピンポイントで祠への入り口を見つけることなどできなかったのだろう。


 でも、僕は知っている。この場所に祠があることも。祠がなぜあるかも。


 さすがに初回で見つけられるとは思わなかったけど、僕は運がいいみたいだ。


 あとは、この祠を攻略できるかどうかだね。

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