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070 お魚

 父上たちがサトウキビの栽培に精を出している頃、僕とアクアはディアナとシンディー、そしてトムを連れてアクロイド男爵領の荒野を南へと歩いていた。


 ついにトムを連れていくならばという条件付きだけど、村の外に出る許可が出たのだ。トムは警備隊のリーダーで、父上が一番信頼している人物らしい。五十歳くらいの白髪の混ざった短髪で、強さだけではなく、このアクロイド男爵領にも詳しいということで選ばれたようだ。


 初めての冒険だけど、お守り付きなのはちょっとカッコ悪い。


 まぁ、僕の年齢を考えれば仕方がないんだけどね。


 とにかく、やっと外出の許可が出たので、これからちょっとした調査をするつもりだ。


「坊ちゃん、南には海しかありませんぜ? 南に行っても仕方ないですよ」

「まずは海を見てみたいんだ」


 無論それだけじゃないけど、それはまだ内緒だ。


「そんなもんですかねー」


 トムはそんなことを言いながらも周囲の警戒を怠らない。


 でも……。


 僕の隣に座っていたディアナがピクリと動く。


「どこ?」


 僕が問うと、ディアナが前方やや右の方を指差す。


「あれか……?」


 パッと見ではただの岩。でも少しだけ違和感を感じて、僕は魔法を発動する。


 使うのは物理的攻撃力を求めて水の槍を氷に変える。『レインボー・ファンタジー』でいうところのアイスランスという魔法だ。


 僕が発射した氷の槍が目で追えないようなスピードで岩を貫いて彼方まで飛んでいく。残ったのは、丸く抉れた岩だ。


 しかし、次の瞬間、岩から紫色の血が噴き出し、岩だったものが倒れる。


 倒れた岩だったものは、大きなトカゲのような形をしていた。


「よく気付きましたね⁉ こいつはロックリザード。岩に擬態して、獲物を狙う厄介なモンスターですよ!」


 トムが驚いたような声をあげると、ロックリザードに走り寄って止めを刺す。


「こいつの皮で作った鎧は硬くて、柔軟性もあっていいんですよ。坊ちゃんの魔法の前では形無しみたいですけどね」


 トムはやれやれとばかりに肩をすくめると、腰のナイフを抜いてロックリザードの死体の前でしゃがみ込む。


「どうしたの?」


 僕が問うと、トムは振り返ってニヤリと笑ってみせた。


「こいつの皮を剥ぐんですよ。坊ちゃんのいい土産になる! 坊ちゃんの魔法の威力の宣伝にもなりますしね! 皮だけなんで、時間はかかりません。……できやしたぜ」


 しゃべっている間もトムの手は動き続き、しゃべり終わる頃にはロックリザードの皮を剥ぎ終わっていた。その手際は惚れ惚れするほど素早く正確だった。


 トムが僕に向かってロックリザードの皮を広げてみせる。そのお腹と背中部分に穴が開いていた。


「こいつで坊ちゃんの鎧を作りましょう」

「僕の鎧?」


 そっか。『レインボー・ファンタジー』では装備は個々人で装備できるものが限られていたけど、僕にその縛りはない。


 僕は自分のことを魔法使いだという思いが強いけど、大剣も使ってるし、ゲームのようにローブではなく革鎧を装備してもいいのか。


「坊ちゃんはまだ金属鎧は無理ですからね。こいつで作るのが一番ですぜ」


 そう言って、トムがぷにょんとアクアの中にロックリザードの皮を仕舞う。アクアは荷物を持ってくれる力持ちさんなのだ。だから、アクアの中には旅に必要なアイテムがふよふよと浮いている。


「それじゃあ行きやしょうか。たしか海はこっちです」


 トムの案内でアクアに乗って移動すること一時間ほど。目の前には空との境界線まで続く青い海が姿を現す。


 久しぶりに潮の香りを嗅いだなぁ。なんだか懐かしい。


 魚でも獲りたいところだけど、それは難しい。僕たちの目の前で地面が途切れていて、その先には百メートル以上あるんじゃないかと思ってしまうほどの断崖絶壁があるからだ。


 そう。実はアクロイド男爵領は半島にあり、三方を海に囲まれているが、どこも断崖絶壁で、海の恵みが受けられないのだ。塩すら他の領地から買っているくらいである。魚なんて獲れるわけもない。


 まぁ、僕なら魔法でなんとかなりそうだけど……。


 ちょっとやってみようかな?


「よいしょっと」


 僕はアクアから降りると、断崖絶壁の先に立った。


「坊ちゃん? 危ないですぜ?」

「危なくないよ」


 僕がちょいと指を動かすと、ザバーンッと水の大地が姿を現した。それはどんどん上に上がっていく。


 海水は水だ。つまり、僕が操れるものなのである。


 目の前に姿を現した海水は、四角く切り取った海だ。まるで水族館の水槽のように、その海水の中を無数の魚が泳いでいる。


 どの魚もけっこうカラフルだけど、南国だからかな?


「ぼぼぼぼぼぼお坊ちゃん! なんですかこれ⁉」

「え? 魚だよ。見たことなの?」


 そっか。アクロイド男爵領には池や川もないからな。トムは魚を見るのが初めてなのかもしれない。


「そうじゃなくてええええええ!」


 なぜかトムが頭を掻きむしり始めた。どうしたんだろう?

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