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068 水耕栽培アクロイド芋

「おぉー! 育ってるじゃん!」


 僕の目の前には、ちょっと茶色く濁ったアクアスライムたち十匹が整列していた。その最大の特徴は、頭のてっぺん部分から茎が生え、葉っぱと黄色い花を咲かせていることだ。


 そう。彼らこそ、水耕栽培の実験に付き合ってくれているアクアスライムたちである。少し茶色く濁ったアクアスライムたちのボディーの中では、すくすくとジャガイモのような見た目のアクロイド芋が育っていた。しかも、同時期に土に植えたアクロイド芋よりも成長が早い。もう収穫してもいいくらいだ。たぶん、豊富な水と栄養があるから成長が早いのだろう。


「よいしょっと」


 僕は試しにアクアスライムからアクロイド芋を一つだけ引っこ抜くと、立派に育ったアクロイド芋が姿を現す。水耕栽培は成長が早いのは知っていたけど、こんなに早いとは思わなかった。


「手伝ってくれてありがとう」


 僕はアクロイド芋を引っこ抜いたアクアスライムに触れると、魔力を与える。アクアスライムは嬉しそうにぷるぷる震えていた。


「そうだ。サトウキビもできるか試してみよう」


 サトウキビの苗は、マクマホン辺境伯からもうすでに届けられている。父上にお願いして、少しだけ分けてもらおう。


 たぶん、普通の水耕栽培だとサトウキビを育てることは難しいと思う。でも、アクアスライムを使った方法なら、できるかもしれない。


 計画が上手くいって、どんどん次にやれることが増えていく。この感覚はかなり気持ちがいい。


「アクア! 屋敷まで超スピードで!」


 僕は十匹のアクアスライムたちからアクロイド芋を引っこ抜くと、アクアに乗って屋敷に急ぐ。その後ろをディアナがスタタッと走って付いてきた。


 ディアナの走る姿を見ると、まったく体の軸がぶれていないことに気が付く。たぶん、それだけディアナは厳しい訓練を乗り越えてきた証なのだろう。僕もがんばらないとなぁ。


 屋敷に着くと、庭に父上と数人の村人の姿があった。


「こいつはダメだな。これは……いけるか?」


 よくよく見ると、父上が植物の苗を持って、一つずつ見分しているところだった。


「父上、何してるんですか?」

「お? キースか。今、サトウキビの苗を見ていたんだが……」


 父上が情けない顔で目の前に広がる鉢を眺める。


「どうやら長旅でだいぶ傷んでいてな。半分ぐらい廃棄することになりそうだ」

「えぇー……」


 さっきまでサトウキビにアクロイド領の命運を賭けるような言い方をしていた父上だ。かなりショックな出来事に違いない。


 これは、父上にサトウキビの苗を分けてもらうように頼むのは難しそうだな……。


「こんな時は逆に考えるんです、父上。半分もダメになったではなく、半分も生き残ったと」


 言葉遊びのようなものだけど、落ち込んでいる父上を見るのがつらくて、僕はそう口に出していた。


 僕の言葉を聞いた父上は、ハッとしたように俯かせていた顔を上げる。


「そうだな! 半分も生き残ったんだ。足りないなら、これからサトウキビを栽培して増やしていけばいい! キースの言うとおりだ!」

「はい!」


 よかった。元気になってくれたみたいだ。


 父上が元気が一番だよね!


「うーん……」


 僕は父上がダメだと放置したサトウキビの苗から、まだ状態がよさそうなものを十個選び取る。


「父上、これ、貰っていいですか?」

「おん? それはもうダメなやつだぞ? そんなのどうするんだ?」

「実は、アクアスライムに植えてみようかと」


 そう言って、僕はさっきアクアスライムたちから収穫したアクロイド芋を取り出す。


「芋? それ、どうしたんだ?」

「実はこれ、アクアスライムで育てたアクロイド芋なんです! 父上にこの前お話しした水耕栽培ってやつですね」

「あれか! この前って、ついこの間だよな? もうこんなに大きくなったのか?」

「アクアスライムで育てると、普通よりも早く育つみたいなんですよ」

「すごいな!」


 父上が僕から受け取った大きなアクロイド芋を驚いた顔でしげしげと眺めている。


「だが、数が少なくないか? アクロイド芋はもっとどっさりできるんだが……」

「実験中のものなので、一つずつ採取しました」

「ほーん」


 父上はよくわからないという顔をしていたが、適当に頷いている。


 実験中というのは本当だ。僕は、アクロイド芋の品種改良をするつもりなのである。


 村でのアクロイド芋の栽培方法は、芋の蔦を地面に刺すタイプだ。これだとたしかにお手軽に芋の栽培ができるけど、この方法には一つ弱点がある。


 それは、クローンしか生まれないということだ。


 蔦から生えるのは同じアクロイド芋のクローンであって、そこに変化はない。


 つまり、品種改良や、奇跡的においしいアクロイド芋が生まれるかもしれない確率を、わざわざ自分たちで潰しているのである。


 アクロイド芋の名前は、アクロイド男爵領のような貧しい住民しか食べないくらいマズいというところからきている。


 実際、毎日のように食べている僕でもマズいと思いながら食べているのだ。


 そんなマズいアクロイド芋のクローンを、村人たちは一生懸命育てているのである。

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