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066 おめでた

「そういえば、そろそろキースに伝えておくか?」


 サトウキビの話がいったん落ち着いた頃、父上がまるで母上に確認を取るように母上の方を見た。


 何だろう? 何かあるのかな?


「はい。安定してきましたし、そろそろ話してもよろしいかと」


 父上の言葉に嬉しそうに頷く母上。どうやら二人だけで通じる何かがあるらしい。


「どうする? クレアから言うか?」

「あなたからお願いします」

「だが、実際にがんばるのはクレアだしなぁ」

「では一緒に言いましょう」

「そうするか」


 話が纏まったのか、父上と母上が僕を見た。その顔には、堪え切れないような嬉しさが溢れているような気がした。


 いい話なのかな? でも、何か最近いいことあったかな?


「いくぞ?」

「はい」

「実はな、キース。クレアに子ができた」

「キース、キースはお兄ちゃんになるんですよ?」


 父上と母上が、一緒にまったく別々のことを言い出す。でも、僕はなんとか聞き分けることができた。


「えっ⁉ 子どもができたんですか⁉」

「うむ!」

「そういうことになります」


 自信満々に頷く父上と、少し恥ずかしそうに頷く母上。そんな母上のお腹をつい見てしまう。


 言われれば少し膨らんでいるだろうか?


 でも、服の上からではよくわからない。


 まぁ、二人に噓を吐く理由なんてないし、本当のことなのだろう。


「おめでとうございます、母上、父上!」

「うむ!」

「ありがとう、キース。アビーが言うには、生まれるのは来年になるそうです。キースも来年にはお兄さんですね」

「僕がお兄さん……!」


 前世では一人っ子だった僕には新鮮な響きだ。兄弟っていったいどんな感じなんだろう? 今からワクワクするものを感じるし、仲良くなれるかちょっと不安だ。


 そんな僕の不安を感じ取ったのか、父上がテーブルに乗り出すようにして僕の頭を乱暴に撫でる。


「兄の役目は兄弟を守ることだ。今以上に鍛えないとな!」

「父上……」

「そんな不安そうな顔をするな。お前は将来、兄弟どころかこの領地を守る立場になるのだぞ? その時のために、今は勉強だ。急がなくていい。ゆっくりやっていけばいい。キース、お前ならできる!」

「そうですよ、キース。キースなら、きっといいお兄さんに、そしていい領主になれます。お母様にはわかります」

「父上……。母上……」


 僕の尊敬する二人にこうまで言われちゃ応えないわけにはいかないよね!


「がんばります! がんばって、いいお兄さんに、そしていい領主になります!」

「それでこそ我が息子だ!」


 父上が乱暴に僕の頭をなでる。母上も優しい顔で僕を見つめていた。


 二人とも僕に期待しているんだ。僕ももっとがんばらないとね!



 ◇



 最近、アクロイド村で密かにブームになっていることがある。


 それは……。


「シロちゃん、行くわよー」

「オオクロちゃん、今日も仕事、がんばろうね!」

「おし、モモ行くぞー!」


 村人たちが、アクアスライムたちを個性的な名前で呼び始めているのだ。そして、呼ばれたアクアスライムたちを見ると、透き通った体の中に石や金属が浮いている。これを目印に村人たちがアクアスライムを識別しているのだ。


 これは、以前アクアスライムに花をあげていた女性が始めたことらしい。腐るものはアクアスライムの負担になるのであげられない。そこで、腐ることのない小さな宝石をアクアスライムにあげたのだ。


 それを見た村人が、自分のかわいがっているアクアスライムを識別するために石や金属をあげたのが始まりである。


 今では、他のアクアスライムたちが羨ましがって、自分で個性的な石を拾ってくるまでになっていた。


 こうして、見分けのつかなかったアクアスライムたちが見分けがつくようになり、一層村人たちにかわいがられるようになったのである。


 アクアスライムたちにも美意識というものが生まれているのか、奇麗なものを持っていると、他のアクアスライムたちに羨ましがられるようだ。


 ちなみに、アクアも羨ましがったので、僕の愛用の大木剣を体の中に収めている。アクアの場合、べつに奇麗な石じゃなくてもいいらしい。僕の愛用品というのが気に入ったようだ。


 アクアスライムの中には、どうやって手に入れたのか、ディアナの暗器を持っている者がいる。まぁ、ディアナに見つかり次第回収されてしまうのだが。でも、いったいどうやって手に入れたんだろうね?


 当初は村人たちがアクアスライムを受け入れてくれるか心配していた僕だけど、蓋を開けてみれば、もうなくてはならないパートナーのような位置にまでアクアスライムたちはなっていた。


 案ずるより産むが易しってこういうことなんだろうね。予想以上に村人たちが柔軟に対応してくれて助かったよ。まぁ、アクアスライムたちがそれだけ便利だっていうのもあるけどね。


 さて、次は水耕栽培の研究に参加してもらっているアクアスライムたちを見てこようかな。

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