066 アクロイド領の特産品
「あなた、服が!」
「何だったんだ……? おん? 服? うお⁉ 服が奇麗になってやがる!」
なんということでしょう。泥だらけだった父上の服が、僕の魔法で今では新品のようにピカピカに。
母上も父上もこれには驚いたようだ。
「しかも服がしっかり乾いてやがる! 水で濡らしたんだよな? どうなってんだ?」
父上が不思議そうに自分のお腹や胸部分の服に触れて驚いていた。
「水で洗って、その後、水を吸収したんです」
「水の吸収? そんなこともできるのか! すごいぞ、キース!」
僕としては普通のことだったんだけど、父上は嬉しそうに僕の頭を大雑把に撫でてきた。
「おかげで着替える手間も体を洗う手間も省けた! キースのおかげでな! そういえば、あの後だが……。いや、食べながら話すか」
「はい!」
父上と一緒に席に着く。
ちなみにだけど、僕の席には椅子がない。いじめじゃないよ? 僕がアクアに乗るのが好きなのを知って、アビーが事前に椅子を退けてくれたんだ。
アクアに座ると、ぽよんとお尻がジャストフィットする。僕は体験したことないけど、ウォーターベッドってこんな感じかもしれない。
「食事を始めよう。神よ、我らに糧を与えてくださり、ありがとうございます」
テーブルの上には、ビーフシチューのような煮込み料理が並んでいる。
まぁ、ビーフシチューというかトカゲスープなんだけどね。アクロイド芋もたくさん入っている。付け合わせのパンがないからね。アクロイド村の主食が芋であるというのがよくわかる献立だ。
そんなスープをもりもり食べながら父上が口を開く。
「そうだ。さっきの話の続きだがな――――」
「あなた、飲み込んでからしゃべってください。キースが真似してしまいますよ?」
「うむ」
ゴキュッと音が聞こえてきそうなほど盛大に飲み込む父上。相変わらず父上は豪快だなぁ。
「それでだな。村の南に作ろうと思っていた畑だが、もう完成したぞ」
「まあ!」
父上の言葉に、母上が手で口を隠しながら驚いている。目が真ん丸でかわいい。アクアの次にかわいい。いや、もしかしたらアクアを超えている……?
「畑を作るには数日はかかるとおっしゃっていませんでしたか?」
「うむ。それなのだが、キースがとんでもない魔法を使ってな! 今日中に完成してしまったのだ!」
「まあ! キースが?」
母上が驚いた顔で父上と僕を交互に見る。ちょっと照れちゃうね。
「上手くいくかは賭けでしたけど、上手くいってよかったです」
「上手くいったなんてもんじゃねえぞ! オレたちの仕事がなくなっちまったくらいだからな! ガハハハッ!」
上機嫌でガハハ笑いをする父上。
まぁ、数日かかるプロジェクトが半日で終わったら笑いも止まらないかな。
「キースはいったいどんな魔法を使ったのですか?」
「あれは実際に見ないと信じられない魔法だな。とにかく、大地が突然、爆発したんだ」
「爆発⁉ 危険はないのですか⁉」
「大丈夫ですよ、母上。ちゃんとそのあたりは調整したので」
「うむ! 怪我人はおらんから大丈夫だ。むしろ、みんな大道芸でも見たように興奮しておったな」
「そうですか……。それならいいのですが……」
母上はホッとしたように胸を撫で下ろす。
母上は心配性だなぁ。いや、この場合、僕と父上の感覚がおかしいのか? なんだかよくわからなくなってきた。
「完成した南の畑だが、サトウキビを植えてみようと思う」
「おぉー!」
「サトウキビ、ですか?」
歓喜の声を上げる僕とは裏腹に、母上は疑問顔だ。もしかして、サトウキビを知らないのかな?
「オレも辺境伯様から教えてもらった身だが、サトウキビというのは、どうやら砂糖の原料になる植物らしい。今まで砂糖は輸入に頼ってきたが、自国で作れるようになりたいらしい。輸入代もバカにならんからな」
父上にしてはナイス判断だと思ったけど、どうやら辺境伯の入れ知恵らしい。
砂糖を作ることができれば、大儲け間違いなしだ。
「サトウキビは暖かい地方でしか育たないらしくてな。それで、大陸の最南端であるアクロイド男爵領が候補の一つに上がったらしい」
「なるほど……」
いくつかの土地で試しに作ってみようとなったということかな。その候補地の一つがアクロイド男爵領らしい。
辺境伯の発案なのか、もっと上の人の発案のなのかわからないけど、いいことを考えてくれたものだ。
「知っての通り、アクロイド男爵領には特産品がない。今は、モンスターの素材などを換金して外貨を得ているが、それはべつにアクロイド男爵領でしか手に入らないものではないからな」
父上が情けない顔をしながら言う。
だが、次の瞬間には、いつもの自信満々な顔になる父上。
「だが、サトウキビの栽培が上手くいけば、アクロイド男爵領の特産品になる。そうすれば、マクマホン辺境伯のお荷物と呼ばれてきたアクロイド男爵領の評価も変わるだろう。絶対に成功させるぞ!」
「おおー!」
気付けば、僕は右手を振り上げていた。父上のやる気が伝播したのかもしれない。やってやるぜ!
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