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062 演武

 僕は雄叫びをあげて、大剣を全力で振り下ろそうとする。


 手や腕には慣性に従って切り上がろうとする大剣の力がミシリッとかかる。


 痛いし、辛いし、すぐにでも手を放してしまい衝動に駆られる。


「ああああああああああああああああああああ!」


 でも、僕は手を離さない。


 筋繊維がプチプチと切れるのを感じる。痛みがひどい。


 それでも、僕は手を放さず、大剣を振り下ろした。


「やるじゃないか! キース!」


 いつの間にか間合いに入っていた父上が木剣を斜めに構えたのが見えた。


 僕の大木剣を木剣で受け流すつもりだ。


 父上に防御のために木剣を使わせたのは進歩だ。


 でも、このままでは大木剣は受け流されてしまい、僕の敗北だ。


 僕が死に物狂いで振り下ろした大木剣が父上の木剣に当たる。


 コツッと軽い音を響かせて、大木剣が父上の木剣の上を滑っていく。


「はあああああああああああああああああああああ!」


 僕はまた大木剣を切り上げようとする。


 でも、またしても慣性の法則がそれを邪魔をする。


 ただ大木剣を切り上げるだけ。


 たったそれだけが絶望的なほどできない。


 たしかに一度はできたことだ。もう一度できるはずだと思い込む。


 それでもできない。


 先ほどの振り下ろしの際にかなり筋肉が傷ついているから、脳からどんなに指令を送ろうと、もう力が入らないんだ。


 だから負けても仕方がない?


 そんなはずないだろ!


 しかし、僕の願いも虚しく、大木剣の刃先は強く地面を叩く。


 今の僕はもう死に体だ。あとはもう敗北の瞬間を待つばかり。


 でも――――!


 僕はこの時を待っていた!


「でやあああああああああああ!」


 僕は地面を叩いたばかりの大木剣の刃先を蹴り上げる。生まれるのは、鋭い切り上げだ。


「うお⁉」


 さすがの父上も驚いた声を出して、地面を転がるように大木剣の切り上げを避けた。


「ちぇっ」


 完全に裏をかいたと思ったのに……。


 まぁ、回避されたのは仕方がないかもしれない。


 だってこの技は――――。


「キース! お前、知っていたのか⁉」


 父上が驚愕した表情で僕を見ていた。


 そう。これは父上から盗んだ技なのだ。


 最初に気が付いたのは偶然だった。玄関で不思議なものを発見したのだ。


 それは、靴の上から取り付けるような足甲だった。しかも、つま先と踵だけが分厚い作りで、傷だらけだったのだ。


 そして、父上の大剣の扱い方。


 父上は、大剣を担ぐ時、よく大剣を蹴り上げていた。


 最初はあまり道具を大事にしない人なのかなと思ったけど、それも誤解だった。


 大剣を蹴り上げることで、予想外の一撃を加える。たぶん、その癖で大剣を蹴ってしまっていたのだ。


 父上が驚いている通り、父上が僕の前でこの技を披露したことはない。すべては僕の仮説だったんだけど、どうやらあの顔を見るに正解だったらしい。


「玄関に父上のサイズの傷だらけの足甲があったので」

「それだけで気が付いたのか⁉ まったくお前は、すごいな!」


 そう言って、父上が立ち上がる。


「ならばもう隠す必要もないな。それがアクロイド流大剣術だ!」

「アクロイド流大剣術……!」


 ゲームでも出てこなかった流派だ。たぶんゲーム後の百年の間に生まれた流派なのだろう。


「その最大の特徴は、大剣を足で蹴って操る点にある。今、キースがやったようにな。相手がオレだったから避けられたが、他の奴が相手だったらキースの勝ちだっただろう」


 そりゃ、死に体だと思っていた相手から必殺の一撃が飛んでくるのだ。勝ちを確信して油断しているところにこれは詐欺みたいなものだと思う。


 だけど、それ故にかなり有効に思えた。


 だって、僕みたいな五歳児が、大人に勝てる可能性が生まれるのだ。これってかなりすごいことだと思う。


「まあ、キースの素振りも様になってきたし、そろそろ教えようかと思っていたんだがな。まさか、自分でたどり着くとは思わなかったが」


 そう言って苦笑いを浮かべる父上だった。


 その後、父上は足甲を装備して、僕にアクロイド流大剣術の演武を見せてくれた。


「こういう時は、こうする!」

「なるほど!」


 アクロイド流大剣術。父上の演武を見ていると、その荒々しさがよくわかる。


 大剣を蹴りで操るから、どこから斬撃が来るのかわからないトリッキーさがあり、しかも、手数が多い。


 しかし、荒々しさの中にも洗練された美しさがあった。


 大剣を蹴った時に、キーンとまるで涼やかな金属音がリズミカルに庭に響いている。


「すごいなぁ……」


 僕はただただ父上の演武に見とれていた。


 ふと隣を見ると、ディアナも珍しく驚いたような表情を浮かべていた。


 ディアナから見ても父上の演武は驚愕に値するらしい。


「すごいなぁ……」

「はい……」

「ふははははははははははははっ!」


 父上が高笑いを上げながら、本当に楽しそうに大剣を振るう。その斬撃はどこまでも鋭く、僕の心を鷲掴みした。


 僕もいつか、父上のように大剣を扱ってみたい!

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