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060 ディアナの秘密②

「ディアナ、ちょっと服を持たせてもらってもいい?」

「かまいません」


 自分でも変な質問だと思うけど、確認してしまいたくなったのだから仕方がない。ディアナもOKみたいだし、僕はアクアから降りると、ディアナの肩部分の服を持つと持ち上げてみた。


「うわ⁉ おっも!」


 結果。僕の力ではディアナの服は持ち上がらなかった。確かにまだ五歳だから僕の力なんて知れているかもしれない。でも、大木剣を振って筋トレもしている僕でも持ち上がらない服って何だよ⁉ 恐ろしいわ!


 しかし、目の前には、そんな重たい服を着つつも、僕を無表情で見つめるディアナがいる。


「ディアナは重たくないの?」

「慣れました」

「慣れたって……」


 なんだかディアナが今まで積んできた修行の過酷さが垣間見えた気がした。


 ディアナはこんなに重たい服を着て、日常生活を送っていたんだ……。


「戦闘がない日は、普通の服を着てもいいんだよ? 大変でしょ?」

「便利なので」

「便利?」


 このくっそ重たいメイド服が便利? どういうこと?


「防御力、高いです」

「防御力……?」


 ますますわからない。


 首を傾げる僕に業を煮やしたのか、ディアナがむんずと僕の腕を掴むと、自分のお腹部分を触らせる。


 触ってもいいのかなとちょっと不安に思ったけど、その不安は一瞬で解消された。


「え?」


 柔らかい感触が返ってくるのかと思っていたけど、僕の手のひらには硬い感触しかない。しかも、腹筋で硬いというチャチな硬さじゃない。もっと冷たい金属の硬さだ。


「もしかして、ここにも棒手裏剣を仕込んでいるの?」


 僕の疑問にコクリと頷くディアナ。こんなところにまで棒手裏剣を仕込んでいるのか。一体全身でどれほどの数の棒手裏剣を纏っているのだろう?


「これで不意打ちも平気、です」

「なるほど……」


 棒手裏剣を投げて遠距離攻撃もできるし、こうやって服に縫い付けることで、棒手裏剣が鎧のような役割を果たしているのか。たしかに賢いかもしれないけど、ずっとこんな重たい服を着ているのは体に悪そうだ。


 目の前のディアナを見る。ディアナは七歳の女の子なのに、僕より少し低いくらいの背丈しかない。ディアナが年上かつ成長の早い女の子であることを考えると、ディアナがいかに小柄かわかるだろう。


 たぶん、この重たすぎる服のせいで成長が阻害されているのではないだろうか。


「やっぱり、脱いで軽い服を着た方がいいんじゃない?」

「それは命令ですか?」

「うーん……」


 ディアナの言葉で考えてしまった。


 これは命令するべきなのだろうか?


 でも、ディアナの服装にまで口を出すご主人様というのもどうなのだろう?


 そんな思いもある。


 ディアナはメイドだけど、僕のボディーガードという一面があるのは確かだ。不測の事態に備えて、いつでも準備を整えているのは、むしろ褒められるべきではないだろうか?


 僕はまだ、この世界では五年しか生きていない。ディアナも七年しか生きていないけど、僕よりもこの世界の薄暗い部分には詳しいはずだ。


 そんなディアナがこれだけ備えているのだから、彼女の意思を尊重するべきかもしれない。


「ディアナの自由にしていいよ」


 考えた末に僕の口から出たのは、そんな無責任な言葉だった。


 たぶん、僕が判断するより、ディアナの判断を信じた方がいい。


「ありがとうございます」


 ディアナは無表情でそれだけ告げると、振り向いて丸太に刺さった棒手裏剣の回収を再開した。


 ディアナは慣れた手つきで、抜いた棒手裏剣をまるで魔法のようにメイド服のスカート裏のポケットに一つずつ収納していく。


 もう何千、何万と繰り返してきた動作なのだろうなぁ。


「お待たせしました」

「いや、大丈夫だよ」


 ほんの数分ほどで、丸太にびっしり刺さっていた棒手裏剣をすべて回収すると、ディアナがこちらを向いた。その顔にはいつもの無表情が浮かんでいる。


 ディアナの顔は、子どもながらに整っている。これで笑えばかわいいと思うんだけどなぁ。


「僕はこの後素振りをするけど、ディアナはどうする?」

「お供いたします」

「見てるだけじゃつまらなくない?」


 僕が素振りをするところを見ているだけなんて退屈だと思うのだけど、ディアナは首をふるふると横に振った。


 まぁ、ディアナはボディーガードだし、僕を見ているのも仕事なのだろう。


「じゃあ、行こうか」


 ディアナを連れて屋敷の庭で素振りの準備を始めると、アクアがソワソワし始めた。


 さっきあれだけ水の魚を食べたのにまだ足りないらしい。


 でも、ソワソワぷるぷるしているアクアもかわいいよ!


 玄関に置かれている素振り用の大木剣を持って外に出ると、どこからともなくアクアスライムたちが集まってきた。


「今日もやりますか」


 僕はまずは十匹の水でできた猫を創ると、アクアスライムたちを誘うように走らせる。


 アクアスライムたちが水でできた猫を追いかけ始めるのを見て、僕は素振りを始めるのだった。

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