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057 素振りと猫とスライムと

「ふんっ! ふんっ! ふんっ!」


 朝の稽古が終わり、父上と警備隊のみんなは村の見回りに行った後、僕は屋敷の庭で大木剣を振っていた。


 やっぱり大木剣は重いし、もう腕どころか体中が痛い。大剣を振るってかなり辛い。


 でも、僕の目に焼き付いているのは、大剣を振るう父上の姿だ。


 かっこよかった。まさに頼れる男って感じた。


 僕もあんな風になりたい! 父上は僕の目標なのだ。


「ふんっ! ふんっ! ふんっ! ふんっ!」


 息が上がって苦しいけど、それでも僕は大剣を振るう。父上に教えてもらったように、まずは正確に振ることが目標だ。


 そんな僕の目の前を水でできた猫とアクアが通り過ぎて行った。


 アクアが水でできた猫を追いかけて、水の猫が逃げている。追いかけっこしているのだ。


 水でできた猫は、僕が魔法で動かしているものだ。つまり、水でできた猫は豊富に僕の魔力を含んでいる。水でできた猫は、アクアにとって御馳走なのだ。


 僕は、アクアに食べられないように水でできた猫を操作しながら大木剣を振っているのだ。


 まぁ、一見僕が素振りを疎かにしているように見えるかもしれないけど、今の僕は前世の時に比べて平行作業がとても得意になっているんだ。


 つまり、真剣に素振りをしているし、アクアに食べられないように水の猫を操作している。それでもまだ余裕がある。


 僕自身もどこまでできるのかわからない。


 ちょっと試してみようかな。


 僕は二匹の水の猫を追加で生み出してみせる。そして、アクアを翻弄するように三匹の水の猫を操作する。


 まだ余裕があるな。


 僕はさらに二匹の水の猫を追加して、アクアを翻弄する。


 アクアは合計五匹の水の猫にタジタジだ。なんだかおろおろしていてかわいい。


 そんなことを思っていたら、屋敷の庭の柵を超えて、四匹のアクアスライムが現れた。そして、それぞれ水の猫を追いかけ始める。


「むむむ……」


 アクアも含めて、五匹のアクアスライムが、まるで連携するように五匹の水の猫を追い詰め始めた。


 なかなかやるじゃないか、アクアスライムたち。だが!


 僕は水の猫を操作すると、するりとアクアスライムたちの包囲網を突破する。


 まだまだだね。


 でも、アクアだけじゃなくて、四匹のアクアスライムが加わったことで、格段に僕の脳の作業量が増した。


 だが、まだ限界じゃない!


「いけ!」


 僕は一気に五匹の水の猫を追加で生み出すと、アクアスライムたちを翻弄し始める。


 まだいけるな。


 思えば、赤ちゃんの時にはすでに水族館を水で作っていた僕だ。まだまだ脳の作業量的には余裕がある。


 もっと水の猫を生み出そうかな?


 そう思った時、アクアスライムたちの数が増えていることに気が付いた。


 見ると、どんどんアクアスライムたちが屋敷の木の柵を超えて庭に侵入している。もう屋敷の庭には、二十を超えるアクアスライムたちがいる。そして、一斉に水の猫を追いかけ始めた。


 そうだよね。アクアにとって水の猫が御馳走なら、アクアスライムたちにとっても水の猫は御馳走だ。みんな必死に水の猫を追いかけている。


 アクアスライムたちって案外足が速いんだよね。そんなアクアスライムたちが、徒党を組んで水の猫を狙っている。かなりの強敵だ。


「く……っ」


 さすがにこの数のアクアスライムたちを避けきるのは無理がある。水の猫が一匹、また一匹と捕食されていった。


 アクアスライムたちの中にもルールがあるのか、水の猫を捕食したスライムはルンルン気分で屋敷の外に出ていく。


 でも、当然だけど、出ていくアクアスライムの数よりも庭に入ってくるアクアスライムの数の方が多い。


「くそー」


 僕は捕食された分の水の猫を補充するように水の猫たちを生み出して操っていく。


 もちろん、その間も大木剣の素振りは継続中だ。


 水の猫が捕食されては生み出し、アクアスライムたちの包囲網を突破するように操っていく。


 僕は人よりも魔力が多く、そして魔力の回復も早いのか、水の猫を生み出すのに必要な魔力なんて微々たるものだ。放っておけばそのうち回復する。


 僕とアクアスライムたちの攻防は続いていくのだ。


「なんだこりゃ⁉」

「あ! 父上!」


 父上が村のパトロールを終えて帰ってくる頃には、庭中にアクアスライムがまるで絨毯のように敷き詰められた時だった。


「みんな! もう終わりだよ! 村のお手伝い頑張ってね!」


 父上が帰ってきたので、遊びはこれにて終了である。アクアスライムたちは、ぽよんぽよん弾んで了解を示すと、村の中に散らばるように帰っていった。


 残ったのはしょぼくれたような雰囲気のアクアただ一人である。


 どうやらアクアは水の猫を捕食できなかったようだね。


「おいで、アクア」


 僕は大木剣の素振りを一時中断すると、アクアに向けて右手の人差し指を伸ばす。


「他のみんなには内緒だよ?」


 そうして生み出したのは、水でできたマンガ肉である。


 アクアは飛びつくようにマンガ肉に覆いかぶさった。

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