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055 墓参り

「よし! 今日は墓参りに行こう!」


 その後、お茶会に合流した父上は、豪快に芋のスイーツを一口で食べ、お茶を一気に飲み干すと、いきなりそんなことを言い始めた。


 これには母上も苦笑いである。


「父上、今日のお菓子は、母上が作ってくれたんですよ」


 さすがに母上が気の毒になって、僕は父上に教えてあげた。


 がんばれ父上。ここから挽回するのは難しそうだけど、少しでもカバーするんだ!


「そうなのか?」

「はい。今日はアビーに教わりながら、わたくしが作りました。お口には合いましたか?」

「だからか。なんだか懐かしい味がしたんだ」

「懐かしい味、ですか?」


 僕は父上と母上の会話を見守る。これで夫婦仲互いなんてなったら悲しいからね。


「前にもクレアがお菓子を作ってくれたことを思い出したんだ。キースが生まれる前の話だが……」

「懐かしいお話ですね」


 母上が面白いことを思い出したと言わんばかりにクスクスと笑う。


「あの時も、あなたは一口でお菓子を食べてしまって」

「我慢できなかったんだ。それぐらいうまそうだったし、実際にうまかった。今でも味が思い出せるんだ。クレアと同じ、優しい味がした。お菓子は作り手の性格が出るのかもしれないな」

「まあ!」


 そんなことを大真面目な顔で言ってのける父上と、おかしそうに笑う母上。


 今は、とっても和やかな雰囲気だ。


 まさか、あの状況からこうなるとは思わなかった。


 父上はちょっとどころじゃない脳筋だけど、実は人たらしなのでは?


 実際、僕も父上のことは憎めないどころか大好きだしね。


 その後も和やかな雰囲気は続き、僕たち家族はアビーやディアナ、シンディーも連れて村の外に出る。


 やって来たのは、村の東にある小高い丘のような場所だ。そこには石が規則正しく並んでおり、不思議な雰囲気があった。石には名前のようなものが刻まれており、それが墓石であることがわかった。


「こっちだ」


 父上に案内されたのは、小高い丘の天辺にあるスペースだ。そこには一際大きな墓石が鎮座している。


「アーロン・アクロイド?」


 そこに刻まれているのは知らない名前だ。


「そうだ。これがオレたちのご先祖様、初代アクロイド男爵の墓だな」


 あの僕の推しであるモブ兵長のお墓か!


 なんだか感慨深いな。ゲームで登場したモブ兵長のお墓の前にいるなんて。これも一種の聖地巡礼になるのだろうか?


「よお、ご先祖様。あんたの活躍のおかげで、オレたちはこの呪われた地でも健やかに生きてるぜ。もう何度も言ってるが、あんたはオレの目標だ。オレがあの世に行ったら、一杯やろうぜ」


 僕たちはモブ兵長のお墓の前で頭を下げると、父上がまるで友だちに語りかけるようにモブ兵長の墓に向かってしゃべりだした。


「今日は紹介したい奴がいるんだ。キース」

「はい!」

「こいつはオレの息子のキース。前に会ったのは……キースがまだ赤ちゃんの時か? どうだ? 大きくなっただろう?」


 どうやら、僕は知らないうちにお墓参りに来ていたらしい。赤ちゃんの時はとにかく寝ている時間が多かったから、もしかしたら僕が寝ている時に連れて来てくれたのかもしれない。


「キースは、魔法が得意でな。模擬戦をしたら、なんとか引き分けに持ち込んだが、危うく負けるところだった。このオレが、五歳の息子にだぜ? この先が楽しみで堪らねえよな。もしかしたら、キースはオレたちアクロイド男爵家の悲願、アクロイドの呪いを解くかもしれねえ。そのためにいろいろしてくれてるんだ」


 父上は僕の頭を撫でながら、べた褒めだ。そして、いつになく饒舌に話している。


 もしかしたら、領民を導く領主である父上にとって、この墓地こそが素をさらけ出せる数少ない場所の一つかもしれない。


「オレばっかり話してもアレだな。キースもしゃべれ、まずはご挨拶だ」

「はい!」


 僕は一歩前に出ると、その場で跪いた。


「おいおい、もっと気楽でいいんだぜ?」


 呆れたように言う父上。だけど、僕にとってモブ兵長、アーロンは推しキャラなんだ。本当は土下座したいくらいである。


「キース・アクロイドです。僕はこの場で誓います。僕が、この地を覆う呪いを解いてみせます! 絶対に!」


 僕の誓いに嘘はない。


 呪いの原因は目星がついている。あとは一刻も早く強くなって、解決するだけだ。


 もしかしたら、僕はそのためにこの世界に転生したのかもしれない。


 なぜだか、そんなことを思った。


「キース……」

「キース……」

「坊ちゃま……」


 父上と母上、アビー感じ入った声が後ろから聞こえた気がした。


「どうだ、ご先祖さま方? こいつは最高だろ? オレも誓おう。オレも呪いを解くために全力を尽くすってな! まったくキース、お前は最高の息子だぜ!」


 そう言うと、父上は乱暴に僕の頭を撫で回す。あまりの強さに僕の首がグリングリン回るけどお構いなしだ。


「よし、次はこっちだ」


 そして、次はアーロンの墓の隣に移動する。これも僕たちのご先祖様のお墓らしい。


 どうやら、この小高い丘にある墓地の一番いい所は、領主一族のお墓のようだ。

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