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054 三人のお茶会。ディアナとアビーと添えて

 母上が黒茶を一口飲むと、カトラリーを優雅に使って芋のお菓子を少しだけ食べてみせた。


 一応、これには毒見の意味がある。


 今回は正式なお茶会ではないけど、お茶会の作法として、お菓子やお茶を用意した人は、最初に自分で食べて、毒は入ってないよと示さなくてはいけないのだ。


 アクロイド領ではする意味はないけど、きっと僕の教育のためにしてくれたのだろう。僕も貴族の常識を学ばないといけないからね。


 僕は剣術や戦い方などを父上から、そして貴族としての知識を母上から習っているのだ。


「キース、今日の遠征はどうでしたか? モンスターと木剣で戦うと聞いていましたけど、怖くはありませんでしたか?」


 もう一度黒茶を飲むと、母上はさっそくとばかりに僕に質問してきた。その顔は困ったような心配しているような顔が浮かんでいる。


 母上は他の領地からアクロイドにお嫁に来た人だ。父上のアクロイド流の子育てには戸惑っているのかもしれない。


 まぁ、そうだよね。五歳の子どもに命のやり取りをさせるとか、日本だったら普通に虐待だと思う。


 僕の場合、早く強くなりたいと思っているから好都合だったけどね。


 そうじゃなかったら、泣いて嫌がっていたかもしれない。というか、それが普通のような気がしてきた。なるほど、父上が僕に期待するわけだね。


「大丈夫ですよ、母上。最初は怖かったですけど、慣れました! 新しい発見もありましたし、やってよかったと思っています!」

「ならいいのですけど……」


 母上の心配を晴らすように敢えて暢気に答えた。だけど、やっぱり母上はまだ心配みたいだ。悲しそうな顔で僕を見ている。


 ひょっとしたら、母上は僕に冒険を諦めて安全に生きてほしいと願っているかもしれない。でも、やっぱり僕は冒険したいんだよね。そのために強くなりたい。


 そして、僕の最初の目標。このアクロイド男爵領の呪いに終止符を打つこと。


 そのためにも強さは必要だ。


 母上を悲しませるのは本意じゃないけど、こればかりは譲れないんだ。ごめんね。


「新しい発見というと、何でしょうか?」


 シンディーがわくわくした瞳で僕を見てきた。


 シンディーにとって、僕は面白い調査対象らしい。いつか僕の魔法発動のプロセスや、アクアスライムを生み出した術を突き止めたいと言っていた。


 そんな僕の新しい発見が気になるのだろう。


 そうだ。シンディーなら、すべてがスローになる現象について知っているかも。訊いてみよう。


「最初はゴブリンと戦った時かな。まるで時間の流れがすべてゆっくりになったように感じたんだ。ゴブリンの顔のシワや、木の葉がゆっくり落ちるのが見えた。その向こうに見える木の幹の模様までしっかり覚えている。シンディーはこれって何か知ってる?」


 シンディーは難しい顔をして首を傾げた。


「戦士特有のものでしょうか。私は聞いたことありませんね。走馬灯、とは違うようですし……。もしかしたら、私よりもご領主様や警備隊の皆さんの方がご存じかもしれませんわ」

「そっか……」


 そういえば、まだ父上や警備隊のみんなに訊いてなかったな。


 シンディーはどちらかというと魔法使いだし、博士だし、聖職者だし、間違いなく後衛だよなぁ。


 やっぱり、訊いてみるなら父上か警備隊のみんなか。


「そうしてみるよ」

「それがよろしいかと」


 シンディーが意外にも綺麗な所作で黒茶を飲む。


 僕も目の前に置かれたティーカップを手に取って黒茶を飲む。


「ん~」


 黒茶は、前世で飲んでいたお茶に比べると渋みはあんまりなく、まるで薄荷のようにスーッとするのが特徴だ。お茶というよりも甘くないジュースを飲んでいる感じがするかな。


 そして、僕は期待を込めて芋のスイーツにナイフとフォークを伸ばす。


 ナイフで芋のスイーツを一口分切って、フォークで刺して口に運ぶ。


 感じるのはよく練られた芋の滑らかな食感とチーズの芳醇な香り、そして少しだけ加えられた砂糖の甘み。


「おいしい……」

「よかったです。これはアクロイド男爵家に伝わるお菓子なのです。アビーに習ったのですが、なかなか難しくて……」

「えっ!? 母上が作ったんですか!?」

「はい!」


 てっきりアビーが作ったと思っていたけど、どうやら本当に母上が作ったみたいだ。


 母上は貴族だよ? たぶん、料理なんて作ったことないに違いない。実際に、今まで母上が料理を作ったことはない。料理といえば、アビーやディアナの仕事だった。


 でも、今回は母上が芋のスイーツを手作りしてくれたらしい。


 それだけ心配していていたということかな?


 やっぱり母親としては心配だよね。


「ありがとうございます、母上! とってもおいしいです! 滑らかで、甘くて!」

「それはよかったです!」


 母上はようやく心配そうな顔から笑顔になった。


 やっぱり、母上は笑っている方がいいよね。


 そんな母上の向こうでは、ディアナがちょっとだけいつもの無表情を崩していた。


 あの顔は初めて見たな。もしかして、羨ましいのかな? ディアナの好きな物は甘いものだったし。

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