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053 推しキャラ

 グラッツヴァール大要塞。


 それはリンドグレーン王国が最終防衛ラインに建造した大要塞だ。ここを抜かれたらリンドグレーンの敗北。それほど重要な要塞である。魔族の猛攻に押されていた人類連合は、グラッツヴァールに兵力を集め、グラッツヴァール大要塞を頼りにしてなんとか魔族の進行を抑えていた。


 だが、先ほど父上が言ったように、グラッツヴァール大要塞は陥落した。


 なぜか?


 それは、人類連合がグラッツヴァール大要塞から兵を引いたからだ。


 なぜそんなことは許されたのか。


 囮である。


 グラッツヴァール大要塞は、引いてはリンドグレーン王国は、魔族たちの注意を引き付けるために囮に差し出された。


 グラッツヴァール大要塞の陥落は予定調和であり、その間に主人公たちが邪神を倒すという計画だ。


 実はこれ、高齢だったリンドグレーン国王が崩御した隙を突いて練られた計画であり、主人公たちも知らない設定資料集に載っていた事実である。


 だが、人類連合にも予想外のことが起きた。それが――――。


「たしかに、グラッツヴァール大要塞は陥落した。だが、魔族たちはそれ以上進軍できなかったんだ。グラッツヴァール大要塞を陥落させるために、かなり大きな犠牲を払ったからな」


 そう。人類連合は確かに兵を引いた。グラッツヴァール大要塞の首脳部も逃げるようにそれに追従した。


 だが、リンドグレーンの兵士たちはそれをよしとしなかった。


 グラッツヴァール大要塞の陥落は、リンドグレーン王国の敗北を意味する。そのことを誰よりも知っていたのは、リンドグレーン王国出身の兵士たちだった。彼らは逃げ出す上官たちの命令を無視し、グラッツヴァール大要塞を守り続けた。


 彼らの働きは、プレイヤーが邪神がいる城に侵入する時、イベントで知ることになる。


 泣けるんだ。彼らの覚悟は。


 彼らは、自分たちの国を、愛する人々を守るためにその命を投げ出すのだ。


 そして、圧倒的劣勢の中で、彼らは魔族軍に大打撃を与えるまでに獅子奮迅の働きをする。


『お前ら! 死ぬ覚悟はできてるか? オレたちはたぶん死ぬ。だが、それでも守りたいものを思い出せ! 覚悟を胸に!』

『『『『『覚悟を胸に!』』』』』


 今でも一言一句思い出せる。グラッツヴァール大要塞に残った兵長の言葉だ


 あれ?


 兵長ってことは、もしかして、あのモブ兵長が僕たちのご先祖様なのか?


「その功績が称えられ、ご先祖様にはアクロイド男爵位と領地が贈られた。オレたちは国を守った英雄の末裔なんだぜ? すっげーだろ?」

「すごい……」


 まさか、僕の推しキャラであるあの時のモブ兵長の子孫に転生するんて!


 これも運命なのかもしれないね。


「だから、アクロイドの男は国を守れるくれー強くならなくちゃならねえ! まあ、そういうわけだ。オレはこれからもキースを厳しく指導するつもりだ。もしかしたら、キースは嫌になっちまうかもしれねえ。だが、そんな時は思い出してほしい。自分の体に流れている血の意味をな」

「はい!」

「うむ! もうじき村だな。きっと館ではクレアが心配してキースの帰りを待ってるだろう。キースも元気な姿を見せてクレアを安心させてやってくれ」

「はい!」



 ◇



「あなた、キース、ディアナ、おかえりなさい」

「おう。帰ったぞ」

「母上、ただいま帰りました」

「ただいま帰りました」


 よっぽど心配だったのだろう。母上は目元を拭うような仕草をしていた。


「クレア、聞いてくれ! キースは立派に戦ったぞ! 詳しいことは本人の口から聞くといい。オレは村人たちに指示を出してくる」

「はい! あなたもお疲れさまです」

「ああ。ではキース、今日はがんばったな。お前はオレの誇りだ」


 父上は僕の頭をさっと撫でると、村の中央に向かって歩いて行ってしまった。


「おかえりなさいませ、坊ちゃま、ディアナ」

「キース様、ディアナ、おかえりなさいませ。お怪我はありませんか?」

「アビーもシンディーもただいま。怪我はないよ。ありがとう」

「それはよかったです。さあ、立ち話も疲れてしまいますし、館に入りましょう」


 母上の言葉に従って、僕たちは館の食堂に移動した。


 貧乏なアクロイド領には似つかわしくない豪華な大剣が飾られた食堂。椅子には母上と僕、そしてシンディーが座る。


 アビーとディアナは給仕のお仕事だ。


「こちらをどうぞ」


 アビーとディアナが持ってきたのは、アクロイドでメインに栽培されている芋にヤギのチーズを混ぜて焼いたスイートポテトのようなお菓子と香しい匂いのお茶だ。


 水が貴重なアクロイド領では、一部の野菜とこの芋しか栽培できない。でも、最近は扱える水の量が増えたから育てられる作物が増えたとみんなが喜んでいる。


 ちょっとだけ砂糖を使う芋のお菓子はアクロイド領では貴重な甘味だ。


 そして、お茶。黒茶と呼ばれる旧リンドグレーン王国領でよく飲まれているお茶である。


 素朴なお茶会に見えるが、実はアクロイド領ではかなり贅沢な部類だ。


 砂糖とお茶は輸入品だし、お金がかかるからね。


 たぶん、試練を乗り越えた僕へのご褒美なのだろう。

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