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051 実践稽古②

「こっちです!」


 コリンの所に向かうと、四体の小柄な人影が草むらから飛び出してくるところだった。


 背の高さは僕と同じくらい。その頭はハゲあがっていて、額には小さなツノが生えている。体の大きさに見合わないほど大きな尖った耳。手には棍棒を持ち、他に装備といえば、腰に巻いている枯草くらいなものだ。


 ゴブリン。どこにでもいるポピュラーなモンスターだ。


「コリン、三匹倒して、一匹キースに残しておいてくれ」

「了解です!」


 コリンの剣が三度閃くと、三体のゴブリンの首が刎ねられた。残ったのはゴブリン一体。これが僕の相手だ。


 もう一度、ゴブリンを観察する。


 武器は右手に短めの棍棒が一つだけ。いや、左手の爪にも気を付けた方がいいだろう。


「いけ! キース!」

「はい……。ふぅー……」


 父上の言葉に押されるようにして、僕は一歩前に出る。


 もう引き返せない。ここは父上のもしもの時は助けてくれるという言葉を信じてやるしかない。


 幸い、敵であるゴブリンの武器は棍棒だ。僕の武器である木剣とほぼ同じ。武器による優劣は特にない。


 体格も同じならば、武器も差がない。あとは双方の技量のみ。


 相手のゴブリンは、味方の三体が一瞬で殺されたことに驚いているのか、棒立ちだった。もしかしたら、呆然としているのかもしれない。


 ならば今、攻め込んだ方がいい!


「…………ッ!」


 僕はゴブリンの後ろに回り込み、敢えて声を出さずにゴブリンに斬りかかる!


 奇襲だからね。声を出すなんて愚の骨頂だ。


「GEGYA!?」

「くッ!」


 気付かれた!?


 完璧な奇襲だったはず。何で気付かれた!?


 僕の足元では、ゴブリンに踏み込んだ拍子に落ち葉がカサカサ鳴っていた。


 この音で気が付いたのか?


 いや、今はそれよりも!


 反射的に身を引いて僕の木剣を避けようとするゴブリン。


 結果、僕の木剣はゴブリンの頭部に掠るように当たっただけに終わってしまう。


「GYAGYA!」


 木剣が掠ったゴブリンは、頭から青い血を流しつつも未だに健在だった。


 しかも、ゴブリンはコリンや父上、ディアナではなく僕だけを見ている。まずは自分に手傷を負わせた僕を倒すと決めたらしい。


 最悪だ。


 不意打ちの機会がありながら、それを上手く活かせなかった。


 ゴブリンは、僕が落ち葉を踏む音で、僕の接近に気が付いたと思われる。


 音。僕が見落としていた点だ。


 この失敗は次に活かさないといけない。


 次があればだけど……。


「GYAOGA!」


 ゴブリンが威嚇するように吠える。


 僕はそれに応じるように木剣を正眼に構えた。


 ゴブリンは僕の冷静な態度が気に喰わないのか、棍棒を振り上げて突撃してきた。


 正直、めちゃくちゃ怖い。


 でも、まだ素振りだけだけど、剣術を習っている僕にはわかる。なにも考えていないような、稚拙な行動だ。父上と相対した時のような重圧は感じない。


 だからだろう。僕は今この瞬間を冷静に感じていた。


 僕の心臓がドクドクと早鐘を打っている。血が、体中を巡る。頭にも血が巡り、すべてがスロー映像のように感じた。


 ゴブリンが、棍棒を振り上げながら近づいてくる。その姿のなんと隙だらけなのだろう。


 なぜ僕はこんな相手に怖がっていたんだ?


 すべてがスローになった世界。僕の知覚が広がっていく。ゴブリンの大きな鼻から飛び出た鼻毛や、ゴブリンが蹴り飛ばす落ち葉の枚数までわかった。


 そんなスローになった世界で僕も動き出す。


 まるで水の中で動くように、僕もスローにしか動けない。


 でも、心臓は破裂しそうなほど早鐘を打っていた。


 血の巡りが速いと、このスローな世界に入れるのだろうか?


 目の前まで迫っていたゴブリンが棍棒を振り下ろす。


 僕はその軌道を確認してから、回避行動を始めた。これでも十分に間に合う。


 ゴブリンの棍棒をスレスレで避けると、僕は木剣を振るう。


 スローな分だけ、いつもよりも丁寧に体を動かせる。


 木剣は、狙った通りにゴブリンの首を薙いだ。


 ポキッというまるで枝を折ったような感覚が手応えとして返ってくる。


 たぶん、ゴブリンの首の骨が折れたのだろう。


 その瞬間、僕はすべてがスローな世界から帰ってきた。


 ドサッと声もあげずに倒れるゴブリン。その首は直角に曲がっている。


 僕はゴブリンに勝ったんだ。しかも、魔法を使わずに、木剣で。


 これは大きな進歩だと思う。


 でも、僕はそれ以上にあのスローな世界に興味を持っていた。


 あれは、戦闘においてかなり優位になる能力だ。ぜひとも物にしたい。


 いったいどうすればいいんだろう?


「よくやったぞ、キース! 今までで最高の一撃だった! やっぱ実戦に勝る稽古はねえよな! キース、お前はオレの誇りだ!」

「うおっ!?」


 突然、後ろから抱き上げられた。父上だ。父上が僕を高い高いするように持ち上げていた。


「この調子でどんどんモンスターを倒していくぞ!」

「えぇー……」


 この日は、父上の指示通りにいろいろなモンスターと木剣を交えた。

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