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047 剣術稽古②

「理解したようだな? さあキース、素振りをやってみろ」

「はい!」


 僕は目を瞑って想像する。相手は……ゴブリンがいいだろうか。ちょうど僕と同じくらいの背丈だしね。


 ゴブリンなら、僕は殺せる。


 実際に魔法でゴブリンを殺したこともある。


 そのゴブリンを、今度は剣で殺す。


 魔法は便利だ。その性質は銃に似ているかもしれない。銃の引き金を引くように、魔法を発動すればゴブリンを倒せる。


 でも、剣ではそうもいかないだろう。ゴブリンの臭いがわかるほど近づき、斬り裂かねばならない。きっと肉や骨を断つ手応えもあるし、ゴブリンの血を浴びることになるかもしれない。


 斬るならどこがいいだろう?


 僕にはゴブリンの頭の骨をカチ割るほどの力はないし、正確にゴブリンの首を刎ねる技量もない。


 そういう意味では、袈裟斬りがいいかもしれない。


 肩口からゴブリンの胸と腹を斬り裂き、脇腹から抜ける。


 斬られたゴブリンは臓物を零しながら血を吐き、息絶える。


 そこまで想像した後、僕は目を見開いた。目の前には僕の想像した通りのゴブリンの幻影が棍棒を振り上げている。


「やあッ!」


 僕は敢えて一歩を踏み出し、ゴブリンの左肩から右脇腹まで剣を走らせる。


 ゴブリンは青い血を噴き出しながら倒れ、そのまま空気に溶けるように消えていった。


「はぁ、はぁ、はぁ……」


 いつの間にかドクドクと心拍数が上がり、荒い息を吐いていた。


 傍から見れば、僕は一回木剣を振っただけで息切れしているように見えるだろう。


 でも、僕にはゴブリンの獣臭さも感じたし、手にもゴブリンの肉を斬った手ごたえも感じた。青い血を浴びた生暖かい感覚まであったほどだ。


「まさか、一回で理解するとは思わなかったぞ。さすがオレの息子だ!」


 次の瞬間、僕の視界は一気に高くなる。父上に抱き上げられたのだと気付いたのは、少し経ってからだった。


「あなた、キースが苦しそうですよ? 本当に大丈夫なんですか?」

「なあに、心配いらないさ。キースはそれだけ真に迫ったんだ」

「真に迫った?」

「斬る覚悟を身に付けたってやつだ」


 よくわからないと言わんばかりに首を傾げる母上に、父上は嬉しそうに答える。


「いやあ、オレの時は一年ぐらいかかったから、キースもそれぐらいかかるだろうと思っていたが、まさか一発で決めるとは思わなかったぜ! さすが、キースだ」


 父上は片腕で僕を小脇に抱えると、僕の頭を撫で回す。


「あうあうあう」


 父上は力が強いから、僕の頭はぐりんぐりん回転した。首が取れちゃいそうだ。


「まあ! あなたでも一年かかったのですか!?」

「まあな。それをキースは一日で物にしたんだ。すげーだろ!」


 アクロイドの猛虎と呼ばれているらしいめちゃくちゃ強い父上ですら一年必要だった修行。それを一発で成し遂げたのだから、父上の喜びや母上の驚きもわかる。


 でも、僕が成功したのは、前世の知識があったからだ。


 僕が思い描いたのは、ボクシングの練習方法の一つ、シャドーボクシングだ。


 僕はボクシングをやってなかったから知識でしか知らないけど、シャドーボクシングは、相手を思い浮かべて、相手の攻撃を躱したり、相手に攻撃したりするものらしい。


 僕がやったのは、ただのその応用である。


 なのにこんなに喜ばれると、なんだか気恥ずかしい。


「キース様は魔法だけではなく、剣の才能もおありなのですね」

「すごい」


 シンディーや、いつの間にかいたディアナも拍手していた。


 二人は持ち上げてくれるけど、たぶん僕には剣の才能はないと思う。


 前世の知識があったからこそ成し得たことで、僕自身が特別すごいわけではないのだ。


 まぁ、褒められて悪い気はしないけど。


「こいつは将来オレを超える大剣豪になるかもしれないな!」


 父上の期待が重いよ……。まぁ、僕なりにがんばるけど。


「だがまあ、覚悟はできたが、キースにはそれを支えてくれる技術がまだない。今度はそっちを鍛えていくぞ!」

「はい!」


 父上からやっと解放されて、僕は地面に立つ。なんだか久しぶりに自分で立っているような気さえした。いつもはアクアに乗って移動しているからかな?


「次は技術を仕込む。まあ、やることは素振りに変わりはないがな」


 どうやら、次にやるのも素振りらしい。


「いいか、キース? これを見ろ」


 そう言って父上が取り出したのは、二本の細めの角材だった。


「ふん!」


 父上はそれらを五センチくらいの間隔を開けて地面に突き刺す。


「次は、この真ん中を通るように素振りするんだ」

「はい!」


 角材の間隔は五センチほど。一方の木剣の厚さは三センチくらい。まぁ、難しいだろうけど、やってやれないことはないだろう。


 そう思って木剣を振り上げて、角材の間を目がけて振り下ろす。


 しかし――――!?


「え……?」


 僕の振り下ろした木剣は、角材の間を通るどころか、角材にも当たらず、大きく右の方向に逸れたのだった。

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