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041 モートンの覚悟

「呪いの解決しちまうなんて、キース様はすげーぜ!」

「まったくだ!」

「キース様万歳! 領主様万歳!」

「アクロイドの呪いから解放される時が来たのか……」

「おっちゃん、よかったな!」

「これで死んだばっちゃも喜んでくれるにちげえねえ!」

「こんな日が来るとはな……。生きててよかった……」


 村人たちはそれはもうお祭り騒ぎのようにやんややんやと騒ぎ出す。それだけ塵肺はアクロイドの人々にとって身近な恐怖だったのだろう。人々の顔には喜色が浮かび、解放感に酔いしれていた。


「では、まずはオレから実践してみせよう。シンディーはいるか?」

「ここにおりますわ」


 父上がシンディーを呼ぶと、人垣が割れてシンディーが姿を現した。


「ご領主様、まさかですけど、あの方法を実践してみせるおつもりですか?」

「そのまさかだ! もしもの時は頼んだぞ? ではキース、やってくれ!」

「はい!」


 僕が返事をすると同時に、二匹のアクアスライムが僕たちに近づいてきた。


 どうしたんだろう?


 そう思っていると、アクアが水の触手を伸ばして父上の体をアクアスライムたちの方に押す。


「ひょっとして、座ってほしいのかも?」

「座るって、このスライムにか!?」


 父上が驚いた声を出すと、その通りだと言わんばかりにアクアとアクアスライムたちがぽよんぽよん弾む。


「父上座ってみてください」

「う、うむ……」


 大柄な父上がアクアスライムたちに座ると、アクアスライムたちはぷにっと潰れつつも父上の体を支えてみせた。


「これは、なかなかいいな!」


 うんうん。父上にもアクアスライムたちの良さがわかってくれたみたいだ。


 この調子でスライムの良さを村人たちにもわかってもらおう!


 僕はアクアに乗ったまま父上に近づくと、魔法で水を生み出す。


 水は僕の意のままにまるで触手のような動きを見せた。


「あれがキース様の魔法か!」

「あれは何の魔法なんだ?」

「わかんねえ! けど、すごいぜ!」


 村人たちの声を聞きながら、僕は精神集中する。肺洗浄は、細心の注意を必要とするからね。もし傷付けたら、死んでしまうかもしれないからかなり緊張する。


 でも、やると決めたんだ!


「いきます!」

「来い! あがががががががががががががががが!」


 僕は大きく開けた父上の口に触手を入り込ませる。ここから先はスピード勝負だ。肺洗浄中、父上は呼吸できないからね。素早く、そして丁寧な水の操作が求められる。


「がはッ!」


 父上の肺を洗浄するのにかかった時間はわずか二秒ほどだった。だが、しっかり肺の隅々まで洗浄している。


 その証拠というわけではないけど、父上の肺からはわずかな量の砂が回収できた。この砂が塵肺の原因だ。それを取り除けたということは、少なくともこれ以上の症状の進行を抑えることができると思う。


「ふぃー! 肺がすっきりした! さて、こんな感じだ! みんなもキースに肺を掃除してもらえ!」


 父上が満足げな顔で立ち上がって言うが、村人たちは動こうとしなかった。お互いの顔を見て不安そうな顔を浮かべている。


「水が体に入っていったぞ?」

「もしかして、肺に入ったのか?」

「それじゃあ呼吸できないじゃないか!」

「だ、大丈夫なのか……?」

「こえー……」


 というか、みんなドン引きである。


 まぁ、うん。そうだよね。肺に水が入るってたしかに怖いと思う。みんなのその感情は正常だと思うよ。


「みんな、たしかに怖いかもしれないけど、チャレンジしてくれないかな? お願いだよ! 僕はみんなを助けたいんだ!」


 僕はアクアの上で村人たちに向かって頭を下げる。


「がはッ! ぐふッ! ぜひー、ぜひー」


 その瞬間、盛大に咽る音が響き渡った。


 苦しそうな呼吸音だ。見れば、モートンが走りながらこちらに向かってくる。


 無論、モートンはもう歳だ。走ると言ってもそんなに速いスピードではない。


 でも、一生懸命走っていることは伝わってきた。


「ごはッ! あた、頭を上げてください、キース様! このモートン、キース様に全幅の信頼を、置いております! 私めにどうか、魔法を使ってください!」

「え?」


 みんなが戸惑う中、真っ先に名乗りを上げたのはモートンだった。


 そのことに驚いていると、モートンの孫らしいロニーが駆け寄ってモートンの体を支える。


「爺ちゃん! 爺ちゃんじゃ体がもつかわかんねえぞ!」


 ロニーの言う通り、僕は今まで頑丈だと思われる父上にしか肺洗浄をしたことがない。モートンが肺洗浄に耐えられると断言することはできなかった。


「がはッ! ロニー、儂が耐えられれば、村のみんなが耐えられる証明になる。先陣を切るなら、老い先短い儂が適任じゃて」

「モートン……」


 モートンはそこまで考えて名乗りを上げてくれたのか……。


「それにの、ロニーや。儂はキース様を信頼しておる。キース様の魔法で死ねるなら本望じゃて」

「爺ちゃん……」


 ロニーにもモートンの覚悟が伝わったのだろう。ロニーは僕に対して勢いよく頭を下げる。


「キース様、どうか爺ちゃんをお願いします!」

「ロニー、任せてよ! 絶対にモートンを死なせないから!」


 僕はロニーに約束する。


 絶対と僕は言った。そう。絶対にモートンを死なせない。


 モートンは、おそらく村人の中でも一番塵肺の症状が進んでいる。そのモートンがみんなが怖がる中、一番に名乗りを上げてくれたんだ。少しでもモートンの症状を和らげたい。


「いいのか、モートン?」

「ご領主様、儂は十分生きました。儂の体が役に立つのなら、どうぞ使ってやってくだされ」

「……感謝する」

「なんの。これこそ儂がこれまで生きてきた意味なのでしょう」


 父上とモートンがまるで最期の別れのような挨拶を交わしている。


 絶対にこれを最期にはしない! 絶対にモートンの肺洗浄を成功させ、症状を和らげてみせる!

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