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040 村人たち、スライムに会う

「トム、村の皆がスライムを見て怯えないか心配だ。先触れを出して危険はないと皆に伝えてくれないか?」

「了解です!」


 父上の言葉を受けて、トムに指示された警備隊の一番の若者が走り出す。がんばって村のみんなを説得してほしいね。


 振り返ると、僕たちを覆う水のヴェールの向こうにまるで砂の上を走るイカダの姿が見える。イカダの下を見ると、たくさんのアクアスライムたちがぷにゅっと潰れながら木を運んでいる。かわいい。


「しかしキース、お前は本当にスライムが好きだな」


 父上がアクアに乗ったまま移動する僕を見下ろして呆れたように言う。


「もちろんです! スライムよりかわいい生物はいませんよ」

「そんなにか!?」


 父上が驚いたように声を荒げているが、僕には何のことだかわからないよ。


 スライムはこんなにかわいいのに。


「本当にスライムがいっぱい来たぞ!」

「キース様がスライムに乗ってる!?」

「スライムが木を運んでいるぞ!」

「キース様が魔物使いの才能もあるって本当だったんだ!」

「スライム、かわいい……」


 村に到着すると、村人たちが僕たちを遠巻きに見ながら驚いていた。最後の子、キミは才能あるね。こちら側に来ないか?


「皆! このスライムたちはキースが使い魔にしたものだ! 故に、危険はない! 見ての通り、このスライムたちは村のために働いてくれた! 最初は難しいかもしれんが、できれば慣れてくれ!」

「まあ、領主様が言うなら……」

「本当に危険はないのか?」

「子どもたちが危険なんじゃあ……」

「畑も心配だ」

「でも見てみろ。キース様はスライムの上で横になっているぞ!」

「なら、大丈夫か……?」

「うーむ……」


 父上の言葉を聞いて、お互いに顔を見合わせてヒソヒソ話している。半信半疑って感じかな?


 まぁ、スライムは元々モンスターだし、父上の話だと、畑の作物をダメにしてしまうらしい。そんなスライムが二十匹以上。心情的に簡単に受け入れるのは難しいかもしれない。


 僕はアクアの上で立ち上がる。


「みんな! このスライムたちは、酸を持っていない水のスライムなんだ! だから、安心だよ? むしろ、みんなの畑の仕事を手伝ってくれる! そうだよね、アクア?」


 アクアは「そうだ、そうだ!」と言わんばかりにぽよんぽよん弾む。


「アクロイドの者たちよ!」


 その時だった。しわがれた、しかし力強い声が村に響く。


 人垣が割れ、現れたのは長老のモートンだ。在りし日に比べると、背が少し曲がっているし、シワが深くなった気がする。


 しかしその瞳には、初めて会ったあの日と同じ力強い輝きがあった。


「ゴホッ! ガハッ!」

「爺ちゃん、無理すんなって」


 大声を出したからか、モートンが盛大に咽る。近くにいた子どもがモートンの背中を摩っていた。


「ありがとう、ロニー。アクロイドの者たちよ、思い出すのじゃ。キース様が我々に施してくださったものを。この水は、我らが生きるための水は、いったい誰に与えられたのかを。この水のカーテンもそうじゃ。我らはキース様によって生かされていると言ってもよい。此度もそうじゃ。キース様を、そしてご領主様を信じてみんか?」


 モートンの言葉は、静まり返った村の中に優しさを持って響き渡った。


「長老……」

「そう、だな」

「もう一度信じてみっぺ」

「んだな!」

「スライムくれー、オラたちでも倒せっからな。大丈夫っしょ」

「本当におめーに倒せるのか?」

「はっはっはっはっはっ!」


 モートンの言葉の後、明らかに村人の表情が変わった。緊張を伴ったものから笑顔に変わっている。


 これは……受け入れてくれたっぽい?


「やったね、アクア!」


 アクアにも村人たちが自分たちを受け入れてくれたことがわかったのだろう。嬉しそうにいつもよりぽよんぽよん弾んでいた。当然、アクアの上に乗っている僕もぽよんぽよん弾む。


「おほん! それでだが、皆にもう一つ伝えたいことがある!」


 父上がもう一度声を張り上げる。


 スライムたちのことは言ったし、他に何か言うべきこととかあったかな?


「つい昨日の出来事だが、キースが呪いに対して治療法を見つけたぞ!」

「え? 父上? それは――――」

「「「「「おおおおおおおおおお!」」」」」


 あの、父上? あれは対処療法としてはいいかもしれないという話だったけど、治療法ではないという話だったんじゃ……?


 そう思って訂正しようと思ったんだけど、村の人々の期待に満ちた声に僕の声はかき消されてしまう。


 アクロイドの呪い。本当は塵肺という病気らしいけど、村のみんなは塵肺に苦しんでいる。さっき長老のモートンが盛大に咽ていたのを嫌でも思い出した。


 こんな僕の思い付きのような魔法だけど、みんながそれに期待している。


 病は気からという言葉もあるし、僕にはみんなの期待を握り潰すようなマネはできなかった。


 それに、父上が言うには、効果がないわけじゃないらしい。


 シンディーも塵肺の根本的な治療はできなくても、対処療法にはなるかもしれないと言っていた。


 なら、やった方がいい。

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