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037 アクア

 スライムに向けて僕の周りを三回回るように言い放った父上。


「バ、バカな……!」


 しかし、父上は驚きのあまり膝から崩れ落ちることになった。


 そう。スライムが僕の周りを回り始めたのだ。


 そして、僕の周りを三周回ったスライムは、どうだと言わんばかりにぽよんぽよん弾む。かわいい。


 これで、このスライムに知性があることが証明されたね。


「父上! このスライム、飼っていいですか?」

「うーむ……。知性があるのは認めよう。だが、本当に大丈夫なのか? 畑を荒らされたら目も当てられないぞ?」

「そんなことしないよね?」


 スライムに問いかけると、スライムは頷くようにぽよんぽよんと弾んだ。


「おねがいです、父上。ちゃんと面倒見ますから」

「うーむ……」


 立ち上がって、腕を組んだまま考え込む父上。


 やっぱり父上の中ではスライムは倒すべきモンスターとしてのイメージが強いのだろう。


 でも、先ほど父上が言っていたけど、都会ではもうスライムを使った便利施設があるらしい。


 つまり、このスライムが便利だということがわかればOKを貰える可能性が上がる!


「父上、このスライムはほとんど水でできています。つまり、飲んでも安全です。水筒代わりに連れ歩くのはありじゃありませんか?」

「そうかぁ? オレはスライムを飲むのは嫌なんだが……」


 ぐぬぬ。たしかに絵面はひどいことになりそうだけど……。


「じゃ、じゃあ、水の運搬に使うのはどうですか? 今、村では大壺から水を汲んで、手作業で畑まで運んでるじゃないですか? このスライムがいれば、スライムが水を運んでくれますよ」

「ふむ……。それができれば確かに楽にはなるが……」


 父上の訝しげな視線がスライムを見つめる。


「これにそんなことが可能なのか?」


 スライムがまるで「できらぁ!」と言わんばかりにぽよんぽよん弾む。


 そのままスライムは、にょきっと天辺からツノのようなものを生やすと、そこから勢いよく水を吐き出す!


 吐き出された水は、そのまま雨のように草木を濡らしていく。


 これにはちょっと驚いたけど、これならいけるかもしれない!


「痛くない。酸じゃないのか? これは……水だな……」


 顔に付いた水滴をぺろりと舐める父上。


「父上! これで畑に水を撒けばいいんじゃありませんか? このスライムがいれば村人も楽になりますし、それに、かわいい! やっぱりかわいいは正義ですよ!」

「わかった、わかった。かわいいというのは疑問だが、キースがそこまで言うのなら、試してみよう」

「やった! やったね!」


 僕がスライムに抱き付くと、スライムはたぷんと僕を受け止めてくれた。まるでウォーターベッドみたいだ。


「ただし! もし畑に悪さするようなら、キースが何を言おうとそのスライムは処す。それでいいな?」

「はい! うふふ、名前は何にしようかなー?」


 処すと聞いた時、スライムが震えた気がするけど、気のせいだよね。


 それよりも、今は名前を考えないと。


 このスライムの種族名はたぶんアクアスライムだから、アクアとかどうだろう?


 ちょっと安直すぎるかも?


 でも、分かりやすい方がいいよね。


「アクア、キミの名前だけどアクアはどうかな?」


 スライム、アクアは頷くようにぽよんぽよん弾む。アクアに乗っている僕の体もぽよんぽよん弾む。アクアって意外と力持ちだ。


「すごいっすね! 坊ちゃんには魔法の才能だけじゃなくて、魔物使いの才能もあるんですね! こりゃ、アクロイドも安泰だ!」


 一部始終を見ていた警備隊の一人が喜びの声をあげる。


「父親としては驚くことばかりだがな」


 父上もまんざらでもなさそうに頷いていた。


 それにしても魔物使いか。ゲームでも魔物使いのヒロインが登場したけど、その時は世間からかなり毛嫌いされていた。


 でも、警備隊と父上の二人の表情を見ると、魔物使いが毛嫌いされている様子はない。逆に喜んでいるくらいだ。


 このあたりも百年で変わったことなのかな?


 まぁ、百年もあれば常識や評価なんてコロコロ変わるのが当たり前かもしれない。


 スライムを飼いたいのは完全に僕のわがままだったけど、父上が許してくれた背景がちょっとわかる気がした。


 そんなこんなで僕が飼うことを許されたアクアだけど、僕の魔力がよほど気に入ったのか、僕の言うことはなんでもしてくれるみたいだ。


「んー! きもちー!」


 そんな僕が何をしているかというと、アクアの上に乗ってくつろいでいた。


 アクアはまるで高級なウォーターベッドのように僕を優しく受け止めてくれる。冷たくてぷにぷにで、僕はもうこの触感にメロメロだ。


「ディアナも乗ってみる?」

「……ちょっとだけ」

「アクア、もうちょっと広くなってよ」


 そう言うと、アクアがへにょんと広がった。アクアの厚みが半分くらいになっている。


「失礼いたします」


 ディアナがアクアに座ると、たぷんとアクアが波打った。僕の体が波に合わせて少しだけ上下する。この波打つ感覚が面白い。


「ぷにぷにで、冷たい?」

「気持ちいいよねー」


 ディアナもアクアの触感を気に入ったのか、少しだけ笑みを浮かべているように見えた。

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