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035 初めての獲物

「本当にゴブリンがいたんだ……」


 ディアナの言っていることは正しかった。


 ということは、ディアナは誰よりも先にゴブリンの接近に気が付いたことになる。


「どうしてゴブリンだってわかったの?」

「音です。ゴブリンの足音だったので」


 それっきり、なにも言わなくなってしまうディアナ。ディアナにとってはそれだけ当たり前のことなのかもしれない。


 ディアナの耳が良いことは知っていたけど、聞こえた足音からモンスターの種類を当てるのはすごく難しいことなような気がする。


 でも、ディアナはそれをやってのけた。


 もしかしたら、そういう訓練も積んでいるのかもしれない。


 昨日見たディアナの戦闘能力を思い出す。あの戦闘能力を持ちながら、この索敵能力。それも、七歳で。


 そんなことが可能なのかと思うけど、実際にディアナはできる。


 どれだけ血の滲むような努力をすれば、それが可能になるのだろう?


 僕には想像もつかない世界があることだけはわかった。


「ディアナってすごいんだね……」

「ありがとうございます」


 ディアナは、いつもと同じなにを考えているのかわからない無表情でコクリと頷いた。


「お? なんだ、お前たちも来たのか」


 その時、父上が僕たちを見つけたのか、大剣を背負いながら僕たちに近づいてきた。


「父上、お疲れさまです」

「いや、ただのゴブリンだからな。肩慣らしにもならんさ。それより、これはディアナがやったのか?」


 父上が指差した先、そこには首から苦無が生えたゴブリンが倒れていた。


 ディアナがコクリと頷くと、父上も頷いた。


「さすがディアナだな」

「ありがとうございます」

「うむ。そうだな……。キース、モンスターと戦ってみたいか?」

「いいんですか!」


 命を奪う行為には、ちょっと怖い思いもある。でも、それ以上にわくわくした。


「うむ! 今日はキースの初陣だからな。初陣に相応しいモンスターが出たら、キースたちに任せよう。オレが後ろから見てるから、なにかあっても大丈夫だぞ?」

「やったー!」


 こうして、父上の言質を取った僕は、ウキウキしながら木こりたちと一緒の場所で父上に呼ばれるのを待っていた。


 待っている間は暇なので、父上と警備隊のみんなを観察していると、あることに気が付いた。


 それは、警備隊がまるで三角形を作るように展開している点だ。


 そしてもう一つ気づいた点。それが、警備隊の作る三角形の中心に父上がいること。


 たぶん、警備隊のみんなは、モンスターを一早く発見するための警報機のような役目をしているのだろう。


 そして、父上がモンスターを発見した方向に急行し、一緒にモンスターを倒す。その間、残り二人の警備隊は、場所を動かず、モンスターの接近を警戒している。


 父上という主力をいかんなく発揮させる陣形だと思った。僕が知ってる知識で近いので言うと、ドイツ軍が考案したという機動防御の考えが近いかもしれない。


 でも、一度に二か所以上でモンスターが見つかった時はどうするんだろう?


 その対処法もちょっと見てみたい。


「キース! 来い!」


 ディアナと話したり、いろいろ考えながら時間を潰していると、ついに僕の出番がやってきたようだ。


「はい! 行こう、ディアナ! さっきも言ったけど、僕にも獲物を残しておいてよ?」

「かしこまりました」


 僕とディアナは、僕たちから見て左側の警備兵の下へと急ぐ。警備兵の所には、もう父上が到着していた。


「着きました!」

「うむ! キース、あれを見てみろ!」

「はい!」


 父上の指差す方向を見ると、まるで大きな雫のような見た目のモンスターがいた。その身体は半透明で、草を消化中なのか、全身が緑色に見える。モンスターの中でも定番中の定番モンスター、スライムだ。


「おお!」


 僕は『レインボー・ファンタジー』にも登場したモンスターを見てテンション爆上がりである。しかも、スライムは僕の大好きなモンスターだ。クッションや枕、コースターなどのグッズまで持っていたほどである。


 あのほにょん、もちもちとした見た目がなんとも癒されるんだよね。見ているだけで癒しの効果があると思う。


 いつか本物を触ってみたいと思っていたモンスターの一つだ。絶対にぷにぷにでひんやりしてて気持ちがいいと思う。


「キース、あれがスライムというモンスターだ。ああやって植物を摂取して枯らしてしまう。スライムが大量発生した後は、なにもかもが食べられて、砂漠のような土地になってしまうんだ。見つけたら、即座に倒さないといけない」

「はい……」


 そっか。僕は好きなモンスターだけど、この地で生きる人々にとっては害のあるモンスターでしかないのだろう。ちょっと悲しい。


「スライムは、体が酸の液体でできているんだ。この個体は酸と言っても弱い酸だがな。よく見るとまだ色が薄いだろ? それに、いつまで経っても葉っぱを消化できていない」

「なるほど……」


 葉っぱを消化しきれないほど弱い酸なら触っても大丈夫かな?


 父上には怒られるかもしれないけど、どうしても触ってみたいんだよね。


 それに、父上の教えてくれた知識には抜けがある。『レインボー・ファンタジー』の公式資料集を読んだ僕の方が詳しい。

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