034 初めての森
「はえー?」
ボトッと乾いた大地に落ちるサンドリザードの首。その口からは、長い舌がベロンと垂れていてかなりグロテスクだ。
その向こうでは、父上が大剣を振り抜いた姿で残心している。
どうやら、父上が一撃でサンドリザードを仕留めたらしい。
「よし、お前ら! ちゃっちゃと解体すっぞ!」
「「うっす!」」
そして、父上が周囲を警戒する中、警備隊の面々がサンドリザードの死体に群がっていく。
どうやらサンドリザードを解体するらしい。
解体にちょっと興味あるな。僕は警備隊のみんなが集まってる場所へと歩いてく。
近づくと、どんどん生臭い臭いが漂ってくる。
「ちょっと見せてもらってもいいかな?」
「坊ちゃん? 見てても面白くともなんともないですぜ?」
トムの後ろから覗き込むと、三人とも熟練を感じさせるの速さでサンドリザードを捌いていく。もうとっくに腹が切られ、いらない内臓や骨なんかを外して捨てていた。
「こいつはですね、内臓に毒があるんで食べられないんですわ。これ、これが毒腺っていう毒の塊ですね。こいつとか腸を破ると汚れた肉が食えなくなっちまうんで、捌く時は気を付けるようにしてます」
「へー」
トムが黄色い臓器を見せながら解説してくれる。しかし、解説はしながらもその手は止まることはない。もう見なくても捌けるくらいサンドリザードを捌いてきたのだろう。
「うし、これで終わりです」
コモドオオトカゲほどあったサンドリザードだけど、内臓や骨を外すと、ランドセルくらいの大きさになった。大きなサンドリザードだったけど、それだけ食べられる部分って少ないんだなぁ。ちょっと悲しい。
「終わったか? では、行くぞ!」
サンドリザードの解体も終わり、再び僕たちは山のふもとの森を目指して歩き出す。
たぶん、北に向かっているのだろう。僕の頭の中には、『レインボー・ファンタジー』で見た世界地図が完璧に入っている。この前方に見えるローダス山脈の向こうが、マクマホン辺境伯の領地のはずだ。
山や森にはモンスターが出るから護衛が必要だ。そして、普通ならそんな人件費や危険を冒して、貧乏なアクロイド村まで行商に来る商人などいない。
でも、マクマホン辺境伯が補助金を出して、行商人を派遣してくれているらしい。
マクマホン辺境伯に感謝だね。
そんなことを思っていると、森のすぐ目の前まで来ていた。だいたい二時間くらい歩いただろうか。久しく感じていなかった青臭い匂いを感じる。
「うむ、到着だな。植林状況を確認したら、すぐに伐採にかかるぞ!」
「「「「「おお!」」」」」
意外だったけど、父上たちは植林をしているらしい。緑の大地を少しでも広げようという考えかな。
「ふむ……。やはりダメか……」
しかし、状況は芳しくないらしい。
どうも一定の場所になると、急に植物が元気をなくしてしまうようだ。それで、植林が上手くいっていない。
森の淵を横から眺めれば、綺麗にまっすぐ線を引いたかのように森と砂漠が分かれている。その線を超えると、植林が上手くいかないようだ。
やっぱり、これはあの影響かな?
「よし! うだうだしてても仕方がない! 伐採するぞ!」
「「「「「おう!」」」」」
「オラたちの出番だぜー!」
「働くべ!」
「やっぞやっぞ!」
三人の木こりが、それぞれ持ち場が決まっているのか、それぞれ別の木に斧を叩きつけ始める。
コーンッ、コーンッと子気味いい音が辺りに響き始めた。
なんだか長閑だなぁ。
でも、そう思っているのは僕だけみたいで、父上や警備隊のみんなは、しきりに辺りを見渡し始める。
そうか。モンスターのいる森で音を立てたら、そりゃモンスターに襲われるよね。だからみんな警戒してるんだ。
僕も首をキョロキョロさせて周りを見渡す。でも、背の小さな僕には見渡せる範囲は限られていて、木や草しか見えない。
「はぁ……」
今回は、僕の初めての外出だ。ここで活躍して、父上たちに僕の強さをアピール出来たらよかったんだけど、ちょっと難しそうだ。
さっきのサンドリザードも、結局父上が一人で倒しちゃうし、僕の活躍の機会はあるのだろうか?
なんだか落ち込みそうになっていると、隣にいたディアナが突然腕を振り上げた。
「え? どうしたの、ディアナ? トイレ?」
ディアナも緊張しているのかと思って声をかけたら、ディアナはゆるゆると首を左右に振った。
「獲物、倒しました」
「え……?」
「おそらく、ゴブリンで――――」
「ゴブリンが出たぞー!」
ディアナの言葉に被さるように、トムの声が森の中に木霊する。
すると、父上がトムの援護に向かう。
僕たちも行ってみよう。
「行ってみよう!」
僕がそう言うと、ディアナがコクリと頷いた。
僕が駆け出すと、ディアナも僕の後に続くように走り出す。
茂みを抜けると、そこには五体のゴブリンの死体と、大剣や剣を振ってゴブリンの血を落としている父上とトムがいた。
もう戦闘は終わっちゃったみたいだ。
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