033 初めての村の外
「おはようございます!」
一歩、家から歩き出すと、庭にはいつものトムたち警備隊のみんなが揃っていた。
三人とも腰に剣を佩き、各人が思い思いの武装をしている。中には弓を持っている者もいた。
「うむ。おはよう!」
「おはようございます!」
父上と一緒に挨拶すると、警備隊のみんなが頭を下げた。
警備隊の後ろには、一緒に頭を下げている逞しい男たちがいた。大きな斧を担いだ三人組だ。この人たちが、今回の護衛対象である木こりらしい。
今回は、木こりたちを護衛して、森に木を切りに行くのが目的だ。
「昨日伝えたが、今回はキースとディアナが参加することになる。ディアナは強い。おそらく、度肝を抜かれるぞ? そして、キースは昨日オレとの模擬戦で引き分けだった。ちなみに、オレは手を抜いていないぞ?」
「「「「「おぉー!」」」」」
トムをはじめ、警備兵や木こりたちまで驚いた表情で僕を見ている。模擬戦の結果は昨日のうちに伝えたのかと思っていたけど、ひょっとして、トムたちを驚かせるために敢えて言わなかったのかな?
父上は子どもみたいなところがあるからなぁ。ありそうだ。
「それは心強いですね! これでアクロイド領も安泰だ!」
「坊ちゃん、おめでとうございます!」
「こいつは驚いた。なあ?」
「んだんだ!」
トムをはじめ、警備隊のみんなも木こりたちも口々に喜びの声をあげる。
五歳の子どもが父上を倒したと聞いて不思議に思わないのだろうか?
もしくは、父上の言葉には全幅の信頼を置いているのかもしれない。
「キースはトムを知ってるな?」
「はい!」
「困ったことがあればトムに言え。トムはなんでも知ってるぞ。何でも質問してみろ」
「はっはっはっ。あまり無茶は言わんでくださいよ?」
「トム、よろしく頼む」
「任されました。よろしくお願いします、坊ちゃま」
「うん!」
「話は纏まったようだな? では、行くぞ!」
「「「「「おおー!」」」」」
いよいよ出発みたいだ。わくわくするね?
これから、生まれて初めて村の外に出る。そこは夢にまで見た『レインボー・ファンタジー』の世界だ。これでわくわくしないなんて嘘だね。
「みなさん、お気を付けて。キースとディアナのこと、お願いしますね」
「「「「「はい! 奥様!」」」」」
母上の言葉に男たちが大声で答える。みんなビシッと姿勢を正して、母上に答える時だけ真面目そうだ。中には露骨に顔を赤くしている者もいる。なんとなく、みんな母上のことが好きなんだなぁとわかる瞬間だ。
まぁ、母上は美人だからね。それに、アクロイドの出身じゃないからか、肌が白くて綺麗なんだ。
「あなた、くれぐれもキースとディアナのこと、頼みましたよ?」
「任せておけ!」
そして、いよいよ出発である。
父上を先頭に村の外に向かって歩き出す。僕とディアナはトムと一緒に集団の後ろの最後尾を歩いていく。
「領主様! ご武運を!」
「みんな、がんばれよー!」
「今日はキース様の初陣だってよ!」
「本当か!? こりゃお祝いしなくちゃな!」
「あとでみんなで野菜届けようぜ!」
「いいなそれ!」
これから畑に向かうのだろう。村人たちからの声援を浴びて、僕たちは村を覆っている水のヴェールを抜ける。
その途端に風が吹き、砂がベシベシと顔に当たる感覚がした。これはマスクしないとダメだな。
僕はそっと母上の用意してくれたマスクで鼻と口を覆う。隣を見ると、ディアナもマスクで鼻と口を覆っていた。前を見れば、父上やトムたちもマスクを身につけている。シンディーの教えもちゃんと守られているようだね。
「よいしょっと!」
僕は村に展開している水のヴェールの魔法の小さいものを発動する。
「ありがとう、キース」
「これが坊ちゃんの魔法……!」
「これって、村を覆っているのと一緒ですよね!?」
「すげー! 呼吸が楽になったぞ!」
「マスクを着けなくてもいいってのは楽っすね。マスクで蒸れなくて快適です」
次々とマスクを鼻からズラしていく男たち。役に立てたようならよかったよ。
まぁ、この水のヴェールの外に出なくちゃいけないこともあるだろうから、完全にはマスクを外せないのはちょっと辛い。
「よし! では、行くぞ!」
「「「「「おお!」」」」」
僕たちは、村人たちが働く畑を抜けて、遠くに見える山の麓にある森に向かって歩き出す。
なんだか、村から離れると砂漠一歩手前って感じの風景だなぁ。
村の周りは草が生えているけど、村から離れるごとにその姿が少なくなっていく。
最終的には、枯草のボールがコロコロ転がっていく、まるで西部劇に出てくるような荒野になった。
そんな中を、土煙を上げながら歩いていく。
土の粒子が細かいのか、歩くだけでもこの人数になると土煙が上がるんだ。
しかも、風が吹くとすぐに砂嵐になって、視界が終わる。
これはマスク必須な状況だね。できればゴーグルも欲しいけど、ガラス製品だし、使用に耐えられるゴーグルは高そうだなぁ。
そんなことを考えていると、集団の歩みが止まった。
「サンドリザードだ!」
父上の声が前方から聞こえてくる。
サンドリザード。この地域に生息するコモドオオトカゲくらいの大きさのトカゲである。粗食に耐えられるヤギくらいしか飼育していないアクロイド村にとって、貴重なタンパク源だ。
特に栄養を溜めている尻尾のお肉はおいしく、僕の大好物でもある。
もうサンドリザードと聞いただけでテンション上がっちゃうね。
僕はすでに死んでるサンドリザードの姿しか見たことないけど、生きてる時はどんな感じなんだろう?
そう思ってチラッと前を見ると、サンドリザードの太い首が空高く舞うのは同時だった。
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