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029 強くなりたい

「え?」


 突然、頭を下げ始めたディアナに僕はビックリだ。


「頭を上げてよ、ディアナ。どうしたのさ?」

「私は負けてしまいました……」

「ああ」


 さっきの模擬戦で負けたことを気にしてるのかな?


「気にしないでよ。あれは予想以上に父上が強かっただけで、ディアナのせいじゃない」

「ご主人様……殺されてなくてよかった……」

「え? 模擬戦で負けたら僕が殺されると思っていたの?」

「負けは死です」

「えぇー……」


 そういえば、ディアナってボディーガードの、まぁ、暗殺者染みてるけど、一応ボディーガードの教育施設みたいなところで育ったんだっけ?


 そこでどんな教育をされていたかは知らない。


 でも、ボディーガードにとって、自分が負けたら護衛対象を危険にさらしてしまうのは間違いない。


 おそらく、ディアナは絶対に負けないようにという教育をされているのだろう。


 そして、自分の敗北は護衛対象の死だと極端な教育をされている可能性もある。


「ディアナ、今日のは模擬戦だから、命のやり取りなんてしないよ。決闘とは違うんだ」

「ご主人様、模擬戦に見せかけた殺人はいくらでもあります」

「そうかもしれないけど、今日の模擬戦の対戦相手は父上だ。父親が子どもを殺すことなんてないよ」

「? ありますよ?」


 ディアナが僕に頭を下げながら、こっちを見て首を傾げる。


「あぁ……」


 僕はなんだか頭が痛くなってきた。


 もしかしてだけど、ディアナって護衛対象である僕以外全員敵に見えているのだろうか?


 そこまでいかなくても、敵の可能性があると考えているのだろう。


 そう考えれば、負ければ死という考えには納得がいくし、ディアナが僕に頭を下げている理由も納得できる気がした。


「いいかい、ディアナ? この村の人たちはそんなに警戒しなくてもいいよ。特に父上と母上、そしてアビーは絶対大丈夫だ。あとシンディーもね」

「ご主人様、人は変わるものです。人質を取られて無理やり命令される可能性も捨てきれません」


 ディアナはどんな世紀末を想定して生きているんだろう?


 でも、ボディーガードとなると、いろいろな想定しないといけない。


「じゃあ、こうしよう。父上と母上だけは絶対大丈夫だ。この二人だけは何があっても信じられる。僕はこの二人ならたとえ殺されることがあってもいいんだ」


 そう。僕はそれくらい両親を信頼しているし、たとえ殺されるようなことがあっても恨むようなマネはしないだろう。


 きっと笑って逝けるに違いない。


 そう思えるくらい、両親にはたくさんのものを貰ったんだ。


 前世では親という生き物が信じられなかった僕だけど、今世で初めて無償の愛というものが実在するのだと信じられた。


「それは――――」

「だからね、ディアナ。僕はこれからも父上に挑戦するよ。どうしても村の外に出てみたいからね。そうだ。ディアナも父上と模擬戦したら? そしたら、きっともっと強くなれるよ」

「私も、もっと強く……?」

「そう。強くなれば、いろんな所に行けるからね。この世界は物騒だから……」


 街の外を歩いていたら、モンスターに襲われる世界だ。強いに越したことはないよね。


 それに、僕はこの『レインボー・ファンタジー』の世界を隅から隅まで存分に楽しみたいんだ。そのためには強さはもはや必須である。


「僕は将来、いろんな所を冒険したいんだ。この世界に行ったことがない場所がないくらいね。だから、ディアナも一緒に強くなろう! まずは父上に勝てるくらいに!」

「……かしこまりました。それがご主人様のお望みであれば」

「うん! がんばろうね!」

「はい」


 そして、何か納得できる部分があったのか、ようやく頭を上げるディアナ。


「では、私は旦那様と奥方様にご主人様がご起床なされたことを報告してまいります」

「うん。よろしくね」


 ディアナはその場で一礼すると、そのまま部屋を出て行く。


 僕はそのまま体の力を抜いてベッドにバタンと倒れた。


「負けたかぁー……」


 模擬戦の最後の方は記憶が曖昧だけど、僕がベッドにいるということは気を失ったということ。つまり、負けたということだ。


「まさか父上があんなに強いなんて……。『アクロイドの猛虎』って何だよ? かっこいいなぁもー!」


 いつもは母上の尻に敷かれているイメージしかなかったけど、父上があんなに強いとは思わなかった。


 まぁ、自分で自警団の先頭に立ってモンスターと戦っていると言っていたし、弱くはないとは思っていたけど、あんなに強いのは予想外だ。


 これは、村の外に出るのはかなり遅れてしまうかもしれないなぁ。しかも、村の中までモンスターが侵入することは滅多にないので、レベルアップもできない。


 村の外に出るためには強くならなくちゃいけなくて、強くなるためには村の外でモンスターを倒さないといけない。


 うん。完全に矛盾してるね。


「どうしろっていうんだよ?」


 僕はジッと天井を見ながら考えていると、ノックの音が飛び込んできた。


 おそらく、ディアナの報告を聞いて、父上たちが来たのだろう。

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