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028 キースとマークの模擬戦③

 水の鎧で父上の大剣を弾いて一安心したのもつかの間。目の前の父上が天高く大剣を構えた。


 なにか恐ろしい必殺技がくるに違いない。妨害しないと!


「投網五連!」


 僕は、まるで蜘蛛の巣のような形をした水の投網を五連射する。


 でも、その瞬間、父上の纏う雰囲気が変わった。


 まるで一本の見事な日本刀を見た気分がした。


 そして、気が付けば僕は水の鎧を断たれ、濡れた地面に尻餅を突いていた。


 何が起こったのかわからない。すべては僕の理解を超えていた。


 そのまま地面に倒れ、抗いがたい眠気に襲われる。


 反抗する間もなく自然と瞼が閉じ、僕は意識を失った――――。



 ◇



「キース! あなた!」


 わたくし、クレア・アクロイドは模擬戦の終了を覚って、急いで二人に駆け寄りました。


 近くに駆け寄ってキースを抱き上げると、キースはまるで眠っているような穏やかな顔で胸を上下させていました。それだけでわたくしは泣きたいほど嬉しくなります。


「あなたはだいじょ……ッ!?」


 次いで夫であるマークに視線を向けて、わたくしは驚きます。


 夫はまるで手負いの獣のような雰囲気でした。


 大剣にもたれかかるようにして地面に片膝を着いて、俯いたまま荒々しく息を吐いています。時折、咳もしています。


 それどころか、意識がないのか、それとも反応する余裕もないのか、わたくしの声にも気付いていない様子です。


 いつも先頭に立って戦って余裕綽々で帰ってくる夫のこんな姿は初めて見ました。


「シンディー、早く二人を診てください!」

「はい!」


 わたくしの声に弾かれたようにシンディーが動き始めます。シンディーはアクロイド男爵領に呪いの解明のために派遣された研究者ですが、司祭の資格を持つ聖職者でもあり、治癒魔法の使い手でもあります。


「我、望むは貴き光の癒し。ヒール!」


 シンディーは♀の形をした教会のシンボルを手に取ると、呪文を唱えてキース、夫に治癒魔法を施していきます。


「がはッ!」


 すると、夫が水の混じった盛大な咳をすると、ゆっくりと顔を上げました。


「ここは……? そうか、オレはキースと……」

「あなた! 大丈夫ですか!?」

「キースは? キースはどうなった?」

「キースならここに!」


 抱いていたキースを夫に見せると、夫は安堵したような顔を浮かべた。


「ふぅー……」

「あなた……? どうなさったのですか? どこか体は痛みますか? 大丈夫ですか?」

「ああ、大丈夫だ。少し水を飲んだくらいだな」


 夫がいつものように軽口をたたくのが、こんなにも安心するなんて……!


「あなたもキースも、やりすぎです……。見ているだけで、わたくしは何度心臓を握り潰されるような思いをしたことか……」

「文句はキースに言ってやってくれ。まさかオレも本気を出す羽目になるとは思わなかった……」

「まあ!? あなたが本気を!?」


 わたくしは驚いてしまうと同時に妙に納得してしまいました。


 夫の剣技は、武術を嗜まないわたくしの目から見ても、常軌を逸していました。いえ、正確には速すぎて見えなかったのですけど……。


 ですが、あのアクロイドの猛虎と称される夫が本気を出さなくてはいけない相手。そして、本気を出してもこんなに疲弊する相手が、まさかキースだとは!


 しかし、それも頷かざるをえないことかもしれません。


 それくらいキースの魔法はすごかった。


 キースの使う魔法は強力で、見たことも聞いたこともない魔法のオンパレードでした。シンディーが言っていたキースが狙われる可能性にも納得がいきます。


 キースはまだ五歳。いったいどこまで成長していくのでしょう。


 おそらく、キースの行く先はとても高く、わたくしでは同じ景色を見ることはできないかもしれません。


 ですが!


 キースの翼を折ることはしたくありません。


 それはとても寂しいかもしれません。でも、キースの才能を潰すようなマネはしてはいけない。そう心に固く誓いました。


「キース……」


 わたくしはキースを強く抱き寄せます。


 どうかこの子の行く先に祝福がありますように!



 ◇



「ほあ!?」


 目覚めると同時に上体を起こすと、見慣れた壁が僕を出迎えてくれる。


 どうやら僕は自室のベッドで寝ていたらしい。


「あれ……?」


 たしか僕は、父上と模擬戦をしていたはず……。


「あっ!」


 僕は急いで体のあちこちを確認すると、どこも失ってはいなかった。


 記憶の中の最後にあるのは、ガラリと雰囲気の変わった父上と振り下ろされる大剣だ。絶対にどこか斬られたと思ったのだけど、どうやら僕の勘違いだったらしい。


 めちゃくちゃ怖かった……。もう死んだかと思ったもん……。


 生きていることに感謝だ!


「おはようございます、ご主人様」


 そうそっと呟くような声が聞こえた。


「え?」


 声のした方向を見れば、ディアナがポツリと立っている。あの模擬戦の後に着替えたのか、真新しいピカピカのメイド服だ。


「申し訳ございませんでした」


 ディアナがペコリと頭を下げた。

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