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026 キースとマークの模擬戦

「あなた、お疲れさまです」

「おう!」


 目の前では、母上が父上に布を渡していた。


 気絶したディアナは、シンディーが受け取っている。


「ディアナは大丈夫なの?」


 僕が問いかけると、シンディーは心配ないとばかりに笑顔を浮かべて口を開いた。


「呼吸もしてますし、心臓も動いています。たぶん、衝撃で気絶しただけでしょう。心配ありませんわ」

「ならいいけど……」


 まぁ、どこも怪我はなさそうだし、シンディーが言うなら大丈夫なのだろう。


「うーん……」


 それにしても……。


 父上とディアナの模擬戦を見て、僕は思った。まず、攻撃を察知できなければ、防御することもできない。このままでは負け確だ。


 そして、父上に勝てるビジョンが浮かばない。このままでは、ずっと村の外に出ることができないんじゃないか?


 でも、僕は早く村の外に出てみたい。どうにかして、攻撃を察知する術を見つけないと……。


 なにか、なにかないか……。どうにかして、父上の攻撃を……。


「あ、そうか……!」


 これならいけるか?


「よし、次はキースの番だ」


 父上が僕を呼んでいる。もう試している時間はない。


 ぶっつけ本番だけど、上手くいってくれよ!


「キース、がんばってくださいね。怪我だけはないように」

「キース坊ちゃま、ファイトでございますよ」

「キース様の力、見せてください!」

「うん!」


 みんなの声援を受けて、僕は父上と対峙する。


 大きい。


 元から大きい父上だけど、大剣を構えた父上はいつもよりも大きく見えた。


 気圧されるものがあった。知らず知らずのうちにゴクリと固い唾を飲む。正直、少し怖い。父上を怖いと感じたのは初めてのことだ。


「ルールは覚えているか? この銀貨が地面に落ちた時、模擬戦の開始だ」

「はい!」


 緊張からか、上ずった声が出た。それを恥ずかしいと思う余裕すらないのがヤバい。


「緊張しているのか? まぁ、やっていれば慣れてくるさ。じゃあ、いくぞ?」


 そう言って、気楽な様子で銀貨を弾く父上。


 空高く上がった銀貨が太陽の光を浴びてキラキラ光っている。


 そのままくるくる回って落ちてくる銀貨。


 それが今、落ちた――――!



 ◇



 オレ、マーク・アクロイドは、空を舞う銀貨を見ながら、楽しみ半分怖さ半分の気持ちでその時を待っていた。


 こんな気分は久しぶりだ。


 久しぶりに感じる強者の気配。


 それをまさか初めて模擬戦をする息子から感じるとは!


 ディアナからは感じなかったが、あれは自分の気配を消すことに長けている。おそらく、自分で強者の雰囲気を消していたのだろう。それはそれですげー技術だと思う。


 実際、ディアナは七歳とは思えない戦闘能力だったしな。ディアナがキースの護衛に就いてくれるなら、オレも少しは安心できる。


 だが、もしかしたらだが、キースはディアナよりも強いかもしれない。


 さすがにそんなことはないとは理性ではわかっているのだが、オレの勘がそう囁いている。親の欲目もあるかもしれないが、キースの方が強いと。


 オレもキースの特異性は散々シンディーに叩き込まれたのでわかってるつもりだ。その潜在能力は世界でも屈指だろう。


 だが、今はまだ花開く前の蕾。いや、まだ発芽したばかりかもしれない。


 手折るようなマネはしない。その成長の第一歩になれればいい。


「ふっ……」


 弱音を吐くわけではないが、オレもアクロイドの生まれだ。この地に生まれた者は、塵肺とかいう呪いのせいか、短命で知られている。


 オレだってたまに呼吸が苦しいと感じることがあるのだ。


 自分の運命を嘆くつもりはない。


 この地で生まれた者は、短い命の中で次代に希望を託すことで命のバトンを繋いできた。


 オレも少しでも多くのものをキースに残してやりたい。


 あいにく、オレは頭は悪いし、自慢できるものと言ったらこの腕っぷしの強さしかない。


 だから、少しでもキースを鍛える。


 キースとディアナを鍛えて鍛えて鍛えぬいて、キースの取れる選択肢を少しでも多くしてやる。


 それがオレの夢だ。


 まぁ、今日はキースにとっては初めての模擬戦だからな。戦い方もろくにわかるまい。


 最初は適当にキースに魔法を撃たして、実力の差をわからしてから、軽く手刀で気絶させればいいだろう。


 そんなことを考えていたら、銀貨が地面に落ちる。


 その瞬間――――!


「水よ!」

「はあ!?」


 まるでキースを守るように水がキースを中心に生まれていく。そうしてできたのは、キースを内包した大きな水の球体だ。


 呼吸とかどうしてるんだろうな?


「うお!?」


 突然できあがった水の球体を眺めていると、ドドドドドドドドドッと連続でオレの頭くらいの大きさの水玉が高速で飛んできた。


 ウォーターボールの魔法か。


 しかし、数が異常だ。こんなに大量の魔法を人間が行使できるものなのか!?


 このオレが避けるのが精いっぱいだと!?


 いや、これは!?


 まるで壁が迫ってくるように避ける余地のない面での水玉の攻撃。


 キースが魔法に長けているのはわかっていた。だが、これは――――!?

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